米国の「中立金利」上昇に注目が集まる=FRBは引き締め長期化に向かうか?
先週は中国と米国の要因を中心として国内株式も弱含みに推移しました。
中国要因としては、7月の主要統計(15日:工業生産、社会消費品小売総額、固定資産投資)がいずれも弱含んでいたこと、7月の新築住宅価格(16日)、新築取引面積(16日)の下落・縮小に加えて、17日には不動産大手の中国恒大集団が米国で連邦破産法第15条の適用を申請しました。第15条は米国籍以外の企業が米国内の資産保全を目的とするものであり、所謂“倒産”ではありませんが、外貨建て債務の再編協議を有利に進めると見られています。19日には中融国際信託の一部商品が償還停止となりました。理財商品に対する警戒も強まっています。さらに、19日に中国メディアが不動産最大手の碧桂園控股が私募債償還の3年延長を債権者に提案すると報じました。こうした状況への対策として中国人民銀行は最優遇貸出金利を21日に0.1%引き下げましたが、その効果は限定的とみられております。
米国では15日にフィッチ・レーティングが銀行の経営環境の格付けを「AA-」から「A+」に引き下げる可能性を示唆し、その場合は主要行を含む70行が格下げされ得るとしました。また15日発表の7月の小売売上高は前月比+0.7%と市場(+0.4%)を大きく上回りFRBによる引き締め長期化が懸念されました。16日に公表されたFOMC議事要旨(7/25-26分)では大半の参加者が追加の引き締めが必要になるリスクを警戒していることが明らかになりました。
このところ米国では「中立金利」の上振れ観測が注目されています。ニューヨーク連銀のエコノミストが10日にブログで公表したことが発端です。米国では1年余りで政策金利が5%超も上昇しているにもかかわらず、経済が引き続き良好であるのは中立金利が上昇しているとするならば合理化できるというものです。同エコノミストの試算では、中立金利が1%台後半まで上昇している可能性が示唆され、仮にそうであるならば現状の政策金利では引き締め効果が限定されることになります。米国金利の上昇はこうした見方も背景にあるようです。21日には2年国債利回りが5%台に達しました。
国内では7月の貿易統計(17日)で輸出金額が前年同月比▲0.3%のマイナスとなりました。中国の停滞が影響しています。また、7月の消費者物価指数(18日)では生鮮とエネルギーを除く総合で前年同月比+4.3%と6月(+4.2%)から上昇しました。国内も高い物価上昇率が持続するとの見方もあるようです。
今週は24-26日に各国・地域の中央銀行総裁等が集まるジャクソンホール会議が開催されます。特に26日(日本時間25日23時)のパウエル議長講演に注目が集まっています。波乱となった昨年とは違って無風で通過するとの見方が大半であるようですが、「中立金利」に言及することがあれば、金利上昇(株安)要因として波乱を生じさせるかもしれません。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。