アジアの未来~4つの視点
・6月に日経主催の「アジアの未来」というフォーラム開かれた。直接聞いた中で、今後の投資戦略を考える上で参考にしたい点について、いくつか取り上げたい。
・タイのスリン・ピッスワン氏(アセアン前事務局長)は、アジアはグローバル化で発展してきたと主張する。ところが、先進国からグローバル化反対論が出て、多国間プラットフォームの再考が求められている。その中で、貿易だけでなく、資本や技術についても協力することで、アジアはさらに発展できると語る。
・グローバル化が所得格差をもたらしたという論調があるが、このリンクは小さい、と木村福成教授(慶大)は分析する。1%の人が高所得を得ているという現象は、米英では起きているが、日独では起きていない。とりわけ、日本での格差は、若者と高齢者の分配格差にあり、グローバル化とは関係ない。
・グローバル化の問題は産業調整にある。産業構造が変化し、企業のビジネスモデルが変わっていく。労働者にとっても、雇用の代替が起きる。かつて米国ではレイオフされても、次の職探しは容易であったが、それがラストベルトのような地域では簡単にいかない。
・産業調整に労働調整がついていかないことが本質で、ここのバランスをいかにとるかが課題である、と木村教授は指摘する。日本をみると、50人以上雇用している企業で、総体として雇用は減っていない。企業内で雇用をシフトさせて対応している。これが日本の特徴である。
・アジアのグローバル化は、バリューチェーンのつながりとみることができる。インフラができると、国も地域も発展する。非関税障壁を減らすと、インドや中国のような大国はもちろん、周辺国も分業の中で発展していく。
・これに対して、米国のトランプ政権はどのような意味をもつか。保護主義を主張し、2国間での公平性を追求しようとしている。しかし、2国間での貿易交渉は摩擦が大きくなりがちで、反アメリカ色が顕在化してこよう。トランプ大統領が孤立するのではないかという見方も有力である。
・インドはRCEP(東アジア地域包括経済連携)を重視している。RCEPは今年末には合意に至るのではないかという動きである。インドはまだ世界経済発展のバリューチェーンに入っていない。国民のスキルが低いのも事実であるが、もっと成長できるはずであると、ラジェシュ・チャダ氏(インド応用経済研究所シニアフェロー)は話す。RCEPが1つの軸として動き出すと、欧米を置いていくことになる。これでよいのかというのが次なる課題となろう。
・マハティール氏(マレーシア元首相)は、これまで世界のリーダーは米国であり、米国に依存する面が強かった。だが、米国は自国第一で進むという。貿易の枠組みもこれまでは米国中心であったが、これからは米国抜きで平等なしくみを作っていくべしと主張する。
・一方で、中国はどうするのか。中国は大国であり、貿易相手国として重要である。この巨大な市場を除外することはできないので、中国とはしかるべく関係を作っていく必要がある。反グローバル化の中で、中国の一帯一路をどう考えるか。シルクロードをベースに、住んでいる地域で経済圏を作り、一緒に発展しようとしている。近隣国を結ぶためのインフラを作っていく。
・いかに結びつけるかがカギで、ここに協力のメカニズムをきちんとルール化していく。中国の一帯一路は、中国が利益を独占するのではないか、というのは全く誤解であると、リー・シャンヤン氏(李向陽、中国社会科学院世界戦略研究院院長)は強調する。
・中国はこれからも成長していく。日本も一帯一路に条件付きながら協力すると安倍首相は述べた。中国企業はこれから巨大になり、高度化する時代がくる。その時、中国は軍事力ではなく、経済面での古いルールを変えてくるはずである、とマハティール氏はみている。
・アセアンはどうするのか。今のところ中国は軍事力をちらつかせている。中国の出方はよくみる必要があるが、戦争でものごとは解決しない。中国のリーダーは話せば分かるはずである、とマハティール氏はいうが本当だろうか。
・もう1つの課題として、アジアにも本格的なテロが入ろうとしている。フィリピンのミンダナオ島では、ドゥテルテ大統領がIS(イスラムテロ国家)の拠点作りとの戦いを本格化させている。インドネシアやマレーシアでも火種はある。
・セキュリティ(安全保障)のための戦いは必要であるが、テロの本質、テロの憎しみとは何かについて、精神的な戦争と捉え考える必要があるとマハティール氏は示唆する。
・人口17億人を有する南アジアが、グローバル成長スポットとして脚光を浴びるという見方は本物であろうか。モノづくりという観点で、インド及び周辺国が注目されている。パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、ネパール、ブータン、モルディブなどがその地域である。
・GDPが7%で伸びており、労働力も豊富であるが、貧困も多く、栄養不足が2.8 億人に達する。南アジア域内での貿易は少なく、市場としての統合は全く進んでいない。これからチャンスはありという見方と同時に、宗教的対立もありなかなか難しいともいえる。互いの国の信頼関係は築かれておらず、テロ、人身売買、関税障壁などが歴然とある。社会インフラは全く不足しており、FDI(海外直接投資)もほとんど入っていない。
・それでも、バングラデシュは発展している。2021年には貧困国から脱出したいと、目標を掲げている。港も、発電所も、道路も鉄道も足らない。そこで全国に100の特区を作って、投資(FDI)を呼び込もうとしている。日本特区、中国特区を作る方向である。
・低開発国や発展途上国は、1)変な独裁者が搾取をしない、2)戦争をしないで平和を保つ、ということができれば、3)社会インフラ作りの援助が得られる、4)貿易に参加できればグローバルチェーンの中で、発展の機会が得られる。そうなれば、どの国も間違いなく成長できる。南アジアが成長を加速する可能性は確かにある。
・道路も水力発電所も鉄道も、一国を跨いでいく。いくつかの国で共同利用するというのが条件であり、地域の融和が必要である。中国の一帯一路もそうであるが、インフラの連携は不可欠である。
・近隣国はどの地域でもすぐに仲が悪くなるし、摩擦や紛争が絶えない。協調や信頼関係を確立し、維持するのが難しい。ここをどう乗り越えるか。ひとえにトップ首脳のコミュニケーションしかない、というのが一致した見方である。対立があっても、会って話ができれば、前に進むことはできるという考えである。
・アジアの安全保障はどうであろうか。世界は不安定化している。テロと難民が広がっている。秩序を保とうとする力がぶつかり合っており、その不均衡を意図的に利用しようとする行為は世の常で現在も跋扈している。
・北朝鮮とは、どの国もまともな話ができない。中世の御領主様のような独裁国になってしまった。レッドラインを越えれば、とんでもない暴発が起きるので、どの国もそこまでは追い詰めない。とすれば、手の打ちようがない。中国と米国が一定の話し合いを継続する中で、暴発を防ぐように収めていくしかない。
・中国は北朝鮮をコントロールできないが、そこそこ押さえることはできる。南沙諸島への進出も力でゴリ押ししてくるわけではない。大国としての覇権はいずれ手に入るので、ゆっくり進むという見方も有力である。中国は南シナ海での行動規範について、今年末までにアセアンと交渉をまとめるという。
・米国はトランプよりも強い。トランプ大統領は国内に弱い。トランプがどんな政策をとろうとしても、一定の歯止めが働き、米国の継続性は保たれるという見方がある。日本は北朝鮮の核武装に対しては、どのように手を打っていくのか。今までの枠組みでは決め手を欠く。いかに遅らせるかというのが精一杯かもしれない。
・こうした観点を踏まえて、今後の投資環境として、1)北朝鮮をいかに押さえこむか、2)中国、韓国とはどこまで未来志向になれるか、3)アセアンの発展は引き続き有望か、4)南アジアのポテンシャルは広がりをみせるか、という4点に注目したい。