株式市場は楽観が優位であるが、それは正しいか?
先週の株式市場は日米ともに強弱感の入り混じる方向感の見えない展開が続きました。
7日に対談イベントに登壇したパウエルFRB議長は、「労働市場の力強さが続いた場合、借り入れコストのピークを従来の想定より高くする必要があるかもしれない」とタカ派スタンスを維持しつつも「ディスインフレーションのプロセスが始まった」、「今年はインフレが大幅に鈍化する年」と緩和的な発言も目立ちました。
他方でFRB当局者からは厳しい発言が続いています。8日にはウォラー理事、ミネアポリス連銀カシュカリ総裁、ニューヨーク連銀ウィリアムズ総裁、9日はリッチモンド連銀バーキン総裁、13日にボウマン理事によって、“想定より高い水準の政策金利(の必要性)”、“一段の引き締め”、“引き締め水準の維持”といったタカ派発言が続きました。当局者の発言や市場関係者の見通しによって米国株式市場は楽観と悲観が交錯しています。
しかし、企業業績見通しの下方修正や高官によるタカ派発言が続き、一部のストラテジストの弱気への転向があった中では株式市場は底堅く推移しているとも言えます。まだ、楽観が優位にあるのかもしれません。
先週の日本株市場は、企業業績の下方修正という下押し圧力が強まる中で、米国債利回り上昇による円安によって下支えされるという展開でした。10日の引け後の報道で日銀総裁の後任人事として(副総裁の雨宮氏ではなく)元審議委員の植田和男氏が伝えられると一時的には(方針変更の可能性から)円高に振れたものの、同氏が黒田総裁に理解を示していたことが認知されると落ち着きを取り戻しているようです。
今週は、米国の経済指標発表(14日:消費者物価指数、15日:生産者物価指数・小売売上高など)が注目されています。特に1月の消費者物価指数は前年比+6.2%と前月(+6.5%)からの低下が見込まれており市場では好感される可能性があります。ただし、足もとのエネルギー価格の上昇から前月比では上昇となる可能性もあり、市場がどちらに振れるかは予想しにくい面があります。
13日にNY株式市場は大幅高となりました。欧州委員会が23年の消費者物価上昇率予想を引き下げたこと(6.1→5.6%)に加えて、ニューヨーク連銀の1月調査において3年先のインフレ期待を引き下げたこと(3.0→2.7%)が好感されたものと考えられます。しかし、5年先のインフレ期待は上昇しており、株式市場は“いいとこどり”をしている可能性も考えられます。株式市場とは反対に債券市場では引き締め強化を織り込んでいるようです。米10年国債利回りは2月頭の3.3%台後半から直近は3.7%台に上昇しています。
公表される経済指標や金融当局者の発言に一喜一憂する展開は少なくとも、ドットチャート(政策金利見通し)が更新される次回のFOMC(3/21-22)までは続くと考えます(それ以降も続く可能性もありますが)。こうした不安定な市場では一定のキャッシュポジションを維持しつつ、半身構えの投資スタンスをしばらくは維持する必要があるだろうと考えます。
14日に10-12月期の国内GDP速報が発表されました。年率換算では前期比+0.6%と2四半期ぶりにプラスとなりましたが、市場予想(+1.8%)は大きく下回りました。夜明け前の状態はまだまだ続きそうです。
この記事を書いている人
藤根 靖昊(ふじね やすあき)
- 東京理科大学 大学院総合科学 技術経営研究科修了。
- 国内証券(調査部)、米国企業調査会社Dan&Bradstreet(Japan)を経て、スミスバーニー証券入社。化学業界を皮切りに総合商社、情報サービス、アパレル、小売など幅広いセクターを経験。スミスバーニー証券入社後は、コンピュータ・ソフトウエアのアナリストとして機関投資家から高い評価を得る(米Institutional Investorsランキングにおいて2000年に第1位)。
- 2000年3月独立系証券リサーチ会社TIWを起業。代表を務める傍ら、レポート監修、バリュエーション手法の開発、ストラテジストとして日本株市場のレポートを執筆。