解消した二つの不確実性

【ストラテジーブレティン(214号)】

米中貿易戦争が米国リセッションの引き金を引く可能性はなくなった
万人注目のブエノスアイレス米中サミットが終わった。共同声明の発表はなく、米中双方の発表から全体像を推測するしかない会談であった。日経新聞は「米国が年明けに予定していた中国への追加関税を猶予することで合意した。米中は知的財産保護など中国の構造改革を巡り協議を続けるが、米側は90日以内と期限を区切り、合意できなければ関税を引き上げる方針だ。交渉決裂による貿易戦争の激化は当面回避したが、抜本的な解決につながるかは不透明感も強い」と報じている。

但し、議題や交渉期限などを巡り両国の発表内容には食い違いが大きかった。米国側の声明では発動猶予は中国の構造改革を条件としている。(1) 米企業への技術移転の強要(2) 知的財産権の保護(3) 非関税障壁(4) サイバー攻撃(5) サービスと農業の市場開放―の5分野で協議し、90日以内に結論を得るとした。それまでに合意できなければ、2000億ドル分の関税は当初計画通り25%に引き上げる。他方、中国側声明は、関税引き上げ猶予に加え、米国が現在25%の関税を課す500億ドル分の制裁措置も「取り消す方向で協議する」(王受文商務次官)とした。中国側の発表は協議期限を示さず、サイバー攻撃や技術移転の強要など具体的な交渉項目に触れるのも避けた。

メディアの大勢の評価は「一時休戦、問題先送り」であり、懸念の種は全く消えていない、というものである。そうだろうか。最も重要な変化は、①米中覇権争いの本質は変わり様がないこと、②米中双方が、当面の経済と市場への影響を最大限の努力で回避したということ、の2つである。そもそも米中覇権争いに、根本的な妥協点はない。あるのはいかに相手を押し込むかということだが、その際の最重要戦術として、目先の経済安定を優先した事実は大きい。今後米中貿易戦争が米国のリセッションの引き金を引くことは起きないのではないか。90日後に中国の妥協が得られず追加制裁が発動されたとしても、発動の米国経済への影響を細心の注意でチェックされた後であろう。不確実性は大きく解消されたのである。

>>続きはこちら(366KB)

株式会社武者リサーチ
「論理一貫」「独立不羈」「歴史的国際的視野」をモットーに、経済と金融市場分析と中長期予想を目的とし提供していきます。
著作権表示(c) 2013 株式会社武者リサーチ
本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。本書および本書中の情報は秘密であり、武者リサーチの文書による事前の同意がない限り、その全部又は一部をコピーすることや、配布することはできません。