「3月チャイナ・ショック」の可能性を考える ~急上昇か?暴落か?~

2019/02/22

はじめに

昨日(21日)から米ワシントンD.C.において米中閣僚級交渉が始まった(※1)。昨年から続くこの問題を通じて、米国は中国への構造改革を再三要求してきた。これに先立つ15日から16日の交渉について、トランプ米大統領が来る3月1日と設定している交渉期限を延期する可能性すら在ると述べているのだ。この推移を見る限り、米中マーケットの好調でグローバルな株式マーケットも好調に至ると見えなくもない。しかし、地政学リスクの観点から中国情勢を見ると、決して油断できない状態にあるため、その先行きは不透明であると言える。こうした中で本稿は、3月14日前後に我が国においてショックが生じる可能性が在る中で、日本マーケットの凋落原因に中国マーケットがなり得るのかを検討する。

貿易摩擦問題は株高へと誘導?

前述したように貿易摩擦問題は解決に迎えつつあるかのように“演出”されている。そもそも米国は中国に何を求めてきたのかを振り返る。

まず米国は昨年7月に知的財産や技術移転などに関する中国の政策が米国に不利益を及ぼしているとして、中国からの輸入品340億ドルに25パーセントの制裁関税を適用した。中国はこれに対抗して、同額の米国からの輸入品に同率の追加関税を適用した。
 さらに米国はその翌月に中国からの輸入品160億ドルに25パーセントの制裁関税を適用し、中国も同額・同率の追加関税で対抗しました。更にその翌月(9月)、米国は第3弾として、中国からの輸入品2,000億ドルに10パーセントの制裁関税を適用、中国は米国からの輸入品600億ドルに5パーセントないし10パーセントの追加関税を適用した。こうして、現在、米国は中国からの輸入のほぼ半分に当たる2,500億ドルに制裁関税を適用し、中国は米国からの輸入の8割を超える1,100億ドルに追加関税を適用している(※2)

(図表1 米国の中国に対する要求事項)

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(出典:NHK(※3)

 こうした中で中国は合意に至るというのであれば、中国はある程度の譲歩を米国に対してすることになると想定できるため、中国マーケットが好転する可能性が高い。

 

反面、中国の地政学リスクは上昇?

しかし、中国を巡っては地政学リスクが噴出している。まずウイグル問題を巡ってトルコと紛争を抱え始めている点だ。去る9日、トルコ外務省が中国当局に対し、少数民族ウイグル族の人権を尊重し、中国新疆ウイグル自治区のウイグル族収容所を閉鎖するよう求める報道官声明を出した(※4)

これに接したときに思い浮かべるべきなのがカショギ事件である。カショギ事件を巡り当初米国はトルコを責め、経済制裁をちらつかせたのだった。しかし、その実、サウジアラビアがターゲットとなり、米トルコ関係は良化した。これのアナロジーとして見たとき、このウイグル問題を巡るトルコの行動の背後には米国がいると考えても不自然は無い。

これに類似する指摘として、イスラム武装集団「イスラム国(IS)」が離脱した後のイラクやシリアにおける米中央情報局(CIA)の役割をトルコが引き継ぎ新疆ウイグル自治区で再現しているという言説があることをここでは併せて指摘しておきたい(※5)。また華為技術を巡りドイツやオーストラリア、ニュージーランドが5G規格用の製品仕様を停止する旨、発表している。

ここで考えなければならないのが、英国の動きだ。空母派遣に対する中国側の反発から、ハモンド英財務大臣が中国訪問を取りやめるなど、不自然な動きを見せている(※6)。その反面、米国とは対照的に、華為技術(ファーウェイ)製品を用いることによるリスクの管理は可能であるとの見解を見せているのだ(※7)。この一見して矛盾する動きを見せている点に注意しなければならない。

 

では、何が起こるのか?

弊研究所は定量分析と定性分析を折り重ねることで、何時、何が起こるのかを分析している。そこで定量分析による結果を見てみよう。それを見る限りにおいては、以下のような結果が出ている:

  • 上海総合指数において、3月5日前後から急上昇の後に、買い圧力が掛かるにも拘らず水準としては下がるという兆候が出ている。これは下落トレンドへの転換が生じる可能性が在るときに観測されるパターンである。その後、冴えない動きをし続け、3月19日前後に再び一旦買いが強くなるものの、4月4日前後を底値に弱含みで推移し続ける可能性が濃厚である
  • 人民元米ドル・マーケットについてもほぼ同様のタイミング(3月7日前後)に人民元安に至る兆候が出ている。但しその時の動きは決して大きくはない。他方で、その前後1週間は弱含み(人民元高方向)で推移する可能性が在る(*但しこの出力は入力データ取得の都合から、2月7日までのデータを基に算出していることに注意されたい)

 

(図表2 上海総合指数と人民元米ドル相場の直近1年の推移)

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(出典:筆者作成)

 

人民元安は株高になる傾向が強い(上海総合指数と人民元米ドルレートには正の相関が在る)ことも踏まえると、本稿執筆時点(20日時点)ではこの様に考えることができる:

  • 昨日(21日)からの交渉で即座に終了ということにはならず、3月1日(金)ギリギリまで交渉が“演出”される。とはいえども、16日までの交渉が良好に終わったことから、海外投資家が上海マーケットへ徐々にマネーを集めていく
  • 同日(1日)に最終的に交渉が成功に終わる、または持ち越し(で関税はそのままないし部分的引き下げ)で終わり、上海マーケットは一旦上昇することとなる
  • しかし、①トランプ大統領が新たな問題を持ち出す、②別稿(※8)で触れたように韓国マーケットで異変が生じてそれに巻き込まれる、③英政権が一転して中国と対立を“演出”する、といった事象により、中国マーケットの暗転が再度生じる

米国だけでなく、英国も怪しい動きを見せていることに注意するべきである。中国マーケットの動きが我が国だけでなく世界に影響を与えるのは言うまでもない。チャイナ・リスクに再び要注意である。

*より俯瞰的に世界情勢やマーケットの状況を知りたい方はこちらを御検討ください(※9)

※1 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190219/k10011819891000.html

※2 http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/307842.html

※3 同上

※4 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO41135490Q9A210C1FF8000/

※5 https://www.voltairenet.org/article205216.html

※6 https://www.scmp.com/news/world/europe/article/2186482/britains-finance-minister-philip-hammond-said-scrap-china-trip

※7 https://this.kiji.is/471052398183662689

※8 https://zuuonline.com/archives/194132

※9 https://haradatakeo.com/ec/products/detail.php?product_id=3091

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所
トムソン・ロイターで配信され、国内外の機関投資家が続々と購読している「IISIAデイリー・レポート」の筆者・原田武夫がマーケットとそれを取り巻く国内外情勢と今とこれからを定量・定性分析に基づき鋭く提示します。
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