東芝問題を考える~社外取締役に求められる資質

2015/08/17

・東芝の不正については、まだよくわからないことが多い。そのよくわからないことを、社外取締役の立場で考えてみよう。

・1つは、社外取締役の現場を見る力である。外部から見て、ビジネスが上手くいっていないということはわかるはずである。環境悪化と競争劣位の進行で、どうすればよいかという決め手が得られない場合もある。

・そうすると、赤字を減らすという縮小均衡の手を打つしかない。この時に、抜本的な手を打つことをトップマネジメントは嫌う。しかし、相対的危機の局面で対応しないと、絶対的危機まで追い込まれてしまう。

・執行は社長に任せているのだから、回復を期待してゆっくり手を打つといわれれば、それもありということになる。その時に、現場で不正が行われるとは普通考えないが、人は追い込まれると、とんでもないことをする場合がある。

・厳しい事業を担当する責任者や、現場のさまざまなレベルの担当者に、よく意見をきく必要がある。このような調査を行う必要がある。取締役会に出るだけでは分からない。それとは別にヒアリングやディスカッションを行っていく必要がある。経営陣が嫌うかもしれないが、こうした対話を行うことに何ら問題はない。

・これにはかなり時間が取られる。それでも、社外取締役が必要に応じてビジネスの実態を把握しようとすれば、このような行動が求められよう。これが社外取締役にできるかどうかが、重要な資質の1つである。できない人は社外取締役に向いていないといえよう。

・2つ目は、投資家の立場を身に付けていることである。社外取締役は常に少数株主の立場で経営を監督していく必要がある。とすると、投資家の気持ちが分かる必要がある。最も大事なことは、中長期的な企業価値創造としてのROE経営を理解し、その視点で経営をみることである。

・それには、ROE経営を実践した経営者であることが求められる。これまで経営者であったといっても、「伊藤レポート」でいうROE経営が十分理解出来ない人が、経営者としての経験を社外取締役として活かすといわれても必ずしも十分ではない。

・もちろん社外取締役もポートフォリオであるから、人材は多様であってよい。さまざまな経験を活かして、その会社の経営を監督していく。しかし、その人材の中にROE経営が身に付いた人を一人以上入れるべきであろう。とすると、機関投資家で株式運用を実践し、マネジメントを経験したような人も望ましい対象となろう。

・3つ目は、トップマネジメントが本当に優秀かどうかを見抜く力量を持つことである。役員として選ばれ昇進した時に、その人がこれまでいかに成果を上げて、どんな資質を見込まれ、将来何を期待されているかを知る必要がある。社外取締役にそんなことが分かるのか。分かる必要がある。

・取締役会でそれがわからないとすれば、その取締役会での議論が十分でない可能性がある。十分でないとすれば、別の形でそれを知る必要がある。社長は後継者を自分で決めたい。当然であろう。しかし、リーダーシップが独断的偏向にならないような仕組みを作る必要がある。そうでないと、社外も社内も納得しない。

・難しくはない。マネジメント層の人材と業務の実態を知るという意味で、個別に話していけばよい。この動作をきちんとこなすことが求められる。社外取締役になるような人は、このことが出来るはずである。これが無理という人は社外取締役に向いていない。

・①ビジネスの中身を追求する力、②ROE経営を評価する力、③マネジメント人材の経営能力を見抜く力、この3つが社外取締役には求められると考える。東芝の社外取締役はどうであったか。それでも組織ぐるみで粉飾が行われたとすれば、不正を追求することはできなかったかもしれない。

・1つの限界がありうる。しかし、何か予兆はあったのではないか。もし自分がその立場であったら見抜けたか、何らかの行動を開始したか。この問いを重く受けとめたい。

・多くの場合、不正を実行する人間は一人ではない。必ず仲間がいる、そうでなければ、組織のためであっても怖くてできない。それを防ぐには、1)不正は絶対にばれる、2)よって絶対にやってはならない、というカルチャーを組織能力として身に付けていくしかない。内部通報という仕組みが機能すれば、うそは必ず発覚すると覚悟すべきであろう。

・東芝は例外か。今回の事案に関しては例外かもしれない。しかし、同じことが起きる土俵は、どの会社にもある。それが起きないように、人材の教育と組織の仕組み作りを行ってきたはずである。ガバナンスをしっかりして企業価値を上げようという時代に、粉飾で見た目をよくしようというのでは話にならない。

・2代目伊藤忠兵衛は、「うそをつくな。一度をうそつくと、必ず何倍にもなって暴れだす」と諭した。この名言を肝に銘じたい。同時に、投資家の「企業を見抜く目を養う」という鍛錬は、経営者や社員の人材教育においても一段と重要性を増すことになろう。

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