コーポレートガバナンス・コードを投資に活かす

2015/05/25 <>

・3月にコーポレートガバナンス・コード(CGC)の原案が策定された。金融庁と東京証券取引所が事務局となっており、この6月からは取引所のルールとして実行に移される。金融庁の油布企業開示課長の話を聴く機会があった。これをいかに投資に活かすか。この点について考えてみよう。

・CGCは、上場企業が自社のコーポレートガバナンス(企業統治)の仕組みを強化する上での指針となる。原則主義(プリンシプルベース)であるから、決められたルールに違反しないように守ればよいというものではない。CGCの原則にある考え方に従って、各社が自分で方針を定め実行していく。それを評価するのは株主であり、ステークホルダーである。5つの基本原則を軸に、補充原則まで入れれば、73本の原則がある。これらをすべて満たす必要はない。コンプライ・オア・エクスプレイン(「順守せよ、しないなら説明せよ」)であるから、自社に合ったように工夫すればよい。原則に従わない場合は、株主に分かってもらえるように、きちんと説明すればよい。

・企業は、自社のコーポレートガバナンスの独自性を自らの言葉で語る必要があり、原則に従わない場合も、自社固有の状況を説明して理解を得る必要がある。株主やこれから投資対象にしようとする投資家は、各々の会社のコーポレートガバナンスがどのくらいしっかりしているか、を判断する。もしCGCを順守しない場合は、その説明が十分納得できるかどうかをみていく。

・一見難しそうでもあるが、実はさほどでもない。どうすればよいか。何社かを比較して、その違いを抽出していけば、ガバナンスの良し悪しは次第にみえてこよう。CGCを何のためにつくったか。それは、企業の持続的成長と中長期的な企業価値向上を図るためである。もちろん、CGCに従ってガバナンスを強化すれば、それだけで成長性や持続性が確保できるというものではない。しかし、コーポレートガバナンスを強固にすることは、企業価値の向上に結び付く蓋然性(可能性)を高め、株主や投資家の期待に応えることになるはずである。

・CGCの建前はわかった。ならば、何をやればよいのか。社外取締役を2人入れればよいのか。入れたら何かよいことがあるのか。よくわからないが、入れろというなら誰かを選んで入れるしかない。一応対応しておけばよい。もしこのような企業があったとすれば、それは形式基準を満たせばよいという姿勢であって、本来の趣旨や精神を取り入れておらず、やったふりで済まそうという企業かもしれない。それでも業績が上がれば文句なしといわれそうだが、そうではない。表面的な姿勢がみえみえであれば、投資家の信頼を得ることはできない。

・6月より東証1部2部上場企業を中心に、CGCに則したコーポレートガバナンスの確立に向けて、実行が義務付けられる。①コンプライしてどういうガバナンスを確立したのか、②まだできていないこと、やらないことをどうエクスプレインするのか、を含めて、コーポレートガバナンス報告書に記載する必要がある。初年度ということもあり、その報告書の提言期限は2015年12月と長めになる。よって6カ月間ほど、次の対応を考える猶予期間もある。例えば、複数の社外取締役をこの6月の株主総会までに、見出すことができなかったとしても、次の6カ月の間に方針を定め、人選を進めることはできよう。そして、来年には条件を満たすようにするということもできよう。

・株主総会や会社説明会では、1)コーポレートガバナンス体制をどのように変化させたか、2)その本質的狙いは何か、3)どんな効果を期待し、実際効果は出ているか、4)課題があるとすれば、どのように手を打っていくのかなど、きちんと対話していくことが重要である。投資家としては、社長の経営力を知ることが最も重要であるが、社外取締役の資質や活動についてもよく知っておく必要があろう。

・5つの基本原則とは、①株主の権利、平等性の確保、②株主以外のステークホルダーとの適切な協働、③適切な情報開示と透明性の確保、④取締役会等の責務、⑤株主との対話である。具体的には、少数株主の権利や平等性を損なうことのないようにする。従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会などステークホルダーと適切に協働する。法令に基づく情報開示だけでなく、経営課題、経営戦略、リスクマネジメントやコーポレートガバナンスに係る非財務情報についても有用性を高める。取締役会は、1)企業の大きな方向性を示し、2)適切なリスクテイクを支援し、3)独立した客観的な立場から経営の執行サイドを監督する。そして、株主と建設的な対話を行い、互いの理解を深めるように行動する。

・今回のCGCは、社長など経営の執行サイドにブレーキをかけるものではない。むしろコーポレートガバナンスを強化することによって、もっとリスクテイクしてほしいという考えである。これが「攻めのガバナンス」といわれる所以で、アベノミクスの成長戦略の柱として取り上げられた理由でもある。

・会社をよくするのは、第一義的に社長(CEO)である。ただし1人ではできないし、十分でもない。いかに組織能力を高めるか。その1つの要がコーポレートガバナンスである。企業が中長期的な価値創造を行い、収益性を高めていくには、①経営者の経営力、②事業の成長力、③ESGへの適応力、④業績変動に対するリスクマネジメント力が問われる。それを集結したものが、ビジネスモデル(価値創造の仕組み)であり、その頑健性がサステナビリティのコアとなる。

・投資家はROE至上主義ではない。しかし、いかにエクスプレインされたとしても、低ROEに満足することはできない。資本効率を上げて一定水準はクリアしてほしい。上場企業の平均ROEは8%を超えてきたが、これは平均であって、この平均を下回っている企業も多い。①まずは8%をクリアすること、②次に10%の二桁を目指すこと、③さらにドイツ並みの12%を目標にし、④最終的には米国並みの15%がターゲットになろう。それを生み出す仕組み作りに自社の独自性を発揮してほしい。その独自性を投資家は評価する。価値創造のプロセスを‘見える化’して、投資家との対話が進めば、そのことがビジネスモデルの強化にも結びつこう。その枠組みを構成する重要コアの1つがCGCであると評価したい。建前でなく、魂の入ったガバナンス体制を作っていく企業にこそ投資をしたいものである。

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