AI(人工知能)はどこまで進むか~生涯学習のすすめ

2016/02/01

・機械というのは道具である。人の代わりに力仕事を助けてくれる。人のできないことをすばやく実行してくれる。我々の生活は、この40年ますます便利になってきた。機械の自動化が進んでいる。コンピュータを組み込んだ制御技術が発達して、機械加工、製品組み立て、サービスサポートの自動化が飛躍的に向上している。

・機械が、予め決められた通り動くだけでなく、自分で状況を判断して働くようになると、だんだん人に近づいてくる。一定の領域においては、人よりもはるかに高い性能を発揮するようになっている。その判断する機能をAI(Artificial Intelligence:人工知能)と呼ぶならば、AIは人の頭脳を超えてくるのだろうか。

・AIをうまく便利に使いこなすことにフォーカスする。これが通常の見方であるが、AIがあまりに発達してくると、1)AIがこれまでの人の仕事を奪っていくのではないか、2)AIが人々の生活に何らかの害を及ぼすのではないか、という不安も台頭してくる。

・過去にもこうした議論は何度かあった。40年前を体験的に振り返ってみよう。当時、筆者は人間工学に興味を持っていた。ヒトの機能を①制御機能、②情報処理機能、③意思決定機能に分けてみると、当時のロボットは制御機能のウエイトが高く、ヒトの運動能力を代替して、より生産性を高めるように利用されつつあった。自動車工場の溶接ロボットがその典型であった。

・情報処理機能では、大型コンピュータが本格的に普及し始めており、大量のデータを集め計算して事務処理することができるようになった。しかし、意思決定機能はまだまだであった。決められた通りの判断やそのサポートはできても、人に代わるようなところまでは至っていなかった。

・将来の仕事として、制御機能としてのロボット分野に進むか、情報処理機能のコンピュータ分野に進むか、意思決定機能のポートフォリオ分野に進むかという選択肢の中で、人にしかできない意思決定が一番面白そうと考えて、ポートフォリオに関する仕事を選んだ。

・あれから40年、今やAI、ロボット、ビックデータは新しい局面を迎えている。これからの40年を展望すると、今までヒトの判断、意思決定に頼っていた領域がかなりAIに代替していくことははっきりしている。では、AIは人の生活を快適にするということを超えて、生活の基盤である働く場を奪い、ひいては争いごとの武器として一段と重宝されていくのであろうか。

・AIがヒトのある能力を超えること、すなわちシンギャラリティ(Singularity、技術的特異点)を越えることはすでに始まっているという見方もできる。産業革命以来、単純労働は機械化されると同時に、高賃金国から低賃金国へ移っていった。発展段階の違う国においても、仕事の質は常に問われるので、同じ仕事がずっと続けられるとは限らない。多くの仕事はいずれなくなっていくと考えた方がよいかもしれない。

・B to Cのバリューチェーンにおいて、CのコンシューマはAIを利用した商品やサービスの普及によって、人々の生活はより便利で快適、安全なものになろう。Bのビジネスにおいては、イノベーションをリードし、AIを先進的に活用しなくては、自社のビジネス領域で遅れをとり、競争に負けてしまう可能性がある。10年単位でみると、AIはチャンスであると同時に、自社の存立基盤を崩すことにもなりかねない。

・12月のカンパニーフォーラム(ワークスアプリケーションズ主催)で、セバスチャン・スラン氏の話を聴いた。スラン氏はグーグルXの創始者であり、現在はUdacityのCEOである。

・スラン氏はグーグルで車の自動運転をリードした。テクノロジーに境界線はいらないと考え、AIを使って社会的インパクトを出したいと考えた。一時点でみると車の97%は駐車しており、動いているのは3%だけなので、オンデマンドカーになれば、駐車場は相当いらなくなり、車の台数も大幅に減らすことができる。

・血糖値がいつでも計れるインテリジェントコンタクトレンズ、見たものを全て記録するグーグルグラス、ものを10分で届けるドローン(遠隔操作の自律無人飛行機)、皮膚がん(スキンキャンサー)を自動診断するAI(ニューロネット ディープ ラーニング)など、AIが人間の能力を上回る分野は次々と出てこよう。

・AIは便利であると同時に、既存の仕事を破壊する。弁護士、会計士、パイロット、セクリタリー、通訳、不動産仲介という仕事も大きく変質していく、とスラン氏は指摘する。サンフランシスコ空港ではかつて起きた事故以来、霧が出るとAIによる自動航行が義務付けられている。人の判断よりもAIの方が安全だからである。車の運転も、人よりAIの方が賢くなることは十分ありえよう。

・スラン氏は、ドイツ出身でスタンフォード大学の教授を務めていたが、一部の人々を教育するだけでは不十分と考え、大学をやめてUdacity(ユダシティ)という教育機関を創設した。今の教育制度は19世紀の形であって、もはや古く、人の生産性を上げていくには、新しい教育が必要であるという信念に基づく。

・大学は生涯学習のパートナーとなるべきであり、生涯教育のプロバイダーとして活動すべきであると主張する。ユダシティはオンライン学習を提供し、誰でも受けられる。スタンフォード大学の授業料が5万ドル(600万円)であるのに対して、年間733ドル(約9万円)と安い。

・テクノロジーの進歩は早い。5年、10年の間、何も学ばなければ早晩使いものにならなくなる。仕事をしながら学ぶ必要がある。AIが進展する中で、人がAIと共存するには、学び続けるしかないと強調する。

・日本は人手不足である。このままでは、日本の成長力は低下してしまう。しかし、生産性(1人当たり付加価値)を高めることができれば、それを克服することができる。そのためには、付加価値を生むような新しい仕事にシフトする必要がある。一言でいえば、AIを活用して、さらに人に喜ばれるような仕事を身に付けていけばよいといえよう。

・日本企業では、リクルートがユダシティと協業連携している。シンギュラリティ(AIが人を超えること)に対して、ビジネスパーソンがやるべきことは、既存の仕組みに安住することなく、環境の変化に目をそむけず、オープンに受け止めて、常に新しいことを学び挑戦していくことである。

・イノベーションに投資して、新しいビジネスモデルを作っていくことこそ、AIにおけるシンギュラリティを乗り越える要ともいえよう。スラン氏の提言と活動は、そのように受けとめたい。

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