日本をリードするAGCのガバナンス改革

2019/02/12 <>

・12月のCFOフォーラムで、AGC(旧旭硝子)の石村和彦会長の講演を聴いた。テーマは、「経営者からみた変革の必要性とガバナンスの重要性」であった。

・会社は変わっていく必要がある。しかし、変わりたくないという気持ちもカルチャーとして強く出てくる。変わらなければ企業としていずれ衰退していく。

・その時に、経営者はどう動くのか。創業者ではない経営者の場合、一定期間を社長として務めるが、その時に大胆な変革を実行するのか。波風が立つような手は打たずに、緩やかな前進にとどめるのか。

・攻めのガバナンス改革では、そのような局面で経営者はもっとリスクをとって経営改革を進めるべし、そのために社外取締役が重要な役割を果たすべし、という意気込みが求められる。しかし、本当に実行されているのだろうか。取締役会の実効性が問われるのも、投資家はここを知りたいからである。

・石村会長の話から、この点を考えてみよう。石村会長は、1979年に旭硝子に入社した。2006年までは液晶用のガラス工場が長かった。2008年に社長になり、7年間勤めた後、2015年より会長に就いている。

・AGCの社長は通常6年で交替してきたが、リーマンショックがあったので、1年長く社長を務めた。事業はガラス、電子、化学、の3本柱であるが、収益性という点では、ポートフォリオを大幅に入れ替えていく必要があった。

・石村氏は、技術者として長く工場にいたが、会社は一早くグローバル化しており、2002年にはガバナンス体制を変えざるを得なかった。日本のコーポレートガバナンス改革の号令がかかったのが、2014年であるから、それよりもかなり早くから改革を進めていた。

・旭硝子は、2018年7月に社名をAGCに変えた。事業の実態に社名を変えて、ブランド作りを図った。旭硝子はもともと三菱グループの一員であるが、ガラスの国産化はリスクが高いということで、創業時に三菱という社名は使えなかった。

・ガラスの原料を内製化しようとすると、必然的に化学(ケミカル)の分野に入っていった。後にブラウン管を手掛けて、その延長で液晶に展開し、スマホのパネルにまで広がっていった。

・ガラス(売上構成比5割)では、建設用、自動車用で業界№1、電子(同2割)では、コーニング(シェア50%)について、業界2位(シェア30%)、化学(同3割)では、フッ素でシェア70%を有する。収益性は化学が最も高く、次が電子、ガラスはさほど高くない。

・従業員は5.3万人であるが、うち日本人は1万人で、あとは海外(アジア2万人、欧州1.8万人、米国0.4万人)である。

・グローバル展開では、1956年のインド進出が第1号である。60~70年代は、タイ、インドネシアなどアジアに展開した。1981年にベルギーのグラバーベルを買収し、ここが岐路となる。

・グラバーベルは欧州の名門企業で、当社が創業時に技術導入したところである。2000年代に100%子会社としたが、当時の仕組みではグラバーベルの経営を十分にグリップできない。そこで、グローバル一体経営の仕組みを作らざるをえなかった。

・それまではインターナショナル、次にM&Aを入れてリージョナル、そしてグローバル一体経営へと進んだ。まず、R&Dと営業を一本化した。

・グローバル一体経営では。2002年にグループビジョンを作り、カンパニー制を導入し、子会社をここに組織化した。社外取締役制度も入れた。2007年にAGCというグループブランドをスタートさせた。そして、2018年に、本体の社名もAGCに変更したのである。

・コーポレートガバナンス(CG)の改革では、監督と執行の分離を図り、取締役を20名から7名にして、社外取締役を2名入れた。任期も2年から1年にした。

・執行サイドも、グループコーポレート担当はリソース配分のポートフォリオマネジメントを、事業執行はSBU中心に専念させるようにした。

・社外取締役は、2002年に取締役7名中社外2名、2005年に7名中社外4名、2011年に取締役議長を社外へ、2017年には指名報酬の諮問委員会を社外中心とした。

・現在は監査役設置会社として、取締役7名(社外4名、議長社外)、会長は非執行、社長以下3名が執行、指名報酬は各々5名(社外3名、委員長は社外)である。

・これらは、日本のCG改革に則ったものではあるが、それよりは早い段階でグローバル経営を推進し、内外のマネジメントをグリップする仕組みとして導入し、実効を上げている。

・石津氏、門松氏、石村氏、島村氏という4代の社長の時代を振り返ると、社外取締役が果たした役割は大きいと、石村会長は強調する。事業ポートフォリオを変える時、なくなる事業の抵抗は強い。その決断を社外取締役が支援してくれたという。

・石村会社長も液晶育ちであるが、自らが社長の時、液晶はピークを迎えていた。次の技術、次の地域へリソースをシフトしていく必要がある。欧州、北米の建設用ガラスもリストラする必要があった。化学品は国内から海外へ、成熟市場から発展途上国へ展開していく。この入れ替えが上手くいって、現在の収益性の向上が実現している。

・AGCの場合、CG改革が企業の変革、成長のドライバーになった、と石村会長は評価する。内外でのリストラと共に、液晶やアジアでのかつてない大型投資、取締役会では社外取締役がリスクテイキングの背中を押してくれたと語った。

・業績が厳しい局面で、先行投資を承認してくれた。こうした緊張関係の中で意思決定が変革にとってカギとなる。取締役会での実効性については、こうした話をぜひ聴きたい。AGCに次なる展開に大いに注目したい。

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