新BPR革命の始まり

2012/05/28

【ストラテジーブレティン(71号)】

衝撃的クラウドとインテリ・ターミナルの登場
クラウドコンピューティングとスマートフォン、SNS等による新たな産業革命と、企業のビジネスモデル大変革の輪郭が見え始めた。20年前、PC・サーバーによる分散処理の普及によりBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)革命が引き起こされ、ビジネス風景と企業コストが一変したが、クラウドコンピューティングの新体系はそれを凌駕する変革をもたらす可能性がある。

クラウドコンピューティングの登場と通信コストの劇的な低下により、データベースと情報処理全てを彼岸(ひがん=向こう岸)に任せ、此岸(しがん=こちら岸)はターミナル(端末)のみ、という時代が到来した。そのターミナルは手のひらに乗るスマートフォン、タブレット、PC等のインテリジェントターミナル。消費者向けではスマートフォンで実現しているこの仕組みが、いよいよ企業システムの中枢に入りこみ始めた。彼岸が壮大なプロセスをいともたやすく、安く提供してくれる時代となる。まるでアラジンの魔法のランプのごとく此岸には何もなくても、彼岸が究極のソリューションを一体的に提供してくれる。此岸には目的意識と意欲さえあればよい。大企業内に囲い込まれた従来の閉鎖IT体系は、彼岸での能力向上により競争力を失いつつある。

次々に変転するハイテク旗艦企業
図表1は米国で最も大切なハイテク産業のリーディング企業の株価(ピーク時=100)の推移である。過去30~40年の間に、旗艦企業が次々に入れ替わっていることに驚かされる。 1980年代半ばまではIT産業の中核はIBM、ユニシスに代表される大型メインフレームコンピュータの時代であった。しかし1990年代に入り、コンピュータシステムはPC、サーバーによる分散処理の時代となりインテルとマイクロソフトが旗艦企業となった。そして現在はクラウドコンピューティングとスマートフォン、インターネットを代表するアップル、グーグル、アマゾンが旗艦企業となっている。リーディングカンパニーが何十年も変わらない日本と比べて、米国では十数年単位でハイテクのフラッグシップカンパニーが交代し続けていることが如実にわかる。

しかも注目すべきは、現在のリーディングカンパニーが1990年代末から2000年のITバブル時代に産声を上げ、基盤を固めたという事実である。金融面では、野放図の錬金術とみられたITバブルだが、新興企業にとって必須の資金源を提供していた。ITブームは、決して単なる金融現象ではなく、起業家の揺籃器だったのである。

ハイテク旗艦企業の変遷の意義はハイテク産業内に留まらない。それは経済社会の神経系を根底的に変化させ、社会構造と企業構造を大きく転換させて来た。情報社会の枠組みは、コンピュータシステムの構成によって劇的に変化してきた。

(1) 1970年代は大型メインフレームコンピュータの集中処理(バッチ処理)
主役はBUNCHI-バロース、ユニパック、NCR、コントロール・データ、ハネウェル、IBM

(2) 1980年代は大型メインフレームのオンライン処理の時代
主役はIBMとDECなどのミニコンピュータメーカー

(3) 1990年代はPC、サーバー(インテリジェントターミナル)による分散処理の時代
主役はインテル、マイクロソフト、サンマイクロ

(4) 2010年代に入りインテリジェント端末とあらゆる処理、
データベースを雲の中で提供するクラウドコンピューティングの時代

主役はグーグル、アマゾン、アップル

また、情報社会のプラットホームの進化に伴って米国の産業組織は劇的に変化し、ビジネスモデルも変革を続けた。たとえば(3)の時代にはBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)革命が進行し、米国の企業組織は決定的にフラット化した。そしてそれはインターネット時代のプラットホームとなった。とすれば、端末の知能を再び召喚し、雲の中に隠すクラウドコンピューティングは、産業の主役を転換させるばかりか、産業組織ひいては全ての企業のビジネスモデルを根底的に覆す可能性を秘めている。

図表2はコンピュータ体系の進化と組織の変遷であるが、組織の基本形が20年前のBPRの時にそれ以前のピラミッド型からフラット型へ大きく変化し衝撃を与えた。今回のクラウドコンピューティング体系は、個人所有のインテリジェントターミナルが世界60億人と自由に交信し関係を取り結び、共同作業することを可能にする。人間関係の基本形が ピラミッド組織 ⇒ フラット組織 ⇒ (脱組織)ネット上の自由自在チーム、と変わるかもしれない。

このクラウドコンピューティングのあと一つの衝撃は、高速フィードバックによる急速な高知能化であろう。徒手空拳のベンチャーでも、彼岸にある最高情報と最高知見(インテリジェンス)との高速対話を繰り返す好循環に入ると、人知を超えた判断と意思決定が可能となる。目的意識と意欲にあふれるベンチャーにとってまさにチャンスの時代の到来である。

米国の優位性極まる
この新システムでは雲中のブラックボックスを誰が支配するかが、決定的に重要となる。ブラックボックスは全世界の知識と知能を集積する。この陣取りにおいて米国が突出した立場にあることは、明らかであろう。米国の産業・企業の進化は続き、新たなスタイルの経済の繁栄が始まる。米国の空前の企業利益とコスト低下、省労働・省資本の流れは、この新たなクラウドコンピューティング体系に大きく関係していると考えられる。繰り返しになるが、今はやりの「労働余剰(失業増加)、資本余剰(空前の低金利)の原因を金融資本主義、過剰金融緩和に求める風潮」は一面的すぎる見方であることを強調しておく。

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