懐疑論を粉砕するQEの威力

2013/02/27

【ストラテジーブレティン(93号)】

一昨日発売の『週刊エコノミスト』は「金融緩和でデフレは脱却できるのか」、という半歩遅れの特集をしている。もはや賽は投げられたのであり、ルビコン川を渡ってしまったのである。「金融政策でデフレは終わるのか」、「デフレ終焉で日本経済は回復できるのか」、「過度の金融政策の発動は致命的副作用をもたらさないのか」、等という議論は今や、全て無用の空論である。日本政府がアベノミクスを採用し、黒田東彦氏を日銀総裁に、岩田規久雄氏を副総裁に決定したことで、路線は決まった。「金融政策でデフレは終わり」「デフレ終焉で日本経済は回復し」「徹底的金融緩和は致命的副作用をもたらさない」がすでに選択された結論である。ここから先の懐疑論、悲観論は、アベノミクスの失敗を予言し、祈念し続ける以外(つまり政策の揚げ足を取る以外)のなにものでもない。

他方、政府と新生日銀の使命は、バズーカ砲でも何でも使って、デフレを終わらせ、日本経済をまともな成長軌道に乗せる以外にない。政府と日銀に禁じ手はない。金融政策でデフレを終わらせられなければ、日本が成長軌道に戻れなければ、政府も、日銀も、日本経済も衰退と滅亡に向かうのみである。

これから市場は黒田次期日銀総裁が打ち出すであろう、イニシャティブを織り込み始めるだろう。新イニシャティブとは米連邦準備制度理事会(FRB)による量的緩和政策、QE1、QE2、QE3、欧州中央銀行(ECB)によるOMT*(新たな国債買い入れプログラム)など、米・英・欧で成功している新金融レジームに他ならない。

* OMTは、制度は作られたものの、未だ活用されていない。OMTがあるだけで、市場内の売り方は鉾を引っ込め、急騰していた南欧諸国金利は大きく低下した。つまり、抑止力として大きく効いたのである。

「量的金融緩和は日本がいち早く導入した、日銀の対GDP総資産比率は、既に主要国の中で最も高く一番積極的である」と白川日銀総裁とその追従者たちは主張してきたが、それは全く誤った解釈と考える。QEとは何か、その本質は中央銀行による市場価格(=リスクプレミアム)の操作に他ならない。市場が間違った悲観、恐怖に支配され、過度に値下がりしている時に、そのミスプライスを是正するのがQEである。それを放置すれば、金融と経済は崩壊せざるを得ないからである。今や信用の中心は、銀行家の胸中にあるのではなく、市場価格そのものである故、信用のコントロールに市場価格操作は不可避なのである。

「何故中央銀行のバランスシートが極端に膨張せざるを得なかったか」と言うと、それは、大規模の資金投入をしなければ市場価格が操作できなかったからである。確かに日銀の対GDP総資産比率は以前から世界一高いが、市場における価格操作には全く成功していない。日本では株式等のリスク資産における異常な高リスクプレミアムが温存されたままである。株式などの資産価格の押し上げ(=リスクプレミアムを押し下げ)、には全く成功していない。それは米・英・欧で成功しているQEとは似て、全く非なるものである。図表1のFRB総資産推移に見るように、バーナンキFRB議長は、2009年3月からQE1により大量のMBS(住宅ローン債券)を買い、暴落していたMBSを買い支え、住宅ローン金利を大きく引き下げた。次いで2010年11月からQE2により大量の米国債を買い、長期金利を3.5%から一気に2%まで引き下げた(図表2参照)。この金利低下は、債券保有者に膨大な値上がり益をもたらし、リスクテイク意欲を鼓舞した。国債の値上がりは株式の相対的割安さを際立たせ(=長期金利の低下によって株式リスクプレミアムが押し上げられ、それが株式の割安さを顕著にし)、投資家を株式購入へと導いた。米国の金融市場の回復は、ひとえにFRBのQEによるバランスシートの大膨張に負っている。悲観派、懐疑派はFRBのバランスシート膨張を不健全だと言うが、それなしには健全な金融市場は戻らなかった。そして健全な金融市場なしには、中央銀行の健全性などあるはずがない。

黒田氏は日銀に真正のQEを導入するだろう。長期金利が大幅に(現在の0.7%から0%までの余地がある)低下するまで日本国債を買い続け、株式リスクプレミアム(長期金利を越える株式リターンの超過リターン)の大幅な低下、つまり大幅な株価上昇が実現するまで日銀のバランスシートを膨張させ続けるだろう。アベノミクスと黒田QEにとって株価の大幅な上昇、水準訂正は不可避なのである。

これは考えてみれば1989年バブルの絶頂で(プラスの)バブル潰しをやった三重野元日銀総裁と同じことを、つまりマイナスのバブル潰しを黒田次期日銀総裁がやるということである。日銀は以前から資産価格のミスプライスの是正にイニシャティブを取ってきた。去りゆく白川総裁がこれまでその任務をサボタージュしてきただけのことである。

(QEの必然性、中央銀行の新たな役割に関しては、2013年2月13日付、ストラテジーブレティン91号「何故アベノミクスは成功する可能性が高いのか」を参照されたい)

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