アナリストレポートの効果~何のために、誰のために
・この7年間にわたって、中小型企業のアナリストレポートを書いてきた。セルサイドのカバレッジのない企業を少しでも投資家に知ってもらうという主旨である。
・当社(ベルト―ケン)のレポートを見てもらうとわかるが、アナリストレポートとしては、通常のセルサイドレポートと異なる。筆者が若い時に書いていたアナリストレポートのフォーマットに近い。
・株価の割高(売り)、割安(買い)、目標株価に言及していない。株価評価と企業評価を分けて、企業評価に重点をおいている。しかも、定量的な業績を予測する以上に、会社の定性的な評価に重点をおいている。
・会社を3つの軸で評価し、総合評価をA、B、Cでレーティングしている。評価の軸は、1)経営力、2)成長力、3)業績の下方修正リスクである。大企業の場合には、これに ESGの軸を加えるが、中小型企業の場合は、G(ガバナンス)は経営力に、S(ソーシャル)は成長力に、E(環境)はリスクに含まれると考える。
・ベルトーケンのアナリストレポートは、第一義的に個人投資家向けである。個人投資家が会社の内容を知りたいと思った時に必要な情報を、分析して表現している。手っ取り早く儲かる株、値上がりする株を知りたいという安易な短期投資家には向いていない。
・通常の機関投資家が対象としにくい中小型株のレポートなので、その会社のことをよく知っているような機関投資家は対象にしていない。ただし、機関投資家でも、その会社のことをよく知りたいと思った時には、丁寧に分析し記述しているので参考になろう。
・この7年で26社のレポートを書き、そのうち11社は卒業、15社を継続している。7年前に書き始めた会社もあれば、昨年からスタートした会社もある。
・まず、どのような会社を書くのか。選ぶ条件は3つである。1)社長が信頼できる人であること、2)社長に継続的にインタビューできること、3)会社がよくなる可能性を有すること、である。
・その会社の株価が上がるかどうか、という観点から会社を選ぶことはしない。①いい会社か、②いい会社にかわる素質を有しているか、③おもしろい社長か、④投資家に訴えていくことができるか、に注目している。カバーを辞めた11社はどういう会社か。改めて検討してみると、いくつかの特徴がある。
・1社は、時価総額が大きくなって、セルサイドのアナリストのカバーが増え、機関投資家が注目している。個人投資家にとってもよく知られるようになったので、卒業とした。
・1社はユニークなトップマネジメントであったが、事業の志を追求するために、大手に会社を売って、その事業部門のトップとして、従来業界4位であった地位をトップにのし上げた。M&Aされたので、カバーの必要がなくなった。
・5社は社長交替である。会社に問題があったわけではない。経営トップはそれぞれの時期に交替となる。新しい社長は新しい経営を志向する。アナリストのカバーに当たっても見直すよい機会になるので、別の企業を開拓することにした。
・2社が業績の低迷である。主力事業を抜本的に立て直す必要が発生して、その点で先行きが不透明になった。トップとの会話も十分でなくなった。2社ともその後立て直ってくるが、数年ほどかかっている。十分なコミュニケーションができない会社はフォローしにくい。
・そして、1社は中長期投資の対象として、自ら投資してみたいと考えた。自分が書いているレポートの会社には、社内ルールとして投資できないので、アナリストカバーをやめて投資家になってみた。
・現在15社をカバーしているが、これからも入れ替えはあろう。業種はさまざまなので、1社をフォローすると同業他社も数社みる必要がある。15社をカバーすると、50~60社はフォローしていくので、物理的に大変である。10社くらいが望ましい社数であろう。
・現在カバーしている15社を見ると、企業評価Aが6社、Bが7社、Cが2社である。この7年間に、1回目のレポートが出た時の株価をベースに、現在までのパフォーマンスをみると、明確な差が出ている。
・15社に100万円ずつ等金額投資をしていたとすると、15社全体では1500万円の投資額となるが、それが2/9現在5938万円で、値上がり益4438万円(平均値上がり率+296%)であった。内訳は、Aの6社で平均値上がり率+505%、Bの7社は同+190%、Cの2社は同+35%であった。
・因みに、フォローをやめた11社では、各々やめた時点の株価をベースにして、平均値上がり率は+70%、うちAの4社で+121%、Bの4社で+66%、Cの3社で+7%であった。
・アナリストレポートは投資向けのレポートであるが、誰が最も読んでいるかといえば、会社のマネジメントである。分析の基本は比較と予測にあるが、外部のアナリスト・投資家の視点で、会社の特長、強み、中期展開力、当面の業績、企業評価をまとめることで、その内容が何らかの参考になるのであれば、双方のコミュニケーションにとって望ましい。
・投資家に対しては、筆者の企業レーティングを信じるのではなく、企業評価の軸と内容を参考にして、自らレーティングをやってほしいと説いている。最大の狙いは、投資家に会社をみる目を養ってほしいからである。さほど難しくはない。自分でレーティングしていくと、次第に勘所が分かってきて、経営者や企業の質が見抜けるようになる。
・その助けになればという志をもって、アナリストレポートを書いてきた。15社ではあまりにも少ない。多くのアナリストがこうした活動に従事して、マーケット全体の底上げができるようなプラットフォームの革新がますますと求められよう。