米国中小企業の経営者、「前例ない空前の楽観」─ 即時償却で

2018/07/06

 

旺盛な設備投資で、金利上昇もこなし、力強い景気拡大と株高が向こう数年間、続きそうです。

米国中小企業の経営者:18ヵ月連続、先行きを楽観

中小企業の業界団体である全米独立事業者協会(NFIB)が集計する中小企業楽観度指数が一段と上昇しています(5月調査、6月12日公表)。中小企業経営者の楽観度は「調査開始以来の45年間で2番目に高い歴史的水準」(NFIB)まで高まってきました。

原動力は、トランプ政権の税制改革(トランプ減税)を好感した各社それぞれの業績期待です。2016年11月に大統領選でのトランプ氏勝利直後に、楽観度指数は大きく跳ね上がりました(図表1の矢印参照) 。それ以降18ヵ月連続で中小企業の経営者の「前例ない空前の楽観」(unprecedented optimism)が続いている、とNFIBは述べています。

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メイン・シナリオ:2023年景気後退まで株高続く

アンケート形式のNFIB調査を回答項目別にみると、「事業拡大を計画する」(Expansion Plans)企業の占める割合が過去最大となりました。「先行き増益を見込む」(Positive Earnings Trends)企業や「賃金引き上げで従業員をつなぎとめる」(Compensation Increases)企業も過去最大です。

事業拡大を計画するには、経営資源──すなわちヒト、モノ、カネの投入が必要です。モノの投入である設備投資については、トランプ減税の中心に据えられた「即時償却」(full expensing)が起爆剤になっています。与党共和党を二分した論争「大企業か?中小企業か?」の末に、中小企業の重視策として法制化された経緯があります(注)。米国景気は力強く拡大していますが、近年、弱まっている経済成長力(潜在成長率)を高めることが即時償却の主眼です。

(注)MYAM Market Report「米国中小型株、上昇力で大型株に勝るか─トランプ減税で」(2018年6月1日)参照。

即時償却とは、設備投資した年に、要した費用を全額、費用に計上することを認める特例措置です。通常、設備投資に要した費用は、税法が定める耐用年数の到来まで毎年、少しずつ費用に計上する「減価償却」をしなくてはなりません。例えば日本で、法人が業務用に新車を購入するケースを想定しますと、法定耐用年数の6年間にわたり減価償却します。新車でなく、ベンツやレクサスなど値落ちしにくいとされる高級車であえて4年落ち中古を好む企業経営者も少なくないようですが、即時償却できるからです。即時償却することで、設備投資した年の税額を(減価償却する場合よりも)節約でき、資金繰りが楽になる利点があるのです(図表2参照)。日本では、中小企業の経営者にとって「4年落ち中古車は節税対策の定番」とも言われるゆえんです。

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米国ではより大規模に、即時償却が法制化されました。向こう5年間は即時償却を100%認める特例措置です(6年目以降は枠を縮小)。企業は税額が減る反面、政府には(一時的ながら)大幅な税収減となるため、35%の法人税率は、トランプ大統領が公言した15%でなく、21%への引き下げが精一杯でした。共和党指導部は「一時的に財政赤字が急拡大しても、設備投資の加速で長期的に潜在成長率が高まり、税収増にもなる」と考えたのです。

トランプ減税を受け、IMF(国際通貨基金)は4月の世界経済見通しで「米国景気は力強く拡大」「景気減速感が強まるのは2023年頃」との見解を示しました。中小型株を中心に、23年頃までは(上下動しつつも)米国株高が続きそうです。

リスク・シナリオ:金利上昇による「景気腰折れ」

IMFは同時に、(発生確率の低い)リスク・シナリオとして「金利上昇による景気腰折れ」にも言及しています。銀行貸出金利が上昇すれば、借入れが困難となり設備投資が減って景気が悪化する、とのシナリオです。市場でも一部ながら「金利上昇で2019年に景気後退」との憶測も聞かれます。しかし、即時償却で資金繰りが楽になり、浮いた資金を事業拡大や賃金引き上げ等に充て始めた中小企業が「銀行貸出金利上昇」のみを理由に設備投資を断念するとは考えづらく、あくまで発生確率の低いリスク・シナリオのようです。

明治安田アセットマネジメント株式会社
明治安田アセット/ストラテジストの眼   明治安田アセットマネジメント株式会社
かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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