どんな株に投資するか~スマートベータとアルファ

2015/04/07

・米国の運用会社であるRA(リサーチ・アフィリエイツ)のジェーソン・スー副会長(カリフォルニア大学ロサンゼルス校特任教授)の話をアナリスト協会で聴いた。それを参考にしながら、どんな株に投資するのがよいかを考えてみる。

・学問として、投資商品や投資家行動を分析する時は絶えず統計を用いて、その分析データが意味のある違いを示しているかどうかを問う。米国には学者もデータも揃っているので、実証分析は米国市場が中心となる。統計的に有意であるといって、誰もがそのようになるわけではない。あるいは、統計的に有意でない、つまりデータに仮説を説明するだけの違いがみられない、といっても個々のケースではよい時も悪い時もある。投資家としては、そうした意味についてもよく知りたいと思う。

・株式投資を考える時、まずは市場のインデックスの上げ下げをみる。その次に、市場のインデックスとは違った個別の株の変動をみる。市場と同じように動く要素をベータ(β)、市場の動きとは別の独自の要素をアルファ(α)という。個別株投資でいえば、市場がどうなろうと、上がる株を持ちたいと思う。あるいは、市場が上がる時にもっと上がる株、市場が下がる時にあまり下がらない株を持ちたいと思うかもしれない。これを1つの株式で満たすことはかなり難しい。そうすると、いくつかの株で構成されるポートフォリオを作っていく。そのポートフォリオの作り方によって、それぞれの新しい個性が出てくる。

・インデックスにもいろいろある。日本株でいえば、日経225が一般的であるが、プロの年金運用者はトピックス(TOPIX)を最も重視する。最近では、ROEを重視したJPX日経400というインデックスが注目されている。一般に基本となるインデックスよりも、もう少しパフォーマンスがよくなるようなインデックスを、スマートインデックスと呼んでいる。そのインデックスがもつベータ(スマートベータ)が、もとのインデックスを本当に上回るパフォーマンスを上げられるかが注目される。もしパフォーマンスがよいならば、そのスマートインデックスに投資すればよいことになる。

・スー副会長は、スマートベータは1つのインデックス投資であるから、そのインデックスが超過リターン(プレミアム)を得るには、そのプレミアムを生み出すファクター(要因)について、よく知る必要があるという。株式プレミアムについては、この15年で250のファクターが見いだされ、議論されてきたが、大きくは6つのファクターに分けられると指摘する。その6つとは、①サイズ、②クオリティ、③リクイディティ、④モメンタム、⑤ローベータ、⑥バリューである。この6つのファクターのうち、どれが最も頑健(ロバスト)であるかを論じた。

・サイズでは、スモールキャッププレミアム(小型株効果)が比較的注目されるが、実はこの効果はないという。つまり、小型株の方がプレミアム(超過リターン)を生むというデータは出ていない。小型株インデックスを採用して、よいパフォーマンスを上げられるわけではないということになる。

・クオリティはどうか。何らかのクオリティのよさを定義して、それに基づいてクオリティプレミアムを追求する。そのような70の定義に基づくインデックスを分析してみると、アウトパフォームしているものと、アンダーパフォームしているものが半々で何ともいえないという。優れたマネジメント、よい商品・サービス、ROEのよさといっても、それだけで市場をアウトパフォームできるわけではない。

・リクイディティ(流動性)には有意性がある。実際、リクイディティが低いインデックスの方がよいシャープレシオ(リスクに対するリターンの良さ)を示すという。しかし、リクイディティが低いということは、実際の場面では株が買いにくく、売りづらい、ということになる。つまり、トレーディングコストが高くつくことが多いというディメリットがあるわけだ。

・モメンタムは簡単でない。株の上げ下げの勢いを追うので、素早い行動が必要である。高速取引(HFトレード)で他者を出し抜ければよいが、現実にモメンタムプレミアムをとることはかなり難しい。

・ローベータプレミアムは有効である。低いベータのポートフォリオをインデックス化すると、そのシャープレシオはかなりよい数値を示す。ギャンブル好きのようなハイベータを追うことは非合理的であるが、そういう投資家がいればいるほどローベータにプレミアムが出ることになる。ローベータ、つまりローボラティリティ(低い変動性)のアノマリー(アルファの要因)は今やポピュラーになっているが、1年に1回程度のリバランスでよいので、運用のキャパシティを大きくすることもできる。

・バリューはどうか。これもよいパフォーマンスの上げるのに効果がある。過去のデータでも予測のデータでも通用するという。人々はネガティブなニュースに過剰に反応する行動をとりがちである。よって、行動経済学的にみて、プレミアムが生まれる可能性が高い。日本の株式市場でもこのバリュープレミアムは顕著である。

・スー副会長の見立てをどのように応用するか。まずは自分が保有する株式の商品、投資信託やポートフォリオがどういう特性を持っているかを確認する必要がある。日本株でいえば、日経225やトピックスのようなインデックスであるかどうか。あるいは、1)サイズでみて大型株か小型株か、2)クオリティでみて、ある特性を持った優良株か、3)流動性(出来高)は大きいか小さいか、4)相場の勢いに反応しやすいモメンタムを持っているか、5)相場の上げ下げに左右されないローベータか、6)割安株といえそうなバリュー型かどうかを検討してみる。その上で、ローベータやバリュー型であれば安心できそうであり、パフォーマンスもよくなりそうである。

・本当にそうだろうか。ポートフォリオがそれぞれの特性を有したインデックスであれば参考になろう。また、それとほぼ同じような投資信託(ETFなど)であればよいかもしれない。自分なりのポートフォリオで作っているのであれば、ポートフォリオの特性を知っておくという意味において参考にしてよい。しかし、とらわれる必要はない。自分なりの考えで、独自のポートフォリオを作っているのであれば、心配しなくてよいかもしれない。しかし、パフォーマンスが何らかのインデックスにいつも負けているならば、再考する必要がある。個別銘柄のαをとるようなアクティブ運用は、インデックスになかなか勝てないというのが常識(「敗者のゲーム」)である。

・自分なりの考えで、長期的にαがとれるのであればよい。そのための工夫と努力が問われる。その時にも、ローベータ型かバリュー型かは検討してみる必要があろう。その上で、小型成長株投資、大型優良株投資などを実行するには、その企業の成長性や持続性(サステナビリティ)をよく理解して納得することが求められる。スマートベータやαの源泉をよく知っておくことがカギであろう。

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