リコーの環境経営とNRIの未来創発経営
・リコーとNRIの個人投資家説明会に参加した。Q&Aで良い質問が多発された。大いに楽しかったので、そのポイントについてまとめてみた。
・リコー(コード7752)は初めての個人投資家向け説明会であった。三浦社長は自分の言葉で自由に語っていた。もうすぐ創業80周年を迎えるが、業績の回復と次の事業展開に自信を持ってきたのであろう。今後は年に1~2回、個人投資家向けをやっていきたいという。現在PBRは0.9倍であるが、1.0倍に戻すだけで株価は1400円を超えてくると強調するところから始まった。
・中期3カ年計画では、オフィス事業の収益力強化と新規事業への投資に力を入れる。オフィス事業は先進国と新興国で状況は異なり、先進国はさほど伸びないが収益源のサービスを3カ年で1.3倍にする。伸びる新興国では売上げを2倍にする計画である。
・コピー、FAX、プリンター、スキャナーといった機能を持つ複合機は、従来は紙への印刷というアウトプットであったが、これからは他のデバイス(プロジェクター、インターラクティブホワイトボード、タブレットなど)へのアウトプットを図っていく。
・オフィスでの新規事業では、オフセットに代替する商業印刷、FA(ファクトリーオートメーション)、車載(自動車用)、セキュリティ向けのレンズ、センサー、監視カメラなどを伸ばす。
・全く新しい新規分野としては、光学、画像、センシングを使ったサーマルラベル(書き込み消去が自在にできるラベル)、周りの360°の画像が撮れるカメラ(介護用、見守り用、農業用など)、3Dプリンター(すでにヘッドでは当社製が使われている)など、3年で年商100億円規模のビジネスを3つ作り、将来は1000億円単位の事業へ拡大していく。
・その軸となるのが環境経営である。環境に関して、当初は‘環境対応’から始まった。その後‘環境保全’へと続き、現在は「環境経営」と称している。環境を保全するだけでなく、そこから利益を稼ぐビジネスとして捉えている。そして、今後は新たな環境事業を創出していく。つまり、環境対応はコストであり、環境保全はリスクマネジメントであるが、環境経営は、環境を本業として事業化することである。その1つの象徴が、神奈川県の海老名駅西口におけるまちづくりへの参画である。そこで、リコーが持っているこれまで技術力とサービス力を活かして、新しいビジネスフィールドを拡げていく方針である。
・2015年3月期の営業利益予想は1400億円であるが、それを2017年3月期には2000億円へ持っていく。ROEも現在の8%が10%を超えるところまでいこう。総還元性向30%として、今期の配当は34円を予定している。株主優待も1)優待品(カレンダー)、2)優待イベント(抽選:カメラセミナー、市村自然塾(市村清創業者)、ラグビー観戦、リコーフィル演奏会)、3)カメラ特別販売(割引価格)など、リコーへの親しみを重視している。
・投資家からの質問では、1)円高、円安という為替に対する感応度は今どうなっているのか、将来はどうするのかと聞かれた。これに対しては、USドル1円で13億円ほど利益が変動するが、これを8億円に下げていくべく手を打っている。将来とも為替感応度を下げていくという説明があった。
・2)商業印刷を伸ばすというが、M&Aは考えているのか。これに対しては、すでに日立グループとIBMからプリンティング事業を買収しており、これを軸に伸ばしていける。この事業においてM&Aは考えていないと、三浦社長は話した。
・3)今後のグローバルな生産体制はどうしていくのか。すでに8~9割は海外で生産している。中国、タイ、仏、英、米などで適地生産をしており、日本はより高度なものを作っていくという。
・4)複写機は紙で儲けてきたが、サービスをどうビジネスに活かしていくのか。サービスで儲けているのは事実であるが、その比率については明らかにしにくい。これからもハードとサービスを複合化することで競争優位を築いていくとの説明がなされた。
・野村総合研究所(コード4307:NRI)については、室井副社長から説明があった。NRIというと、シンクタンク、経済調査機関というイメージが強いかもしれないが、実は社員9000名を超える情報システム会社である。
・コンビニのセブンイレブンでは、日本の1.7万店舗、米国の8000店舗、カナダの500店舗、中国の200店舗など、内外を含めてそのPOSシステムの運用をNRIが全面サポートしている。国内のセブンイレブンのATM 2万台についても、NRIがその運用を担当している。
・NRIは2015年に創業50周年を迎える。ビジネスの基本は「ナビゲーション(問題発見)×ソリューション(問題解決)」にある。つまり、リサーチをして、コンサルをして、コンピュータ(IT)を実際に動かす、というビジネスを行っている会社は世界にない。極めてユニークなビジネスモデルを確立している。
・ビジネスにおいてデータが命であり、それを守るデータセンターは、東京に4つ、大阪に1つあり、逐次最近のものにしている。もう1つ重要な資産は、人材である。NRIの社員数は現在9300人であるが、毎年300人の新卒を採用している。新卒の65%は大学院卒である。極めて優秀な人材が入っている。この他に、国内では100社以上、9000人のパートナーがNRIのために働いている。また、中国では21社、5500人がNRIの仕事を分担している。中国の企業とは、日本語でやりとりができるというのが最大の強みである。インドにも子会社を作り、200~300人に増えつつある。
・2015年3月期の業績は、売上高4000億円、営業利益530億円、売上高営業利益率13.3%を目指している。1人当たり売上高5000万円、1人当たり営業利益600万円というのは、いずれも業界トップである。
・NRIの経営ビジョンは「未来創発」にある。つまり、自分たちで未来を創っていく。未来に対して大いに貢献していこう、という発想である。成長戦略としては、金融から産業へ、国内から海外へ、と事業領域を拡げていくことにある。
・大きな変化は、リーマンショック後止まっていたIT投資が動き出した点にある。アベノミクスの影響もあり、多くの企業が新しい投資をスタートさせている。金融の分野ではマイナンバーなど制度が変わっていくので、それへの対応が重要を生みだす。また、顧客がITシステムを自ら所有するのではなく、利用する形に変化しており、共同利用を提供するNRIのプラットフォームが一段と使われることになる。
・NRIは年率7%の安定かつ着実な利益成長を目指す。自社の内部成長に加えて、M&Aの効果も上乗せしていく方針である。配当性向はこれまで30%であったが、収益力が高まってきたので、これを35%に上げていく。今期の配当は従来の56円が60円となろう。
・Q&Aでは、1)それだけの顧客情報を持っていて、情報漏えいの心配はないのか。どのように手を打っているのか。これに対しては、生のデータは会社の心臓部に保管しており、何重にも防御されているので、入っていくことはできない。アクセスは全てログをとっており、情報管理は徹底している。中国でのソフト開発でも、テストデータに生のものは使わず、外部との接触はすべて遮断している。
・2)ハッカー、ウイルスに対してはどのような手を打っているのか。サイバーセキュリティについては、NRIセキュアテクノロジーという会社を持っており、すでに300人になっている。NRIの情報システムに対して、どこまで侵入していけるかというペネトレーションテストを、その部署に知らせることなく行っている。新種のウイルスやワームに対しても、新種がきたらすぐに対応するようなコンソーシアムを作っている。
・3)銀行のシステムではNTTデータなどが強いときくが、NRIはどのようにつながっているのか。預金のシステムでは既存のシステム会社が強いが、銀行が新しく始めた投資信託では、NRIのシステムが105の銀行に入っている。つまり、銀行でも新規の金融証券ビジネスには大いにチャンスがある。
・4)顧客によってシステムが違うと思うが、どのように対応しているのか。マルチベンダー環境に対応できるというのが、NRIの強みである。共同利用についても、一定の標準化を行っているので、このプラットフォームに乗ってもらうことで、全体のつながりを効率化している。
・5)グローバル化するというが、海外ビジネスはなかなか伸びていない。今後はどう展開するのか。コンサルの売上比率は全体の6.6%に留まる。ウエイトは小さいが、このコンサルの海外比率はすでに30%になっている。ITソリューションについては、海外において日本流は無理である。海外流を入れていく必要があり、その足場作りに力を入れていく。3年はかかるとみている。
・以上のように、リコーとNRIのプレゼンはいずれも優れていた。参加した個人投資家の質問も的を射ていた。60分のうち40分がプレゼン、20分がQ&Aであった。妥当な配分であろう。プレゼンの内容に関するベルレーティング法による評価は、12点満点中リコーが9点、NRIが10点という評価であった。今後の経営展開に注目したい。