月次データは必要か

2012/04/16

ファーストリテイリング(コード9983)の決算発表を聞いた。柳井会長兼社長はいつもの口調で、短い言葉ながら単刀直入に‘思いと戦略’を語っていた。2012年8月期は売上高9415億円(前年度比+14.8%)、営業利益1380億円(同+18.6%)と史上最高の業績となろう。ROEも20.3%が見込める。

今期の会社計画では売上高営業利益が14.7%、このうち国内ユニクロ事業の営業利益率は17.5%で、海外ユニクロ事業10.6%、グローバルブランド事業9.5%である。国内の利益率が圧倒的に高い。しかし、営業利益の伸びを見ると、国内+4.5%に対して、海外+89.9%、グローバル+53.6%と、海外が伸びている。営業利益に占める国内の比率は78%であるが、その比率は下がりつつあり、海外がウエイトを高めようとしている。

店舗の数でみると、2012年8月末時点(計画)で、国内ユニクロ852店、海外ユニクロ291店(うち中国本土142店、韓国81店)、グローバルブランド1088店(ジーユー174店、セオリー371店、コントワー・デ・コトニエ387店、プリンセス タム・タム156店)である。今後は海外のウエイトが本格的に高まっていく局面にある。

ファーストリテイリング(FR)は、ファストファッション(fast fashion)の分野で世界一を目指している。2020年で売上高5兆円、経常利益1兆円を目標とする。最大のビジョンは、真のグローバルブランドを築くことである。ブランドとは単なる商品名や価格の認知ではなく、企業活動の全て、企業の精神そのものが永続的に支持されることであると位置づけている。

柳井会長は、そのために、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というイノベーションに挑戦し、できそうもないことを何としても実現するという強い信念のもとで経営にあたっている。ユニクロを真のグローバルブランドにするために、大型の旗艦店(NY、台湾、ソウル、銀座に出店済み)を主要都市に出し、そこでのブランド価値をベースに生活者のいるところに大量出店していく計画である。世界4都市に地域本部を設立した。

年間200~300店(グレーターチャイナで100店、その他アジアで50~100店、欧米で50~100店)の出店をして、2015年8月期に海外ユニクロ事業が国内ユニクロ事業の売上高を上回るような展開を進める。グレーターチャイナ(中国、香港、台湾)、アセアンの次はインドも狙っており、今後10年で、グレーターチャイナに1000店以上、その他のアジアに1000店以上出店する方針である。海外の売上高営業利益率では15%以上(現在は10.6%)が目標である。

ユニクロの服は、服装における完成された部品であり、売場は新しい着こなしを提案するサービスの場であると位置付けている。CSR活動にも力を入れており、「服の企画、生産、販売を通して、世界を良い方向に変えていく」ということを基本方針としている。全商品のリサイクル活動などにも一段と積極的である。

興味深かった点は、これから海外のウエイトが高まっていくので、国内と同じように、海外の売上高に関する月次データを公表する予定はあるのか、という質問に対して、柳井会長はその予定はないと答えたことである。柳井会長は、月次データの振れによって株価も変動する、月次データに本当にどのような意味があるのか、よく考える必要があると述べていた。

投資家、アナリストは、企業の足元の動きを知りたい。短期的な業績に最も響くのは、月次の売上であるから、小売業、サービス業では月次のデータ(前年同月比伸び率、既存店伸び率)を公表する企業も多い。確かに役立つ。とすれば、多くの企業はどんどん海外に出ていくので、海外の月次データの動きも知りたいと思うのは当然である。

それでは、月次ではなく、週次、日次のデータも同じように知りたいであろうか。そんな目先の数字ではなく、会社が市場環境の変化にどのような手を打っているのか、それが上手くいっているのか、もう少し時間を要するのかなど、もっと大事なことがあるようにも思える。我々の短期志向を戒めながら、中期的な視点で会社を見ていく指標や分析の視点に注目したい。FRのグローバル展開について、柳井会長は短期的に多少失敗してもビクともしない。全てが上手くいくわけではないが、失敗を教訓として次の手を打っていく。そのあたりをよく見極めたいと思う。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。

このページのトップへ