2016年の相場展望~先進国の好況と中国経済不振の相克~
【ストラテジーブレティン(151号)】
ミラー:皆様、こんにちは。武者リサーチのミラーです。よろしくお願い致します。本日は、武者陵司先生に『2016年の相場展望 ~先進国の好況と中国経済不振の相克~』ということでお話を伺いたいと思います。2016年の相場展望の鍵となる要素は一体何なのでしょうか?
武者:はい。いよいよ年末、来年のマーケットを考えてみたいと思います。結論から言いますと、前半は世界の株高が続くと考えています。日経平均は恐らく22,000円から23,000円位の水準まで上昇していくでしょうし、アメリカの利上げも想定され、ドル円は130円に迫るような更なる円安があり得ると思います。このような2016年の相場展望において決定的に重要なのは、最大のブライトスポットであるアメリカがどうなるかということと、それからかく乱要因としての中国経済、この二つが大きなカギになると思います。
ミラー:最重要とおっしゃる米国景気なのですけれど、リーマンショック以降初めての利上げが12月に実施されることが確実視されているのですが、それは大丈夫なのでしょうか?
武者:私は大丈夫だと思います。むしろ利上げというのは、アメリカ経済が本当に良くなって、いよいよ一安心というシグナルと捉えられると思いますので、むしろ利上げの後は、マーケットは不確実性がなくなったということで、大きく上昇していく可能性が強いのではないかと思います。やはり重要なことは、アメリカを中心として世界の先進国経済は、景気の寿命と言いますか、サイクルがまだ若いということなのです。アメリカ経済は、言ってみれば五合目から六合目。日本やユーロ圏は、四合目から五合目位の水準だと思います。従って、これから循環的にも景気は本当に景気が過熱するまでのピークに向かっていよいよ拡大していく場面と考えます。
その中でも特に重要なことは、昨年来の原油価格の急落がいよいよ先進国経済を大きく押し上げるということだと思います。前回ご説明したと思いますが、先進国の景気は世界の原油価格の変化にほぼ完全に連動していると言えます。過去、世界経済は、原油価格が大幅に値上がりしたことによって何度も何度もリセッションに陥っている訳です。今回は昨年、原油価格がピークから半分以下という水準まで暴落しました。この原油価格の急落ということは、逆に言えば世界の経済、特に先進国経済にとっては、非常に大きな好材料と言っていいと思います。それがどれほどのマグニチュードなのかということを少し考えてみたいと思います。
日本とアメリカの化石燃料輸入額のGDPに対する比率を見てみますと、昨年日本はGDPの3.4%に相当する化石燃料を輸入しています。控え目にみても、これが半分に下がる訳ですから、GDPの1.7%相当の輸入代金が減るということです。非常に大きな景気押し上げ効果があると言っていいと思います。重要なことは、このような景気押し上げ効果は、前にもご説明した通り、原油が下落をすれば直ちに顕在化する訳ではないということです。その間に、だいたい18ヶ月のタイムラグがあります。つまり、去年の夏場から原油が下がって、その影響がプラスとなって経済に現れるのは、恐らく1年半後の今年の年末から来年の前半にかけてということです。これまでは、世界経済や世界の市場は、むしろ原油が下がったということのマイナスを一生懸命織り込んできたと思います。原油が下がったことで産油国の収入がなくなって、産油国が日本株を売るということが起こりましたし、それからまた、原油価格の下落によって資源株が大きく下落しました。資源国の通貨も売られました。つまり、原油が下がるということは、全部悪材料なのだと言わんばかりの市場の反応がここ半年、一年続いてきた訳です。しかし、実は原油価格の下落は先進国経済にとっては非常に大きなボーナスなのです。それがむしろこれから顕在化するというのが来年の前半の非常に大きな注目点だと思います。