実際に巨額の利益を出しているAI本命株はバブルとは言えない
「AIはバブルか」という文章は、これのみでは意味が通じない。まず、言葉足らず、つまり説明不足である。この手の議論にありがちなのは「バブル」という言葉の定義をしないことだ。だから、往々にして論者の主張が独り歩きする傾向がある。「バブル」という言葉そのものは「泡」である。だが、経済用語としてすっかり定着した感のあるこの言葉の意味は - 例えば、マネクリの「初心者でもわかりやすい金融用語集」によれば「資産価格が実際の価値以上に急激に上昇し、その後急激に下落する現象のこと」とある。そうであるなら、「AI」という言葉は「バブルか」という文章の述語に対する主語にはなり得ない。
言葉を補って「AI関連銘柄が主導する最近の株式相場の上昇は」「バブルか」とでもすれば意味が通じる。そしてその答えは - あくまで僕の答えだが - Noである。株式市場全体でみればバリュエーションに極端な割高感はないからである。それではAI関連株はバブル的買われ方をしているかと問われれば、一部の銘柄は確かにそうだろう。アドバンテスト(6857)のPER50倍はさすがに高すぎると感じる。しかしソフトバンクグループ(9984)のPERは18倍で市場並みだ。ただ、ソフトバンクグループのような投資ファンドの株価評価にPERを用いるのが適切かという問題はある。AI相場の本命株といえばエヌビディア[NVDA]だが、同社のPERは38倍程度。実際に巨額の利益を創出しているので、決してバブルだとは言えないだろう。
昨今のAIバブル懸念とはAI関連企業の巨額投資は回収できるのかという不安
ここまでをまとめると株式市場はバブルではないと思う。ただし、問題はAI関連企業のビジネスにおける投資行動にある。昨今の米国におけるAIバブル懸念というものは、主にAI関連企業の過剰投資、すなわち投資額が巨額過ぎて、それに見合うリターンが回収できるのかという不安である。
様々なシンクタンクやコンサルティング会社、あるいは金融機関系のリサーチなどから発表されている分析を総括すれば、おおよそ以下のものがAI過剰投資論のコンセンサスと言えるだろう。
「個々のハイパースケーラーが年数十-百億ドル単位でAIインフラに投資しており、その合計が数年で数千億ドル-数兆ドル規模になる。それを正当化するには、年6500億-2兆ドル級のAIビジネスによる収益が必要であり、とても現実的とは思えない」
まあ、そうだろうな、と思う。理屈ではない。まっとうなビジネス感覚としてあり得ないだろうと思う。ただ、その感覚が間違っている可能性も大いにある。なぜなら人間の想像力を越える未来が訪れるかもしれないからだ。
僕は、2021/07/12のコラム【新潮流】「エクスポネンシャル」でこう述べている。
指数・対数というものを「感覚的に」理解できないのである。世の中の事象は指数・対数で表すほうがうまく捉えられることが多いのに、人間の頭脳はリニア(直線的)にしか働かないからだ。
そしてテクノロジーの進歩はまさにエクスポネンシャル(指数関数的)な速さだ。今の常識では「あり得ない」と思っても、未来は人間の創造を越えるものになるかもしれない。
こんな話をすればまだ夢があってきれいだが、現実はもう少し、危うい感じがする。今回、AI関連銘柄の大幅調整が始まったきっかけのひとつが、リーマンショックを予言した伝説の投資家マイケル・バーリー氏による「AI銘柄売り」である。同氏は「ハイパースケーラーは減価償却期間の延長で利益を粉飾している」と指摘した。世紀の空売り王の指摘で、一気にAI関連にきな臭さが漂い始めた。
これ以外でもAI業界のベンダーファイナンスの指摘も多くみられる。簡単に言えば、お金がない取引相手にお金を融通して自社の製品を買わせることだ。ITバブル時代には通信機器メーカーがこぞって行った手段である。ベンダーファイナンスはモノ(通信機器)を買わせるものだが、お金を回していた例が日本のバブル期の財テクである。日本の金融機関がお金を貸し付け、それで財テクをやりましょうと持ち掛けて特金(特定金銭信託)などで運用するスキームだ。バックファイナンス付き特金である。応用例が不動産融資であり、その後の日本の不良債権の山となったのは周知の通りである。
AI企業同士、内輪の巨大な資金循環
今回のAI業界は、そこまでの話ではないものの、AI業界の内輪でカネやモノ(半導体)を融通し合っているという構図は同じである。半導体企業はお金のないAI開発会社に投資してその資金で自社の半導体を買わせる。AI開発企業のほうも今はお金がないもんだから、「出世払いにしてくれ」と言う。なんの話かと言えば、オープンAIがアドバンスト・マイクロ・デバイシズ[AMD]に10%出資し、半導体を活用して巨大データセンターを構築するという話。AMDに投資するといってもオープンAIはそんな金はないはずだ。どうなっているかというと、AMDがオープンAIに対し、最大1億6000万株分、発行株式の約10%相当の株を購入する権利を付与したのだ。その条件は将来1株あたり1セントでAMD株を購入できるとするものだ。まさに出世払い、まさに錬金術である。
これは極端なケースだがAI企業同士で内輪の巨大な資金循環を生んでいるのは確かだろう。
メタ・プラットフォームズ[META]・アルファベット[GOOGL]・マイクロソフト[MSFT]・アマゾン・ドットコム[AMZN] → エヌビディアのAIアクセラレータ(HBM搭載)を購入
↓(GPUが必要)
エヌビディア→ 台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング[TSM]に多額の投資(前払い契約・長期調達契約)
↓(製造が必要)
台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング → ファウンドリー設備投資(AI対応)
↓
ハイパースケーラー各社 → データセンター増設
↓
モデル企業(OpenAI/Anthropic など)→ GPU使用料としてAWS/Google Cloudへ支払い
現在のAI投資の大半は、このように業界内の巨大企業が互いのサービス・ハードを買い合う構図になっているのだ。ただ、AI企業が互いに投資するのは、
・供給制約(GPU不足)への対応
・垂直統合による競争優位確保
・自社モデルの訓練インフラを持つため
・将来の巨大な需要を先取りするため
という戦略的理由があるためで単なる「仲間内の金回し」ではなく、意図を持ったキャパシティ構築ではある。外部に大きな(マネタイズを伴った)需要が生まれていないので結果的に内向きの循環になるのは仕方ない。
「今のAIに対する期待・妄信・熱狂」はバブルかもしれない
この行方がどうなるかはわからないが、投資額に見合ったリターンが回収できるかというポイントは、時間がたたないとわからないことなので、しばらくは期待と疑念の間で揺れ動くだろう。そして徐々に熱が冷めていく格好で落ち着くのではないかと思う。なぜなら、インターネットがいまや電力や通信のような社会インフラになったのと同じように、AIもまた社会インフラとして、あって当然、使って当然のものになるだろうと思うからである。つまり、徐々に「普通のもの」になる。特別なものでなくなるなら、熱狂も冷めるだろう。
このレポートの冒頭で、「AI」という言葉は「バブルか」という文章の述語に対する主語にはなり得ない、と述べたが、案外、そうでもないかもしれない。「AI」は「バブル」。言葉を補って、「今のAIに対する期待・妄信・熱狂」はバブルかもしれない。

