日本株、100年に一度の波が来た

2013/04/25

【ストラテジーブレティン(98号)】

4月30日『日本株「100年に1度」の波が来た!』(中経出版)という著作を刊行します。以下では、『はじめに』、と『おわりに』、を掲載し、趣旨を紹介いたします。

『はじめに』
「日経平均株価は、2年以内に2万円を越えていきます」――。2012年11月以来日本株の急騰が始まり、今やっと、こうした株価予測を目にしても、「違和感を覚えない」時代になりました。日本株を専門に見ているエコノミストのなかにも、「1万5000円台まであがる」という“強気”な予測もでてきており、「日経平均株価は上昇するだろう」ということは多くの人の共通の見方となっています。

しかし、筆者は、4年前から言い続けてきた「日本株復活」の延長線上であり、現在の株価上昇はまだ「はじまり」に過ぎないと予測しています。つまり、現在予測されている「その程度」の上昇ではなく、「日経平均4万円も視野に入れた本格的な上昇」へとつながる序章に過ぎない可能性が高いのです。それは、日本株「100年に一度」規模の投資機会へとつながっていくと考えられるのです。

● 悲観論の呪文にかかっていた日本
読者の皆さんは「日経平均4万円、アメリカ・ダウ工業株10万ドル」の世界を想像できるでしょうか。「突拍子もない楽観論だ」「そんなことはあり得るはずがない」と否定する人も多いと思います。しかし、筆者からすると、そうした頭からの否定は深刻な「悲観論の呪文にかかっている証拠」に見えます。歴史の流れを本筋から見ると、現在は空前の経済繁栄の土台の上にあると考えられるからです。

現在、グローバリゼーション、技術革新、生産性の上昇とコストの急激な低下、ビジネスモデルの急速な変貌と進化といったかつてない”産業革命”が起きています。10年前に誰がスマートフォンやクラウドコンピューティングなどIT(情報技術)が可能にした現在の世界を予見できたでしょうか。近い将来も、新エネルギーやバイオ技術など、過去の「常識」を覆す変化が矢継ぎ早に訪れるでしょう。そうした技術進化は企業のビジネスモデルと人々の生活環境を大きく変え、経済成長の母である、「技術革新」と「生産性上昇」を今後も推し進めていきます。

それは人類がかつて経験したことのない「歴史的機会」だと言えます。アメリカ株は2013年3月ニューヨーク・ダウ工業株30種平均、S&P500指数ともに、史上最高値を更新しました。それは今がまさに「繁栄の時代」であることの何よりの証拠と言えるでしょう。

にもかかわらず、日本では、財政赤字、金融不良債権、格差拡大、人口減少、規制と既得権の存在などの問題点が過度に強調され、異常なほどの「悲観」が人々を支配してきました。マスメディアとオピニオンリーダーが声をそろえて「悲観論」を唱えた事により、多くの人々は「歴史の本筋」から目をそらされてしまったのです。財政赤字や金融危機は、いわば体の一部に出来た「おでき」に過ぎません。「おでき」にとらわれて本筋の「技術革新」「生産性上昇」を忘れた悲観論は、著しくバランスを欠いています。

筆者からすると、現在の日本は「枯れすすきを幽霊と見ておびえている」状況です。こうした環境下では「正体はすすきだ」と見破った時、驚くほどの株高が引き起こされます。悲観の度合いが大きければ大きいほど、株価の反発は大きくなります。日本人を支配している根拠薄弱な悲観論がかつてなく大きなものであるだけに、株価上昇も度肝を抜くほどの迫力あるものになる可能性があるのです。

● 何故日本株は上がるのか?

現在、日経平均株価均は1万2833円(2013年4月5日)と上昇の一途をたどり、すでに衆議院の解散総選挙が決まった2012年11月14日の前日終値であった8619円から、実に48・89%も上昇しています。これは安倍信三政権が打ち出している経済政策「アベノミクス」がきっかけで、「期待」によってもたらされた株高でした。しかしこれからは、実際に政策が打ち出され、市場と経済に影響を与え始めるのです。

その柱こそ、2013年4月4日に出された黒田東彦日本銀行新総裁による「新次元の金融緩和策」です。2年間で前年比2%の物価上昇を目指し、政策目標を金利からマネーの量に切り替え、市場に供給するお金の量を示すマネタリーベースを2年間で倍増させ、国債に加え上場投資信託(ETF)といったリスク資産も買い増すことを決めました。これは単純に考えて、マネーの供給量が2倍に増えるため、供給量が変わらなければ、株価は2倍、地価は2倍となり、円は(相手国通貨供給が不変なら)2分の1になります。この日銀の新政策派、まるで市場にバズーカ砲を打ち込むようなもので、資産市場と為替市場に大きな影響を与え続けることになるのは確かです。そして、投資家は日本株をはじめとしたリスク資産の取得に向かうでしょう。

筆者はリーマン・ショック後から「日本株は復活する」という持論を展開してきました。簡単に言うと、「株価があがる」というよりは、「株価が間違っている」、つまり「安すぎる」という指摘でした。これは日本経済について破綻、崩壊といった「悲観論」が主流のなかで、ほぼ唯一の楽観的な見方だったと言えるでしょう。リーマン・ショック以降、日本の株価は低迷し、これまでは「予想は外れた」といわれてきました。しかし、現在の日本株の動向を見る限り、筆者からすると、むしろ一貫して主張してきた「日本株の復活」が4年越しにいよいよ現実になりそうだ――というのが本音です。

それは日銀の新政策をはじめとしたアベノミクスの取り組みが起動しはじめ、1990年代のバブル崩壊後の日本の「失われた20年」の原因となった「長期円高」と「資産(株・不動産)価格下落」が是正され、「長期デフレ」から脱却するというシナリオに「筋道」がたったからです。つまり、日本経済復活に向けて本格的に動き出したのです。

●「日本株復活」がいよいよ現実になる
筆者は、アナリストとして30年間、市場を見てきて、幾度となく市場予測を的中させてきました。1990年代初頭からのアメリカの長期的復活と繁栄、1990年代の日本のバブル崩壊後の市場崩落と経済の停滞、2000年のITバブル崩壊などは、圧倒的多数が主張する「常識」に対して、たった一人の「非常識」と見られた予測でしたが、当たったのは筆者の方でした。唯一、2007年からリーマン・ショックまでの暴落過程では筆者の予想は大外れとなりましたが、その過程で主張してきた「楽観論」が現在になってやっと追いついてきたのです。

これから「100年に1度」規模の投資機会を迎える。筆者が考える「日本株復活」の5つの根拠は、次の通りです。
① 日本株は、リーマン・ショック以降、そもそも「割安」だった。
② アベノミクスの「金融緩和政策」は、日本病と呼ばれる「長期円高デフレ」を終わらせる。
③ アメリカの日本封じ込め策だった「超円高」は、アメリカの「中国封じ込め策」への戦略変更で終わりをむかえる。そして、アメリカは対中同盟国の日本経済復活のため、円安傾向をサポートする。
④ 世界経済の着実な回復基調が続く。力強さを増すアメリカ経済の本格拡大に支えられ、欧州債務危機、中国経済の失速も「大事」にはならない。
⑤ 「失われた20年」で鍛えられた日本の品質とコスト競争力が顕在化する。またデフレ終焉により、需給の不均衡を価格の変動を通じて自動的に調整する「価格メカニズム」が復活し、日本の構造変化を加速させ、内需を増加させる。

筆者はこの「日本株復活」のシナリオを、2段階で考えています。まず、第1段階は、アベノミクスにより、「長期デフレ」・「超円高」を脱却し、日本経済復活のスタートラインにたつこと。次に、第2段階目として、その先の「改革」により、世界の経済大国へと復活するというシナリオです。現在、アベノミクスに対する「金融政策ではなく構造改革が必要」「副作用が大きい」「デフレよりインフレの方が怖い」「日本国債が暴落する」など様々な批判がありますが、筆者からすると、多くは見当違いか、揚げ足取です。

日本株は、アベノミクスにより間違いなく、日経平均2万円まで上昇し、2段階目が進展すれば日経平均は4万円への展開が開けていくでしょう。つまり、これから「日本株の大復活」がはじまるのです。

『おわりに』
それにしてもなぜ日本人はこれほど悲観的なのでしょうか。そして、アベノミクスに対する批判が強いのでしょうか。アベノミクス批判の決定打は「そんなうまい話はあるものか」でしょう。「輪転機をフル回転させ紙幣を増刷するだけで経済が良くなる? そんなうまい話はあるものか」「悪銭身につかず、労せずして得る所得は、長続きはせずいずれ失われる」といった説明を受けただけで、「そうだ」と、妙に納得させられてしまうのです。

なぜでしょうか。それは説明が「倫理的」だからです。日本人が持ち続けた美徳、倫理、公正さ、律義さ、といった精神論に心を動かされるのです。そうした価値観からすれば「究極の安易の政策」が良策とは考えたくないのです。

しかしその倫理的信条こそが、適切な情勢判断の障害になっています。経済分析に必要なのは「因果関連」であり、政策に必要なのは「結果」です。そもそも紙幣や信用は経済活動にとって潤滑油に過ぎないので、結果を出すために自由に動かせばいいのです。それでは出すべき結果とは何か。

それでは結果とは何か。それは「遊んでいる人と資本を働かせ富と需要を生み出すこと」に尽きるでしょう。現在、日本をはじめ先進国が患っている共通の最大の”病”は、生産性が高まったために、労働と資本の余剰が空前の規模で発生している点にあります。それが大幅な失業の増加と空前の低金利をもたらしているのです。

この余剰を活用し、新たな需要が創造されれば、経済は発展し人々の生活水準は向上します。しかし余剰が遊ばされたままなら、デフレ、超低金利と失業の大発生となり経済恐慌に陥る羽目となります。マネーはこの、遊休資源(人と金)を需要に繋げる役目を持っているのです。政策はその目的のために動員されなければならず、超金融緩和に対する評価も、この一点でなされなければなりません。「超金融緩和は資産所得(=不労所得)をもたらし非倫理的である」と言う批判は、本筋ではないのです。

経済学者・ケインズは思想の弊害をこう述べています。「どのような経済の実際家(=実務家)たちも、過去のある経済学者の奴隷であるのが普通である」。官僚や政治家が間違えるのは過去の古い間違った思想を適用するからです。「良かれ悪しかれ危険なものは、既得権益でなく思想である」

アベノミクスで日本株・経済は「100年に1度」の機会を迎えています。今こそ日本人は、精神論から離れて、プラグマティック(実利的)に経済と金融に向き合うべきなのです。

(著作のご案内)
http://www.chukei.co.jp/business/detail.php?id=9784806147152

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