ITに優れた企業とは
・9月にマイクロソフト(MS)の展示会に参加してみた。ITを企業経営にどう活かすか。どの会社もMSのシステムを何らかの形で使っている。
・ミノルタカメラの山名社長は、ものからことづくりへ、サービスのビジネス化を推進する。ものづくりの会社も、ものだけでは付加価値を十分生み出せない。ものを使う場面をこととして捉え、ことの中にサービスビジネスを作り出していく。一回だけのもの売りから、何度でも使う場面ごとのストック効果をサービス需要として捉えていく。このイノベーションを自力だけでなく、パートナーと組んで実現していくという考えである。
・CCC(カルチャー・コンビニエンス・クラブ)の増田社長は、自社を企画会社と位置付け、ライフスタイルを提案できる会社にするという。そのために、データが集まるプラットフォームを作る。そのデータを顧客価値に転換することで、ビジネスの拡大を図る。まさに、ビッグデータの活用である。二子玉川の蔦屋家電はその新しい提案である。
・日本郵便は受け取りロッカーサービスのはこぽす、全国どこでも360円均一配送のポスパケットなど、新しいサービスをどんどん開発している。11月の上場を控えて日本郵政(JP)グループは、JPの有するビッグデータから新しいソリューションを見出して、そのビジネス化を急ぐ。同時に、ビッグデータを扱えるマネジメント人材も育てていく。戦略的ITでMSと組んでいる。
・では、ITを活用して、生産性をどのように上げるのか。ワークスタイルの変革が求められる。ヤフージャパンはクラウドの活用をあげる。どこにいても働けるようにする。会議はいらない。大事なのは会話であるという。
・資生堂の魚谷社長は、変化のスピードにいかに対応するか。そのためには組織をフラット化し、ITを活用するという。日立製作所の岩田副社長は、海外売上高が5割を超え、海外の従業員も全体の30%を超えている。そのコミュニケーションツールとしてITはますます必要度を高めていくと強調する。
・MSジャパンの平野CEOは、1) テレワーク、モバイルワークの必要性、2)新しいコラボレーションに向けた現場での意思決定力の向上、3)データのコネクティビティを高める紐付け方、4)クラウドにあるインテリジェント(高度知識情報)のパーソナル活用を強調した。ITを本当に活用するには、業務プロセスと組織を抜本的に見直す必要がある。同時に、働く人々の自らの付加価値の源泉についても見直す必要があろう。
・次に、ビッグデータカンファレンスに参加して話を聴いてみた。ビッグデータ(BD)、IoT(もののインターネット)、AI(人工知能)は三位一体である。経産省は現在、第4次産業革命の羅針盤(新産業構造ビジョン)を作っている。
・個人情報について、匿名加工情報なら企業が利用できるようになったので、ビッグデータの利用価値は大きく上がってくる。法的な課題はまだいろいろある。例えば、車の自動走行(無人運転)は国際問題である。ジュネーブ条約に基づいて日本の道路交通法も作られているが、車にはドライバーがいなくてはいけない。これを変えるには、ジュネーブ条約から見直す必要がある。
・内閣府の小泉進次郎政務官は、3K(勘、経験、勘違い)に頼る政治ではなく、エビデンス(科学的根拠)に基づく政策立案をしていくには、データの分析を通して政策の質と精度を上げていく必要があると強調した。最近国が作っているリーサス(RESAS:地域経済分析システム)では、①産業マップ、②人口マップ、③観光マップ、④農業マップ、⑤自治体比較マップが利用可能となっており、ダイナミックなデータの動きを通して、地方創生の政策立案やビジネス創出に効果を発揮するものと期待されている。
・一つの公共体が有するデータや、一つの企業が有するデータの活用だけでなく、複数の組織体が有するデータを互いに利用し合って、より新しい知見を見出し、それを新しいサービスやビジネスに活かすということもできるようになる。医療データに対しても、そのような方向に進むことが望ましい。
・ビッグデータをリアルタイムでアクションに結び付けたい時、AIが威力を発揮する。AIの分野では、最近ディープラーニング(深層学習)が進んできた。また、認識機能のレベルアップも進んでいる。かつてはできなかったみかんを見分ける、魚を見分けるという高度な認識が機械でできるようになってきた。こうした認識の高度化で、例えば監視コストが従来の100分の1になるとすると、全く新しい仕組みが実現できるようになろう。
・ものづくりにおいても、まずデータをとり(BDのセンシング)、それを集めて判断し(AI)、
そして機械を動かす(ロボット)というIoTが本格化しようとしている。IoTとは、ICTの進化した形であるが、東大の森川教授はそれをデータ駆動型経済という。データを集めたものが勝つという意味である。IoTとはものの情報を集めるメカニズムである。
・森川教授はIoTの例として、モバイルヘルス(院内から院外へ)、スマートメンテナンス(橋やトンネル)、スポーツ(経験と勘からデータベースへ)、古紙回収システム、マイカートランク利用型運送など、さまざまな例を挙げる。確かに新しい利用法はいろいろ出てきそうである。
・IoTは共創である。今まで独立していたシステムを連動させて新しいサービスや価値を生み出す。電気代が安い時間帯に洗濯機が動くというようなことはすぐできそうである。つまり新しいテクノロジーではなくても、既存の技術ですぐにもできることある。しかし、日本ではこの共創が働きにくい面がある、と森川教授は指摘する。
・CCCの蔦屋が始めたT pointは、今やみんなが使うプラットフォームになり上がった。現在5500万人が使っており、ポイントを貯めている。いろんな企業が入ってきたので、このアライアンスから新しいデータ分析が可能となっている。1歳刻みの人気音楽の動き、その地域に合ったスーパーの新しい店作り、外食チェーンの商品作り、外車ディーラーの集客企画、マンション販売の見込み客作りなどに、今までにない新しいビッグデータの活用が始まっている。CCCマーケティング社はT pointの運営と共に、そのデータを利用したマーケティングやコンサルティングに事業を広げている。それを通して増田社長のいう生活提案を実践していこうとしている。
・ビッグデータは今あるデータの活用を目指すが、それ以上に重要なことは、今までにないデータを集めることである。データを作って、その利用を考える。SB(ソフトバンク)の柴山副本部長(ビッグデータ戦略本部)は、データサイエンティスト(DS)には、①ロジカリティ、②イマジネーション、③インスピレーションの3つの能力が求められるという。データを論理的に分析する。それをみて、マネジメントの視点で仮説を立てる。さらに、データから見えてくる先にあるものを感じることである。そんなDSはなかなかいない。それなら、社内で人材を育てていくことが最も重要であると強調した。
・クックパッドはビッグデータのかたまりである。料理レシピをみんなが投稿してくる。今や200万品のレシピが載っている。毎月5600万人が利用している。日本語だけでなく、英語、スペイン語、インドネシア語、アラビア語のクックパッドも始まっている。このデータを社外に販売している。食品の企画に企業が利用している。例えば、地域特性を分析して、北海道ではカレーラムが生まれ、沖縄ではカレーヨーグルトが人気となった。
・クックパッドの特長は、とにかく何でも公開する。レシピを公開する。ノウハウを公開する。スキルを共有する。そのことを通して、実はデータをより一層集積していく。そのことが差別化になるので、他社はまねできなくなる。まさに、ビッグデータの究極の姿であろう。
・IoT で従来の産業セグメントが崩れていく可能性が高い。BDやAIで新しいビジネスモデルが次々と生まれ、サービスの生産性が上がっていく。その時、働く人々の付加価値はどこにあるのか、が改めて問われよう。それについて筆者は、マン-マシン・シンバイオシス(ヒトと機械の共生)にあると考える。どこまでいっても、ヒトにしか感じられないこと(センサー)、ヒトにしかできない情報処理(プロセッシング)、ヒトとしての判断力(デシジョンメイキング)、ヒトとしての細やかな動き(アクチュエーター)、さらにグループの中での気配り(コミュニケーション)などが機械と共存する。この共存する仕組みのイノベーション(革新)の中で、新たな価値創造がなされよう。