IPOを目指す企業~その後の展開にも注目

2018/07/25 <>

・株式を新規公開して上場することは、創業者にとって大きな夢である。このIPO(Initial Public Offering)を多くの企業が目指している。筆者の周りにもそういう企業はある。どうしたらIPOができるのか。「IPOは野村に聞いてみよう」というテーマで、公開引受部のプロの話を聴いた。そのエッセンスをいくつか取り上げて、投資の視点で考えてみたい。

・新規公開の当日には、オープニングで東証の鐘を5回鳴らす。これが、企業のトップにとって実に感動的である。IPOとは、企業にとっては資金調達の機会であり、既存株主にとっては資金回収の機会であり、投資家にとっては新たな投資機会の場となる。まさに企業価値が市場価格を通して顕在化する。

・2017年のIPOは89社であった。今年も100社ペースのIPOが続きそうである。IPOすることで、その会社の信用力、資金調達力、ブランド力が高まる。上場企業は全国の株式会社380万社中3800社で、全体の0.1%にすぎない貴重な存在である。

・IPOを実施するには、順調にいくとしても2~3年の準備が必要である。事業の中身はもちろんであるが、経営管理体制の整備が問われる。ここが未上場の中堅企業と上場企業の差で、社長の一声で動くワンマンではなく、組織で業務を行う体制を作っておくことが最も大事である。この審査が厳しい。

・IPOの実質基準は3つある。第1は社長、経営陣の姿勢である。IPOはやりたいが、その準備は部下任せという態度は問題外である。会社の資金で高級外車を買い、それを私用に使っているようでは話にならない。公私をきちんと分ける必要がある。親族も含めて、特定の取引に便宜を図っていることなどあってはならない。交際費などの公私混同も許されない。

・第2は業績の根拠である。掛け声だけの営業目標を掲げるだけでは未達になってしまう。目標には合理的根拠が求められる。予算をしっかり立てて、月次決算で実績をみている。予算と実績の違いを分析して、次の手を打っていく予実管理が求められる。しかも、単体ではなく、グループを含めて連結決算がスピーディになされる必要がある。月次決算では翌月15日までに分析できないと不十分とみなされる。

・うっかりすると経営力の弱いあぶない企業になってしまうので、余程タガを締める必要がある。1)違法なことを見つからなければよいとして、やっていないか。2)公序良俗に反するような不当な取引や利益獲得、倫理に反するような行為の要求や人権侵害をやっていないか。3)パワハラ、セクハラ、横領などを防ぐ仕組みをもっているか。4)何でも営業優先で、管理部門の意見が通らないような運営になっていないか。5)内部監査や監査役監査が機能して、問題点を見つけて逐次改善を促しているか。

・こうした点に問題があると、いずれ不祥事となる。嘘はつくな、必ずばれると思っていた方がよい。取引所へはさまざまな投書がくるという。会社の内部に何か問題があると、誰かが投書してくる。投書されるのが当たり前と思っていた方がよいと、野村のプロは指摘する。

・では、投資家からみたIPOは、どこがポイントなのか。5つのハードルを考えてみたい。第1は、IPOを目指す経営トップの志である。面白い事業をやっているので、これを公開して自分の株式をキャッシュ化したいというだけでは、投資したくない。

・IPOがキャッシュ化のためのゴールになっていては、これから株式に投資する意味はない。IPOするからには、何か新しいビジネスモデルをもって登場し、それが成長前期にあって、上場後も伸びていくことを期待する。

・第2は、新しいことをやっていくイノベーションが1個だけでは不十分である。現在のビジネスモデルが画期的であっても、いずれ色あせてくる。その時までに、新しいビジネスモデルに転換していくイノベーションの連鎖が求められる。①それができるようなイノベーターは社内にいるか、②それを担う組織能力を作り上げているか、を投資家は見抜いていく。

・第3は、IPOを通して、信用がつき、ブランドが磨かれ、最も重要な人材が強化できるようになる。ファイナンス力も高まるので、これまで十分にできなかった投資ができる。R&D投資、生産投資、販売投資、M&Aなど、これまでできなかったことができるようになる。その可能性を大いに見せて、実際チャレンジしてほしい。

・第4は、IPOの時のプライシングである。IPOを行う企業は魅力的な投資アイデアを強調して、投資家を引き付けようとする。一方で、当初のプライシング(株価付け)について、引受証券会社は慎重になる。実際、売り手は少なく、買い手が多いとなると、株価は跳ねる。妥当株価の水準が分からずに、乱高下することも多い。

・過度な期待を抑えようとしても、需給が波乱を起こす。そうすると、IPO銘柄については、公開時の乱高下を取りに行こうとする投資家と、しばらくたって株価が落ち着いてから、ファンダメンタルをよく見てバリエーション(株価評価)を行っても遅くないという投資家に分れる。後者の方が賢明かもしれない。

・第5は、IPOをした後、みんながどんどん伸びていくわけではない。多くの企業は一進一退の場面に出くわす。その時のマーケットの反応はどうか。取引所はルールに基づいた場の提供をしているだけなので、企業がもっと頑張れと待っている。

・投資家は、赤字を黒字へ、1億円の利益を10億円へ、そして100億円に伸ばすのは企業の責任であると考える。そこで、企業が成果を上げれば乗って行くという姿勢である。どちらも当然のことで、株式マーケットとはそういうものである。

・しかし、IPOした後の企業をもっとサポートして育てていく仕組みがあってよい。企業と投資家のエンゲージメントを通して、企業が良くなってくれれば、投資チャンスは大いに広がろう。アクティビストが付け入る機会もここにある。

・IPOはこれからも続々と登場してくる。創業社長には、大いに頑張ってほしい。現在、3800社の上場会社のうち、半数が時価総額200億円以下で、1200社が100億円以下である。これらの中には急成長ではないが、光っている会社も数多い。機関投資家が投資しにくい小さい規模である。ここにフォーカスして投資チャンスを広げることも重要であろう。

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