納得できる企業価値とは~投資家は何を知りたいのか~

2014/09/22

・企業価値をいかに高めるか。伊藤レポート(経産省)の議論を参考にしながら、いくつか考えてみたい。まず企業価値とは何か。企業が創り出し、顧客に提供する商品やサービスの価値、と考えるのが普通である。価値とは定性的なものであるから、顧客にとっての満足度といってもよい。それはどうやって測るのか。通常は価格を通して測る。価値に対して、いくらの価格を付けるかは企業サイドが決めるが、それを受け入れるかどうかは顧客に任される。ここにミスマッチが生じる。高くても売れるものもあれば、安くても売れないものもある。

・企業は何らかの価値を作り出している。それが続かなければ、企業の存続は難しくなる。その価値を作り出す活動こそ企業の生命線である。その活動が、顧客、従業員、取引先、株主、地域社会など、さまざまなステークホルダー(利害関係者)に受け入れられなかったら、持続的に生き延びることは難しい。まさにサステナビリティ(持続性)が問われる。

・よって、企業が提供する商品やサービスを支える仕組み全体から、企業価値を考える必要がある。企業価値創造とは、長期の金儲けの仕組みをしっかり作ることである。社会環境の変化に対応しながら、5年、10年、20年と長期的に通用する価値創造の仕組みを確立することが最も大事なことである。

・投資家はそういうしっかりした会社にこそ投資をしたいと思う。先のことは分からないと安易に諦めるのではなく、不確定な中でも、その企業の価値創造の強さ(ロバストネス)を何らかの形で納得したいのである。その強さの持続性に関する確からしさ(蓋然性)をよく理解したいと思っている。

・そうなると、機関投資家やセルサイド・アナリストが通常行っている業績予想や、それに基づいたDCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)分析による企業価値の算定では捉えきれない要素がいっぱいあるということが分かる。

・アナリストの業績予想とそれに基づくバリュエーション(株価評価)は極めて重要である。その変更によって株価が動く場合も多い。しかし、通常の業績予想には十分織り込むことのできない企業価値創造についても十分検討する必要があろう。

・このバリュエーションに関して、2つの見方がある。1つは、長期の企業価値創造について、できるだけ織り込んだ形で業績予想を行っているので、無視しているわけではない、という見方である。もう1つは、数字にならないようなものを織り込むというのはそもそも無理なので、そうした定性的な要素を考慮する余地はない。数字に織り込めるようになって初めて意味がある、という考えである。

・企業経営者にすれば、数値的な計画は2~3年の計画で立てるとしても、長期の企業価値創造については、必ずしも数値にならないというであろう。その通りである。具体的数値にならないにしても、ビジョンや方向性、鍵となるコア・コンピタンス(本質的な能力)について明確な考えを持っているはずである。

・そうすると、投資家としては、持続的価値創造の源泉を知りたいと思う。それは何か。どれだけ他社と違っているか、自社の組織能力のどこが優れているのか、という点にポイントがある。将来にわたって、その違いや能力をどこまで持続できるのか、あるいは拡大していけるのかが重要となろう。

・そのためには、イノベーションの連鎖が求められる。イノベーションとは狭い意味での技術革新ではなく、広い意味での仕組み革新である。他社に真似のできない仕組みを作り上げることがイノベーションであり、どんな会社もこのイノベーションに必死に取り組んでいる。今の仕組みが少し色あせてきているとすれば、何としても新しい仕組みを作り上げたいはずである。こうしたイノベーションの内容についてよく知りたい。できればそのインパクトについても納得したいと思う。

・多くの会社は中期計画を策定するが、それは何のためなのか。社内の意思を統一し、一丸となって中期計画で立てた目標を達成しようとする。そのことを通して会社を強くして、サステナビリティを高めようとする。しかし、大半の会社の中期計画は達成されない。達成できないことが多いと分かっているので、中期計画を発表しても通常株価は動かない。ある程度実績がみえてきてから、それに反応して織り込んでいく場合が多いといえよう。

・まして、中期計画にM&Aの遂行が入っていれば、それは事前に企業の内部努力だけではどうしようもないものなので、M&Aの案件が実行に移って初めて評価の対象になる。日本企業のグローバルなM&Aは、その後のマネジメントの難しさ故に、なかなか思うような成果が上げられない場合も多い。一方で、日本たばこ産業(JT)のように大型M&Aを成功させている例もあるので、今後への期待は大きい。

・つまり、不確定要素も含めて企業価値を判断する必要がある。計画が発表された時、あるいは未達になった時の企業のアカウンタビリティには十分注意を払いたい。アカウンタビリティとは通常‘説明責任’と理解されているが、実は最終的な経営責任を問うという意味も含まれている。将来に対して、どのようなコミットメント(約束)をするか。それに対して、どう責任をとるか。当然、一定のリスクは覚悟の上としても、リスクを適切なリターンに変える力を知りたいのである。つまり、投資家としてもリスクを取りつつ、その成果については、未達になることも含めて十分納得しておきたいと思う。

・このように、1)株主価値の創出にフォーカスしたとしても、企業価値はDCFで必ずしも捉えきれない、2)持続的価値創造の源泉は差異化にあるので、イノベーションの連鎖を追求する必要がある、3)M&Aを成功させる鍵を理解した上で、中期計画の中身とそれが未達となった場合のアカウンタビリティについてどう考えるか、という点について、大いに前向きな(プロアクティブな)対話を進めるべきであろう。

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