大和ハウスグループの夢
・昨年12月に大手証券会社主催のインベストメントフォーラムで、大和ハウス工業の大野直竹社長(COO)が内外の機関投資家向けに今後の展望を語った。この時の模様をウェブで観ることができる。業績は順調で、3カ年の中期計画を1年前倒しで達成できるようである。同時に、次なる展開への課題も指摘しており、大いなる挑戦を続けている。
・機関投資家向けのプレゼンでは、会社の基本的な内容について既にわかっているという前提であるから、一般の投資家にとっては理解しにくい面もある。そんな時は一度プレゼンを聴いた後に、会社のホームページを見るとよい。とりわけアニュアルレポートを読むと会社のことがよく分かる。大和ハウスのアニュアルレポートはよくできている。総合報告書という視点ではさらに改善すべきところもあるが、このレポートを読んでから、もう一度大竹社長のウェブを観ると、会社に対する理解が一段と深まる。‘会社を見る目を養う’には役立つ方法であろう。
・当社は1955年に設立された。創業者である石橋信夫氏は創業100周年の2055年に売上高10兆円の企業グループになることを夢とした。60年を迎える現在、2.8兆円まできている。単に規模を追うのではなく、「人・街・暮らしの価値共創」をビジョンとして、企業としてのサステナビリティを追求している。
・創業来の戸建住宅は、2015年3月期の会社計画で売上高3650億円、営業利益40億円(前年度比-70%)を見込んでいる。戸建住宅の売上構成比は13%であるから、そのウエイトはかなり小さくなっている。伸びているのは別の分野である。今期の営業利益1730億円のうち、稼ぎ頭は賃貸住宅730億円(売上高営業利益率9.4%)、店舗建設などの商業施設620億円(同14.2%)、物流施設などの事業施設350億円(同5.9%)である。
・この10年で売上高は2倍以上に拡大したが、ハウジング事業は65%から52%へ、商業、物流、医療介護施設などのビジネス事業が22%から37%へ、リゾート施設、ホームセンター運営などのライフ事業が13%から11%となった。ビジネス事業が大きく伸びてきたのである。
・今後をみると、1)ハウジング事業では、リフォーム事業との連携やストック活用型の拡大、2)ビジネス事業では、商業建物の運営・管理、高機能型物流センターの開発、3)ライフ事業では、高齢福祉や健康余暇施設の拡大などに力を入れる。また、4)リートを活用したアセットマネジメント事業も一段と強化していく。同時に、5)グローバル展開を加速する方針である。
・現在進行中の第4次中期経営計画では、2016年3月期に売上高2.8兆円、営業利益1700億円、純利益1000億円、ROE10%以上の達成を掲げているが、これは1年前倒しで、今期中に達成できよう。
・今回の中期計画は3年間で6500億円の投資を計画しており、その内訳は不動産開発に4000億円、設備投資1500億円、海外500億円、M&A500億円という内容である。そのために、2013年7月に公募増資を中心に1380億円のエクイティファイナンスを実施した。中心となる不動産開発への投資4000億円については、この2年で既に80%の進捗をみせている。
・足元をみると、1)消費税の駆け込みの反動で戸建住宅が不振であるが、2)これを当社が主力とする賃貸住宅、商業施設、物流事業で十分カバーしている。3)地価が上昇しているので、レジデンシャルの投資案件については、良好な物件の取得がしにくくなっている状況にある。
・リートに関しては、大和ハウス・レジデンシャル投資法人、大和ハウス・リート投資法人が上場している。当社からの物件売却については、リート会社の独立性は確保しつつ、各々の会社の方針に沿って、妥当な価格での売却を考慮していく。
・中期的にみると、物流施設を中心に2020年のオリンピックの前後に向けて案件は拡大しており、2017年4月に再び消費税が上がるとしても、事業全体としては問題なく乗り切っていけよう。
・海外事業については、中国での分譲マンション事業、ベトナム・インドネシアでの工業団地開発、米国テキサス州での高級マンション賃貸事業、豪州シドニーでの住宅・商業・ビジネス施設開発などに力を入れている。フジタの買収で海外部門の強化も図っている。しかし、まだ規模は小さく、当社のコア事業とよべるほどではない。先行投資の局面である。次の10年で売上高5000億円、営業利益300億円は目指したいというのが、大野社長の考えである。
・2020年以降を考えると、海外事業を伸ばすことが必要である。また、収益の安定性を考えると、請負型よりもストック型ビジネスを目指す方がよい。ストック型は資産を自社で保有することになるので、負債が増えてバランスシートが劣化する可能性がある。現在の財務バランスは良好な状況にあって何ら問題はない。リートの活用も有効である。D/Eレシオ(負債資本比率)については0.5の水準を1つの上限としている。また、2015年3月期のROEも10%以上(前期は11.9%)が確保できる見込みである。
・しかし、今後事業が拡大し、売上高で3~5兆円を目指す中で、妥当なD/Eレシオをどの水準において、開発事業を進めるのか。不動産投資ビジネスの新たな枠組みが課題である。大野社長は、大和ハウスグループの次のビジネスモデルのあり方について戦略を練っている。投資は続くので、株主還元については配当性向30%を目途としている。ストック型ビジネスを強化しつつ、グローバルビジネスの収益力向上をいかに図るか。大和ハウスグループの今後の展開に注目したい。