「地熱発電」は日本のエネルギー安全保障の救世主となるか

2020/11/06

菅義偉政権が温室効果ガスについて意欲的な削減目標を出したことについて疑念が表明されている(参考記事)。

日本では1973年の第一次石油危機の経験などを踏まえ、石油依存からの脱却を図る政策が進められてきた。

東日本大震災前の2010年度には、電源別発電電力量割合では液化天然ガス(LNG)が29パーセント、石炭が28パーセント、原子力が25パーセントを占めていた。

(図表:2010年度 電源別発電電力量割合)

(出典:日本原子力文化財団HPより筆者作成)

しかし2011年3月の福島第一原子力発電所の事故以来、全国の原子力発電所は順次停止し、2014年度には原子力発電の割合は0パーセントとなった。この時発電電力量割合としては液化天然ガス(LNG)が43パーセント、石炭が33パーセントへと増加していた。

(図表:2014年度 電源別発電電力量割合)
(出典:日本原子力文化財団HPより筆者作成)

ところが2015年度以降は一旦ゼロとなった原子力発電も再び発電量が増加し、2019年度には6.5パーセントにまで回復した。しかし2019年度には自然エネルギーによる発電量も増加しており、例えば太陽光発電は2014年には1.9パーセントだったのに対し2019年には7.4パーセントにまで増加している。

(図表:2019年度 電力別発電電力量割合)

(出典:環境エネルギー政策研究所HPより筆者作成)

世界のエネルギー情勢は大きな転換期にあり、脱炭素化の動きが進められている。

こうした流れの中で今回の菅政権による温室効果ガス削減に対する意欲的な削減目標は提示されたのであるが、これはとりわけ日本のエネルギー安全保障の観点から懸念も示される。
特に上述のように「脱原発」という流れの中で日本の電力を担う重要な要素が化石燃料による発電であったためである。

こうした中でいま注目すべきは「地熱発電」だ。

(図表:柳津西山地熱発電所)
(出典:Wikipedia

日本はアメリカ、インドネシアに続く世界第3位(2347万kW)の地熱資源を持つものの、東日本大震災以前の2010年度から2019年度に至るまで地熱発電が占める割合は2.4パーセント程度である(参考)。
世界の地熱発電設備容量のシェアを見てもアメリカ、フィリピン、インドネシア、メキシコ、ニュージーランド、イタリア、アイスランド、ケニアに続き日本は第9位となっている。

日本において地熱発電が進まない要因として①新規参入を阻む電力業界の体制、②国の開発支援が消極的、③適地のほとんどが国立・国定公園内ということが指摘されてきた(参考)。
しかし効率の良い再生可能エネルギーへの期待や国の規制緩和によって地熱発電開発には期待が寄せられている。さらには新型コロナウイルスによるパンデミックがあまり進んでこなかった「働き方改革」の徹底の中でのテレワークの実施を急速に進めることとなった。これによる電力消費量の増大もまた、電力業界への新規参入を緩和させることにもつながるかもしれない。

さらに世界で使われる地熱発電機器(地熱用タービン)のシェアは日本企業((株)東芝(TYO: 6502)、富士電機(株)(TYO: 6504)、三菱日立パワー株式会社(非上場))の3社が70パーセントを占めている(参考)。こうした点からすると国内で設備から発電までを完結できる地熱発電は、エネルギー安全保障の観点からも期待されよう。

菅政権による温室効果ガスへの意欲的な削減目標は地熱発電開発を加速させることとなるだろうか。今後の展開から目が離せない。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記す

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所
トムソン・ロイターで配信され、国内外の機関投資家が続々と購読している「IISIAデイリー・レポート」の筆者・原田武夫がマーケットとそれを取り巻く国内外情勢と今とこれからを定量・定性分析に基づき鋭く提示します。
・本レポートの内容に関する一切の権利は弊研究所にありますので、弊研究所の事前の書面による了解なしに転用・複製・配布することは固くお断りします。
・本レポートは、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。金融商品の売買は購読者ご自身の責任に基づいて慎重に行ってください。弊研究所 は購読者が行った金融商品の売買についていかなる責任も負うものではありません。