2013年の経済と市場展望、高まる日本株大復活の可能性(文章編)

2012/12/03

【ストラテジーブレティン(84号)】
(当84号は文章編とし、図表1~18は次85号に掲載発行いたします)

≪結論≫

●日本株式の本格浮上が想定される。①新政権樹立による成長政策・円高デフレ対策、日銀による一段の金融緩和が気見込まれること、②米国復活によるドル高定着、③日本株式の空前の割安さと好需給を内外の投資家が無視できなくなっていること、などがその理由である。2年間で日経平均15,000~18,000円、1ドル100~110円、長期金利1.5~2%程度へのトレンド転換を主シナリオとする。

●リーマン・ショック、ユーロ危機と世界恐慌寸前の経済困難からの癒しが進展している。金融機関の資本不足、累増する債務などの負の後遺症の処理が進展し、各国の経済政策は成長とリスクテイクの促進へと軸足が移されている。2013年は、①米国の経済回復にけん引された世界経済の着実な成長、②積極的な金融緩和と潤沢な投資資金、③シェールガス革命と中国からのデフレ輸出によるインフレの抑制という、好投資環境が想定される。世界的リスクテイク、株高が一段と活発になるだろう。

●リスクとして、グローバルでは中国経済の失速、欧州ではフランス経済の後退によるユーロ危機再燃が指摘されるが、その可能性は2013年に関しては低いだろう。国内では、新政権が金融緩和に十分に積極的になれない可能性が懸念される。2007年以降の円高デフレの主因は日銀と海外中銀との緩和姿勢の格差である。したがって、日銀の姿勢転換で円高是正が大きく進展する可能性があるが、保守的な世論に押されて新政権の金融緩和要求が弱まれば、それが不発になる恐れもある。

(1)2012年グローバル・ヒーリングの進展と日本の劣後・・・リフレへの政策転換遅れる
2012年は悲観旺盛な中にあって、グローバル・ヒーリングが進展した年であった。繰り延べられてきたぺントアップ需要の顕在化(たとえば米国自動車や住宅)が始まり、政策軸は緊縮から成長への転換がはかられた。市場は徐々にリスクテイクに積極的になり、株高トレンドの継続、長期金利底入れ、ドル底入れ・ユーロ底入れなどが実現した。リーマン・ショックによるトラウマ(過度の悲観)が徐々に解消された。いまやリーマン・ショック級の危機が起こる可能性はほとんどなくなり、世界経済は緩やかに正常化していくとの見方が主流となりつつある。

その中でも市場心理を大きく転換させたのは、欧州中央銀行(ECB)、米連邦準備制度理事会(FRB)による無制限の量的金融緩和という新機軸が打ち出されたことである。ドラギECB総裁はOMT(国債買い入れプログラム)によって、ユーロ崩壊を織り込む南欧国債金利の急上昇(=ユーロ崩壊プレミアム)を一掃するまでの無制限の市場介入を表明した。またバーナンキFRB議長は雇用回復を実現するまでの無期限のMBS(住宅ローン債券)購入プランQE3を打ち出した。つまり中央銀行がリスクテイカーを支援し続けることを明示したのである。続いて10月の国際通貨基金(IMF)・世界銀行総会では、需要政策へ重点をシフトする方針が謳われ、新興国もこぞって金融緩和へと動いた。米国の金融緩和は近隣窮乏化政策ではなく、世界的需要創造促進策として協調的金融緩和の作用をもたらしたのであり、1930年代の悪夢再現は回避されたのである。

図表1 主要国株価推移
図表2 2007年以降の主要通貨の対ドルレート
図表3 2007年以降の主要国中央銀行総資産GDP比推移(日銀、FRB、ECB、 BOE)

この中で日本の劣後が鮮明化した。日本株の独り負け、円独歩高、世界唯一のデフレが続いた。日銀は2月に1%のインフレゴール(目処)を打ち出し、いよいよ本格的量的緩和かと期待されたが、それは不発に終わり、株安、円高が続いた。競争力を著しく失ったハイテク企業は大赤字と経営困難に陥り、産業基盤の喪失が懸念されている。加えて尖閣問題による中国での日貨排斥により、輸出は打撃を受けた。原発停止により燃料輸入も急増、貿易赤字は半年で3兆円強という空前の水準に達した。経済は失速し第3四半期には-3.4%とマイナス成長に陥り、第4四半期もマイナスは避けられない情勢。エコカー減税一巡、災害特需一巡、中国変調、尖閣による日貨排斥、円高による基幹産業の競争力急低下などが重層的に作用している。加えて日本に蔓延する「貧乏神」=反成長主義、それが政策に影響し株安要因となっている。「貧乏神」=反成長主義は極端なリスク回避心理とあいまって日本経済心理を凍らせている。

図表1を参照されたい。リーマン・ショック以降、対岸の火事であったはずの日本が最も深刻な株価低迷を余儀なくされている。住宅バブルとも、ユーロ危機とも、銀行の不良債権と資本不足とも無縁な日本を異常株安に陥れたものこそ、「反成長主義」という貧乏神である。リーマン・ショック後底値からの直近株価の回復度合いは、米国、ドイツ2倍の上昇に対して、日本は1割と危機の震源地である米欧をはるかに上回る低迷ぶりである。

図表1を参照されたい。リーマン・ショック以降、対岸の火事であったはずの日本が最も深刻な株価低迷を余儀なくされている。住宅バブルとも、ユーロ危機とも、銀行の不良債権と資本不足とも無縁な日本を異常株安に陥れたものこそ、「反成長主義」という貧乏神である。リーマン・ショック後底値からの直近株価の回復度合いは、米国、ドイツ2倍の上昇に対して、日本は1割と危機の震源地である米欧をはるかに上回る低迷ぶりである。

図表4 極から極へと振れたリスク選好度(株式対債券利回り)
図表5 空前の日本の株式リターン/社債リターン倍率
図表6 米国の株式リターン/社債リターン倍率
図表7 日米の長期株式・社債のリターン推移

図表4、5、6、7に示すように、リスク選好指標である「株式益回り/社債利回り倍率」は1990年の日本のバブルピーク時0.25倍、1999年の米国ITバブルピーク時0.5倍に対して、現在の日本は8倍、米国は2倍、である。1930年代以降、米国でこの比率が最も高かったのは1949年の5倍であることを考えると、如何に今の日本が異常なリスク回避心理にとらわれているかがわかる。

2012年に顕在化した懸念は、中国経済の失速と地政学リスクである。中国経済は過剰投資による設備過剰、採算悪化、不動産の値下がりと不良資産化により、壁にぶつかっている。ここ1~2年は習近平体制発足時の足場を固める期間であり、中国政府によるてこ入れが続けられてきたが、投資原資であった外貨準備の騰勢も止まっており、近い将来失速の可能性も全くは排除できない情勢である。更に、ユーロではフランスの景気の弱さが懸念される。雇用増加が続くドイツとは裏腹に、フランスでは失業率の上昇、経常赤字拡大が続いており、フランスが南欧のユーロ被救済グループに合流することも排除しきれない情勢。可能性はごく小さいが、そうなればドイツ一国ではユーロを支えきれないというリスクは出てくる。

図表8 中国外貨準備高対GDP比推移
図表9 独仏の失業率・経常収支/GDP比率推移

(2)2013年はリスクテイク加速の年に
2013年の投資環境想定に当たって、最重要なのは米国経済動向である。その米国のファンダメンタルズは着実に改善しており、米国の失速懸念は杞憂となりつつある。「財政の崖」は懸念ではあるが、いずれ乗り越えられであろう。ブッシュ減税と呼ばれる所得税減税が停止され、歳出の一律削減が始まれば、2013年は4%の経済成長下押し要因であるが、減税延長(全面ではないにしても)、歳出一律削減の調整がなされることは確実であろう。また、それらの負の財政効果は一過性であり、2013年第2四半期以降の経済成長には尾を引くものではなかろう。財政の崖を乗り越えた後の米国経済は明るい、と考える。①住宅需要の改善、価格の反転、②株高・住宅価格高による資産効果、③雇用増加(特にサービス産業)、が顕著となるであろう。特に住宅の反転は影響大と考える。リーマン・ショック以降、6%あった住宅投資/GDP比率は2%強まで低下、過去ピーク2007年末から直近2012年9月までの雇用減440万人の5割も住宅・建設産業(220万人)による。この最大の負の要因であった住宅が正常化するだけでGDPは2%ほど上乗せされるのである。進展する新産業革命とグローバリゼーションのもとでの生産性の上昇と空前の企業業績は続くであろう。シェールガス革命によるインフレ抑制、貿易赤字の縮小が見込まれることもプラス。2013年後半、GDP成長率は5~6%を越えていく可能性もあるのではないか。

図表10 米国住宅投資/GDP比率推移
図表11 米国セクター別雇用推移

ユーロ情勢も緩慢な改善が見込まれる。南欧諸国での緊縮財政と超高金利による需要圧縮圧力は2012年がピーク、2013年は徐々に改善していくものとみられる。世界にデフレ圧力をばらまくと懸念されている中国経済も相次ぐ金融緩和と公共投資のてこ入れによってひとまず底入れした模様、習近平体制発足初頭という重要な期間でもあり2013年は小康状態が続くと予想される。

世界株高を促進する、一層のリスクテイクの活発化が予想される。①着実な経済成長、②空前の金融緩和、FRB、ECBによる徹底したリスクテイク支援、③インフレ圧力の鎮静化(シェールガス革命と中国からのデフレ輸出による)、という3条件は、絶好の投資環境をもたらす可能性がある。人々は、リーマン・ショック後も、100年に一度の危機が毎年訪れるという、過度のリスク回避心理バイアスのもとにある。その修正は大きな世界的リスクテイク運動を引き起こすだろう。とは言え、インフレが抑制されているうえ、生産性の上昇と好企業収益が維持されているのであるから「悪い金利の上昇」は起きない。米独日の長期金利はマイルドな上昇にとどまるだろう。

資産価格、特に米国住宅価格の上昇は家計のバランスシート問題(ネガティブ・エクイティー=債務が住宅価格を上回る現象)を急速に改善させ、リスクテイク加速の引き金になるかもしれない。銀行融資は増加に転じ、米国、不動産事業での債券発行増加など信用創造も増加している。

図表12 米国住宅価格推移
図表13 米国ビジネス向け貸出推移
図表14 米国商業用不動産価格指数推移

(3)政策転換がもたらす日本のポジティブサプライズ
世界各国の経済政策において、緊縮・清算からリフレへと軸が転換する中、遅れていた日本も年末の政権交代でこれに合流する可能性が出てきた。11月14日解散が確定し12月16日に総選挙が実施されることとなった途端、円は2円の急落を遂げ、11月15日は世界株安の中で日本株の独歩高となった。民主党の敗北、「対デフレ戦争」を唱える自民党安倍総裁の首相就任の可能性が高くなったからである。円がいかに日銀のデフレ容認政策のプレミアムを受けてきたか、株がいかに日銀のデフレ容認策のディスカウントを受けてきたかを物語る。政権が交代し、日銀のデフレ容認政策が根本転換すれば、円と日本株式は劇的転換を見せるだろう。それは2005年の小泉郵政解散時を超える株価上昇をもたらすかもしれない。いや、昭和恐慌から高橋リフレ政策によって倍以上に上昇した1932年の相場に類似する変化が起きることもありえよう。

安倍総裁は2~3%のインフレターゲット、デフレ脱却までの日銀の無制限の金融緩和、日銀法改正を唱え、それを円高・デフレ脱却政策のかなめに据えている。躍進が予想される日本維新の会、みんなの党などもほぼ類似の主張をしている。日本再リセッション化で景気対策が待ったなしとなり、日銀プレッシャーが高まり、長期円安、株高の条件が醸成されている。増税や年金支給額減額など、景気にネガティブに作用するかもしれない案件が野田内閣で一応のめどがつけられた一方、2012年第3四半期のGDPが年率-3.4%と再度リセッション入りの危機に陥った今、景気対策を求める声は待ったなしに高まる情勢である。

図表15 日本の貿易収支推移
図表16 主要国(日米独英)賃金推移

委縮政策から成長政策への転換は、日本経済に好循環をもたらす可能性が高い。最大のエンジンは、資産価格の上昇効果と円安転換を起動とする賃金上昇である。失われた20年に蓄えられた潜在力、①企業のスリム化、② 国内コストの低下、③謙虚な要求(=低水準の賃金、資本リターン)は、ポジティブサプライズの源泉になるだろう。日本は世界の需要創造のセンターになることができる。①膨大な遊休資本の存在、②膨大な潜在失業の存在(若年者のみならず、女性、高齢者等)、③顕著な未充足欲求の存在(=生活水準がまだ低い)、という成長条件がある。加えて極端に割安化した資産価格は、資産価格是正による大幅なキャピタルゲインの可能性を残している。0.9倍のPBRが世界平均の1.7倍に上昇するだけで、株価はほぼ倍増、株式時価総額は200兆円以上増加する。それに不動産価格の上昇の余地も大きい。

世界経済は緩慢な成長が続き、世界的超金融緩和の下では、投資家の終わりのないリスク資産の探求が続く。未開拓の投資対象を求め旅を続ける世界の投資家が、世界経済と市場の中で可能性が残された「処女地日本」に立ち止まる日も遠くはあるまい。リスクは、国内で新政権が金融緩和に十分に積極的になれない可能性が懸念される。2007年以降の円高デフレの主因は、日銀と海外中銀との緩和姿勢の格差である。したがって日銀の姿勢転換で円高是正は大きく進展する可能性があるが、保守的な世論に押されて新政権の金融緩和要求が弱まれば、それが不発になる恐れもある。

図表17 超割安化する日本の不動産価格(ドイツ銀行推計)
図表18 日本の不動産・株式時価推移

(4)今何が起こっているのか・・・需要創造、貯蓄から消費は美徳、への軌道修正が喫緊に
現在の世界情勢は1930年代の世界大恐慌時との類似性が多い。しかし決定的な相違点は、大恐慌時の経験を踏まえた、政策の進歩である。政策が世界経済を破局的悪化から救い、持続成長軌道へ戻しつつあると言える。

以下、現世界経済の大枠の特徴をあげる(①、②は大恐慌時と類似している)。
① 世界的生産性上昇(技術革新とグローバル化による)で人・金の余剰急増、一部設備も中国で過剰に
② バブル崩壊後の金融危機ぼっ発により過度のリスク回避トラウマ発生へ
③ シャドーバンキング全盛、金融政策の転換へ
④ 国家資本主義の台頭と市場経済の脅威
⑤ シェールガス革命、原発事故、太陽光バブルの破たんなど、エネルギー資源価格変化

それに対する正しい政策対応は
① 需要創造へ、消費は美徳not貯蓄への軌道修正 →金融緩和、財政出動、規制緩和と新ライフスタイルの創造=贅沢の促進、サービス価格インフレの促進、新エネルギーなどの政策的需要創造、
② 飢餓輸出ではなく、自国の需要に責任を負う政策、fair competition、
③ 創造的金融政策、金融市場の機能不全を回避し、資本配分を維持、

各国は政策の知恵を競争し合っている。知恵のある国の経済と市場が優位な地位を確保する。1930年代、いち早く清算主義を脱し需要政策にシフトしたのは日本の高橋リフレ(金本位制の放棄・管理通貨制度の導入、通貨安誘導、日銀による国債引き受け)であり、日本経済と株式はケインズ経済学誕生の前の「ケインズ政策」と言われる高橋リフレ政策により最も早く回復した。米国ではフーバー大統領の清算主義からルーズベルト大統領の需要政策への転換が遅れ、大恐慌の被害が世界で最悪となった。

今1930年代に政策転換が遅れた米国が逆に政策転換の先頭を走り、政策転換が最も早かった日本では、最も政策転換が遅れている。戦前の高橋リフレを彷彿とさせる安倍自民党総裁によるリフレ政策提言が、実現されるかどうか、決定的局面である。

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