ダウデュポンの登場に向けて~リバイス会長のトランスフォーメーション
・ダウ・ケミカル(Dow Chemical)のアンドリュー リバイス会長兼CEOの話を、11月の世界経営者会議で聴いた。リバイスCEOはダウ・オーストラリアに入社し、アジアでの仕事を経て、本社のトップまで伸し上がった。CEOになって12年、現在62歳で、米国シティグループの社外取締役も務めている。
・2015年末にダウ・ケミカルとデュポンは対等合併で合意、関連当局の認可を待っており、2017年春までには実現に至るとみられる。合併した後に、アグリ(農薬)、特殊化学、一般化学の3社に分割し、それぞれを公開会社にする。ダウ・ケミカルは5.3万人、デュポンは6.3万人の会社、合併すると30億ドルのコスト削減が見込めるとしている。
・発表時の想定では、時価総額1300億ドル(約15.8兆円)の「ダウデュポン」が誕生するとされた。この両社と事業連携している日本企業は数多い。リバイス会長のマネジメントに対する考え方はぜひ知りたいところである。
・リバイス会長は、ビジネスにおける役割の変化を強調する。世界の社会的変化にどう対応するのか。どのようなソリューションを提供するのか。アジアでビジネスをやってきた経験から、新興国の台頭を目の当たりにしてきた。一方で、日本に第2幕はあるのか。あるとすると、その幕間が長すぎる、と警鐘を鳴らす。
・リバイス会長が40年の経験で学んだことは、波乱時代のリーダーシップのあり方である。とにかくトップがマインドセットを変えよ。そうすると、会社は変わる。ルールを変えて、ゲームを変えていくべしと強調する。昔のやり方に戻ろうとしても、それは無理である。すぐに行動を起こす必要がある。ステークホルダーからみると、トップに対して、ファンになるか、批判するか、どちらかしかないのだから。
・常に2つのことを見つめる必要がある。①計器を見て、乱気流に対応しつつ、②目的地につながる遠くの地平線をみつめることである。投資家は瞬時にパフォーマンスを出せと言う。彼らは、長期的な経営には興味を持ってくれない。
・マッキンゼーの調査では、CEOは2年以内に成果が出ることに集中し、3年以上かかることに対しては、5割以上の経営者が短期のために長期を犠牲にするという。短期を無視すると大変なことになる。かといって、長期的視野を見失わないことがより重要である。
・では、どのように変革を実行するのか。第1に、変革を予見し、抜本的に変革するしかない。これは、オプションではなく、必須であるという。第2に、新しいビジネスモデル(BM)を追求する。そのためには、DT(デジタルトランスフォーメーション)が不可欠であるともいう。ダウ・ケミカルは10年前から、石油化学では生きていけないと判断し、変身を遂げようとした。今回デュポンとの合併を決めたのも、そのためである。
・価値創造のストーリー(ものがたり)を変えていく必要がある。具体的な行動が必要である。世界的な社会貢献に繋がっていなくてはならない。それが見えなくては意味がない。グローバルな課題は、政府だけでは解決できない。一方、企業の活動はフィランソロフィーではない。新しいソリューションを提案し、実行していくことにある。
・地球的課題に立ち向かっていく企業の活動が、新しい資本主義を形成していく。ダウ・ケミカルは2025年までに10億ドルを投入してエコシステム作りに貢献していく、と宣言する。社会に貢献し、利益を上げて、成功していく。このプロセスを一貫して追求する。これが新しいゲームのルールであり、そのためのストーリー(ものがたり)が問われると語った。
・リバイス会長は、この1年で45カ国を回り、240日間米国を離れていた。トップは直接対話する必要があり、そのために出かけていく。彼が認識する社会的課題は、1)貧富の差が拡大し、先進国で中間層が消えつつある、2)雇用は作られても賃金は下がっており、大学教育を受けても職がない、という点にある。これを国の政策だけで解決するのは難しい。社会に不満は溜まっている。政府と企業が一緒になって、次世代の希望を用意し、実現していくと強調する。
・それには、企業のBMを抜本的に変えて、全社員のクオリティを上げていくことに取り組む。①職を作り、②所得が上がるように、企業経営を展開する。そのために、もっと投資をする必要がある。
・人材は資本であり、資産である。グローバル化はさらに進展する。もっと人材に投資すべきであろう。IoT、AI、3Dはますます進む。この分野で米国は先んじている。日本はスクラムを組む必要がある、と提言した。日本はどこで勝つのか。そのインスピレーションを固めよ。そして、その人材教育に集中すべし。
・ダウデュポンは規模が巨大になるだけでなく、企業価値創造の地平線を見据え、そのためのソリューションを追求していく。ダウデュポンを規制当局が認めるか。そして、前進するか。新しい経営行動に大いに注目したい。