日銀短観は23年度減益を見込む
先週の米国株市場は銀行の経営不安が後退する中で、ダウ工業株は週末比較で+1,036ドルと大幅に上昇しました。ただし、28日の上院公聴会(銀行委員会)においてFRBのバー金融監査担当副議長は、銀行規制・監査の強化に意欲を示しました。資産規模1,000億ドル以上の中堅銀行への資本や流動性に関する規制を厳しくする考えとみられ、5月1日までに銀行規制・監査の見直し方針を公表する、としています。その内容によっては、再び市場が揺れることも考えられるかもしれません。
先週発表された経済指標では、2月の米個人消費支出(PCE)物価指数(31日)が前月比+5.0%と1月(+5.3%)から低下しました。インフレ懸念が弱まりつつあるとして株式市場は好感しましたが、その裏返しで今後は経済減速への懸念が台頭することも考えられます。3日発表のISM製造業景況指数(3月)は46.3と市場予想(47.5)を大きく下回り、20年5月以来の低水準となりました。今週発表になる各種統計には注意が必要です。4日:雇用動態調査(2月)、5日:ISM非製造業景況指数(3月)、7日:雇用統計(3月)。
先週は、地政学的リスクとして認識される事案も多く見受けられました。フィンランドの北大西洋条約機構(NATO)への加盟承認(30日)、日本政府による23品目の半導体製造装置の中国輸出への規制(31日)、サウジアラビアをはじめOPECプラス参加国による日量110万バレル超の原油の追加減産発表(2日)。中国・ロシアと欧米先進諸国(日韓を含む)の対立の先端化、その中で中東やインドをはじめとした「グローバルサウス」を互いに取り込む動きが積極化するものと考えられます。
3日発表の日銀短観(3月)においては大企業製造業の業況判断DIが12月時点の+7から+1へと低下(市場予想は+4)しました。また、23年度の経常利益(全規模全産業・計画ベース)は前年度比▲2.6%の減少が見込まれています。特に輸出の弱さが際立っています。2月の貿易統計(3/16)では輸出は金額ベースでは前年同月比+6.5%でしたが、数量指数は▲7.9%とマイナスが続いており、まだ回復の兆しが見られません。3月上旬分速報(30日)においても輸出は前年同期比+1.4%に留まっております。為替が前年同期との比較で13%前後円安であることを考慮すれば数量は▲10%超の減少と推察されます。
米国株式市場の上昇は、銀行システム不安の後退と米国債利回り低下によるものと考えられますが、そもそも債券市場では経済のリセッションの可能性を織り込みつつあることを留意すべきです。株式市場は、今後訪れる可能性の高い企業業績の悪化を織り込んでいるとは言い難い、と考えます。日本株も日銀短観に示されたように企業業績の減益を前提とするならばバリュエーション面での魅力に乏しいと考えます。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。