ベーシックレポートの基本はどこに

2019/01/24 <>

ヒトは合理的(rational)であろうとするが、必ずしもそうではない。一貫性、最適性、開放性を求めつつ、さまざまなバイアスに悩まされる。また、ヒトは意思決定システムであり、情報処理システムであり、制御システムであるという見方がある。いつの時代もマン-マシーンインターフェースのあり方が問われ、今で言えば、AI、IoT、RB(ロボテックス)が展開しようとしている。

・企業価値の評価に当たって、経営者の意思決定をどう織り込んでいくか。それを誰でも理解でき、実践できる方法はないか、というのが筆者にとって1つのテーマがあった。個人投資家の裾野を広げて投資に興味を持ってもらうには、個別株投資の意味付けが重要である。

・企業の価値創造とは何か。経営者がどう関わっているのか、その経営者の顔をイメージして株式投資をする。株価は業績を反映するが、その変動は多様である。目先に一喜一憂しない心構えを身につけることが求められる。

・企業のIR部門とは、アナリストとして長らく向き合ってきた。アナリストの存在意義はどこにあるのか。時代と共にその役割は変化してきたが、ここにきて改めて存在が問われている。機関投資家からは、セルサイドアナリストに頼らなくても運用ができるような体制を作っていくという声も聞く。

・いつの世もイノベーションの連鎖が求められる。同じことを続けているだけでは、いずれ陳腐化してしまう。常に新しい挑戦を行い、アナリスト活動の付加価値を作り出していくことが使命であろう。

・アナリストにとって自ら納得できる価値創造とは何か。企業は新たな企業価値創造に邁進しており、IR部門はそれについて投資家と日々対話している。投資家は企業の投資価値を評価していくので、当然自ら企業価値評価を行う。

・アナリストはその材料を提供することになるが、材料といってもさまざまなレベルがある。会社が公表する情報を簡単にまとめるだけなら、AIに代替されて何の付加価値も生まれないであろう。深い分析によって、新しい投資アイディアが形成されるならば、それは投資家にインパクトを与えよう。企業の経営者にとっても、ビジネスを先に進めるヒントになるかもしれない。

アナリストは当然アナリストレポートを書く。大事なことは投資判断なので、1枚の要約で当面の業績予想と目標株価を示す。会社予想より上か下か、今の株価より上か下かが一目で分かる。それはアナリストの見方を示したものであるが、知りたいのはその中身と論理であった。

・相手はプロの機関投資家である。まず知りたいのは結論であり、あとは興味があれば、そのアナリストとミーティングを持って議論すればよい。これが一般的な形である。それでよいのだろうか。

・今求められている深い分析レポート(ベーシックレポート)は、このビジネスのやり方ではなかなか出てこない。長いレポートを書くよりは、レジメを作って、機関投資家外交に時間を使う方が効果的である。ベーシックレポートを書く時間が十分とれないことにもなる。

・若いアナリストは、本来、ベーシックレポートを書くことで会社分析の力をつけていく。ベテランのアナリストにとっては、自らの分析力を示してレポートの差別化を図り、存在感を高めることができる。投資家にとっては会社の企業価値を評価する参考材料になり、企業の経営者にとっては企業価値創造の方向を考えるヒントになりうる。

・ベーシックレポートは多様であってよいが、若いアナリストが力をつけるためには、5つの論点を明確に描き込むことである。第1章では、会社の特色を自分なりに書き下ろす。会社の一般的な説明ではない。その会社の企業価値の作り方を知る上で、アナリストとして、ここがこの会社の特色であるという点を取り上げる。

・第2章では、会社の強みを明確にする。特色と強みは何が違うのか。同じではないかと思ってしまうかもしれない。ここを書き分けることが大事である。強みとは価値創造に当たって、すでにその会社が作り上げてきたものである。特色と被る面があるかもしれないが、多少の重複は許すとして、強みにフォーカスする。

・強みだけ書くと、いいことしか書かないのではないか、という意見が出てくる。これに対しては、表面的でない、もっと奥にある会社の強みを追っていれば、弱みに拘ることはない。会社は本当の強みを知られたくないかもしれない。秘密にしておきたいとも思う。あるいは、外部からみた時、内部からとは違ってみえるかもしれない。

・弱みに対して企業が手を打っている場合、必ず議論に出てくる。逆に何の対応もできないとすれば、それはすでに強みを阻害しているかもしれない。強みを追求すれば、弱みは自ずと出てくるので心配しなくてよい。

・第3章では、企業の中期展開力について書く。ここは会社の中期計画の解説ではない。中長期を予測する上での経営環境の認識、価値創造の仕組みであるビジネスモデルの目指すべき姿、それを実践するための方策について議論する。

・当然、会社のビジョンや中長期計画の中身について分析する。業績予想の数値に盛り込めること、まだ盛り込めないこともしっかり取り上げる。会社がやろうとしていることで実現できることは大いに取り込んでいくが、まだ難しいこと、今のところできそうにないことについても、どこに認識のギャップがあるのかを明確にしておく。

・第4章では、当面の業績見通しについて予想する。短期の業績について一喜一憂する必要はないが、常に足元を確認しながら、中長期をみていくことが重要である。当然ながら、短期と中長期は絶えずセットでみていくことが求められる。

・第5章は、企業評価である。ここでは、中長期の企業価値創造に対して、アナリストの意見を述べる。総合評価であるから、定性と定量の両面から分析する。ここで株価に関するバリュエーションにふれる。株主の動向、株主還元のあり方についても議論する。

・こうしたベーシックレポートを継続的に書いて発行していく。一度に完璧なものはできない。会社もどんどん変化していくので、リニューしながら、新しい分析を織り込んでいけばよい。この実践が問われている。

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