米経済指標は良くても悪くても市場はネガティブに反応
米政府機関の閉鎖は避けられないとみられておりましたが、30日に一転、45日間の予算執行を認める“つなぎ予算案”が上下院で成立しました。共和党のマッカーシー下院議長は共和党内の反対派に賛成を求めるのではなく、民主党に譲歩することで民主党から賛成票を引き出す手法を採りました。苦肉の手段ではありますが、このことによって今回のつなぎ予算が期限切れとなる11月中旬頃に再び混迷を強める可能性を秘めているように感じられます。
株式市場は“つなぎ予算案”成立を瞬間的には好感しましたが、市場センチメントの回復には至らなかったようです。米30年国債利回りは2日に4.8%台を記録し、10年債利回りも4.7%に迫る金利上昇となりました。
米経済指標の軟化も以前ではFRBの金融引き締めの解除への期待につながり株式市場はポジティブにとらえたのですが、FRBのタカ派路線を意識して景気減速懸念を意識するようになりました。景気にポジティブな指標もFRBのタカ派スタンスを補強するものと捉えられ、やはりネガティブに反応しているようです。
26日発表の米新築一戸建販売件数は前月比▲8.7%と大幅な落ち込みとなりました。住宅ローン金利の高止まりから需要が低下したと捉えられています。同日発表の9月のコンファレンス・ボード消費者信頼感指数は▲5.7ptの低下でした。2日発表の9月のISM製造業景況感指数は49.0と前月より+1.4pt改善したものの、11カ月連続の50割れであったことから市場は反応薄でした。
今週は、4日:ADP雇用リポート(9月)、6日:米雇用統計(9月)が予定されており、どちらも前月から悪化が予想されています。次回のFOMC(10/31-11/1)までは市場の悲観が優勢を維持するかもしれません。
国内では2日発表された日銀短観において製造業・非製造業ともに改善が見られました。いずれも円安効果やインバウンド需要などの貢献が寄与していると見られますが、個人消費の回復にはまだ時間差がありそうです。6日発表の毎月勤労統計・家計調査(いずれも8月)も確認したいと思います。
株式市場のセンチメント回復には、米国においては年度予算の成立、過剰貯蓄解消の影響や学生ローン返済開始の個人消費への影響を見極める必要がありそうです。88ドル/バレルと高値からは一服しているが原油価格も引き続き懸念要素です。国内製造業も円安効果だけでなく、輸出数量の回復が求められます。中間決算で企業業績の上昇修正が増えたとしても中身が為替レートの見直しだけであれば、反応は限定的にとどまりかもしれません。まだしばらくは上値の重い展開が続くように思われます。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。