年金運用思想転換、2014年日経平均22,000円へ
【ストラテジーブレティン(109号)】
日本の異常な株安(株式益回り7%、配当利回り1.7%、国債利回り0.6%、預金金利0%)をもたらした主体は、①デフレを容認した日銀と、②デフレが継続するという無自覚な確信の下で極端なリスク回避に徹した国内投資家群(年金・保険・銀行・個人)にある。日銀のデフレ容認姿勢は4月の黒田総裁による新量的緩和で大転換したが、国内投資家群の消極姿勢は依然変わっていない。よってこれまでの株価上昇はもっぱら海外投資家に牽引されてきたのである。
しかし、124兆円を擁する世界最大の投資家、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による公的年金の運用方針が抜本的に変わろうとしている。それはデフレ継続=リスク回避に凝り固まった日本の投資家姿勢の地滑り的変化を誘導するだろう。
11月末、公的・準公的資金の運用・リスク管理の高度化を議論する政府の有識者会議は、①国内債に偏った資産構成の見直し、新たなリスク資産への投資、②年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)改革、を求める提言をまとめた。有識者会議の提言は安倍首相に強く支持されていると見られるので、GPIF執行部は抵抗することはできないだろう。今後、①現行基本ポートフォリオの下で比率変更、②基本ポートフォリオの大幅な見直し、③GPIFの組織改革、という工程が進むだろう。
それはGPIFを見習っていた国内投資家の株式投資意欲を根底から押し上げ、株式の異常安(=マイナスのバブル)を是正させるだろう。
有識者会議座長の伊藤隆敏東大教授の主張は明快かつ至極妥当である
① 政府日銀の2%の物価目標達成は実現でき、今のままでは国債を過度に保有する年金基金は巨額の機会損失を被る。よってそうなる前に国債比率を引き下げるなど抜本的に資産構成を変化させるべきである。平常時なら巨額の売却は国債市場の波乱要因となりかねない。だが、黒田東彦日銀総裁が量的金融緩和を推進している今なら大丈夫だ。市場もGPIFの売りを歓迎する。物価と予想インフレ率、市場金利が上がってからでは危険だ。海外の事例などを考慮すると、「国内債は35~40%が一つの目指すべき姿」である。
② 公的年金であるGPIFは安倍晋三内閣と日銀が目指す2%の物価目標を共有しなくてはならない立場だ。達成が困難だと公言すれば、海外投資家はアベノミクスとGPIFのどちらが間違っているのかと混乱する。消費者物価と予想インフレ率が2%前後に高まれば長期金利は将来的には3%程度に上昇するのが自然な姿で、デフレからインフレに転換した経済・物価見通しに基づき、利益を追求すべきである。
③ インフレになっても満期保有すれば名目の損失は免れるとのGPIFの反論に対しては、消費者物価や市場金利の上昇に見劣りする機会損失を被れば「受託者責任を果たしていない」ことになると批判した。
有識者会議の提言は安倍首相に強く支持されていると見られるので、今後、①現行基本ポートフォリオの下で比率変更、②基本ポートフォリオの大幅な見直し、③GPIFの組織改革という順番で改革工程が進むだろう。
① 先ず第一段階として、現在の制度の下でのポートフォリオ変化が予想される。現在GPIFの基本ポートフォリオは、国内債60%、国内株12%、外債11%、外株12%、短期資産5%である(*)。また乖離許容幅は、国内債±8%、国内株±6%、外債±5%、外株±5%となっている。9月末の実績は国内債58.0%、国内株16.3%、外債10.1%、外株13.5%だったので、乖離率を限度まで広げれば、国債比率を6ポイント引き下げ、国内株1.3ポイント、外債5.9ポイント、外株3.5ポイントの引き上げ余地がある。それがここ半年間で実施されるだろうが、それは円安と株高を促進する。
※ 2006年の同法人設立から本年6月に初めて基本ポートフォリオを変更するまでは、国内債券67%、国内株式11%、外国債券8%、外国株式9%、短期資産5%だったが、国内債券を引き下げ、他の3資産を増やした。
② 次いで2014年6月ごろまでに、基本ポートフォリオの抜本見直しが実施されよう。見劣りしている国内株式の比率の大幅引き上げがなされるだろう。提言ではREIT(不動産投資信託)、不動産、インフラ、プライベートエクイティ(PE)、商品などリスク資産への投資を挙げている。また、日本取引所などが開発した新指数「JPX日経インデックス400」を例に挙げ、TOPIX以外の株価指数を早期に一部利用すべきだと推奨したほか、GPIFから小規模な運用組織である「ベビーファンド」を1年後をめどに創設するよう提言。複数の資産クラスにまたがる運用や新たな投資対象を一括して任せるなどの用途を挙げた。
③ 更に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の改革が実施されるだろう。まずは当面、閣議決定による人員数や給与水準の規制緩和と予算確保によって専門性が高い第一線の人材採用が始められ、次いで合議制で高い自主性・独立性を持つ組織に改編する法改正がなされるだろう。そもそもGPIFは世界最大の規模にもかかわらず、役員4名(三谷理事長は元日銀理事、大久保理事は厚生省出身)、職員75名と世界標準から著しくかけ離れており、力量不足は否めない。
伊藤教授は、年金財政検証が示す将来像のうち、市場運用の観点で「信頼できる予想は10年先まで」と指摘。その間にGPIFが賄うべきキャッシュアウト(年金受給者への支払い原資)は最大20兆円程度と予想した。この分はALM(資産・負債の総合管理)に基づく満期保有で運用しても、残り約100兆円は10年超の運用を前提に「ボラティリティ(時価変動)を気にせず、長期リターンを追求できる」と主張。期間と流動性のプレミアムを取って、長期保有できるのが年金の強みだとの見解を示した。(12月6日付 ブルームバーグニュースより) これらの主張は極めて論理的かつ妥当で、誰も反対はできないだろう。