アベノミクス成長戦略の第2弾

2014/08/04

・2014年6月に「日本再興戦略」の改訂版が発表された。アベノミクスの成長戦略の第2弾である。1年前のものに比べると、大幅に進展している。基本は構造的な規制改革であるから、いずれも時間を要する。全体からみれば、まだ手がついていないものも多い。それでもかなりの前進が見込めるので、株式市場にとっても一定の期待を繋ぎ止めている。

・そもそもアベノミクスの成長戦略は、日本再興戦略と名付けられており、3つの軸から成る。1つは、「日本産業再興プラン」であり、競争力強化の土俵作りを目指す。2つ目は、「戦略市場創造プラン」で、これは内需を生み出すことを目指す。3つ目は、「国際展開戦略」で、こちらは外需を生み出すことを狙っている。

・それぞれの軸には、アクションプランの項目が挙げられており、日本産業再興プランでは、産業・企業を強化するための施策を実行しようとする。戦略市場創造プランでは、ヘルスケア、エネルギー、インフラ、地域資源などが取り上げられる。そして、国際展開戦略では、TPPなどの通商政策やインフラ輸出などが注目されている。

・アベノミクスの政策フレームワークを現時点で評価すれば、道半ばながら、景気の好転という点では好ましい成果を出している。金融政策では、異次元の量的質的緩和が、海外先進国の金融緩和、経済好転と相まって、円を望ましい水準に保っている。しかし、円安効果は一巡しつつあり、金融緩和による資金需要が大きく高まるというほどではない。

・財政政策は、東日本大震災からの復興を含めて大幅に拡張されており、消費増税対策も含めて刺激効果を上げている。財政政策は拡張を続けない限り、いずれ息切れしてくるので、このまま持続するのは難しい。しかし、4月の消費増税をほぼ乗り切ったので、次の10%のハードルを超えることができれば、財政再建に向けて消費税が1つの有効な手段であるという手応えが出てくる。

・新しい成長戦略~「日本再興戦略」改訂2014では、4つの切り口で、その政策が強調されている。①稼ぐ力を取り戻す、②担い手を生み出す、③成長エンジン/地域支援産業育成、④地域活性化/中堅中小企業革新、の4つである。その中から特に注目すべき点を取り上げてみる。

・「稼ぐ力」では、①企業が変わる、②国を変える、という2つが強調されている。①では、コーポレートガバナンスを強化する。2015年度までにコーポレートガバナンス・コードを策定し、企業の価値創造力を高める。また、公的、準公的資産運用業を見直す。特に、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人、厚生年金と国民年金の給付の財源となる年金積立金の管理・運用を行う機関)のガバナンスのあり方とポートフォーリオの見直しの中で、株式のウエイトを高めようとしている。さらに、機関投資家がスチュワードシップ・コードを実践する中で、‘持続的企業価値創造に向けた企業と投資家の対話’を推進していく。その中で、今後株主総会のあり方も見直していく。

・②では、成長志向型の法人税改革を柱とし、法人税を現在の35.64%からドイツ並みの29.59%へ、20%台に下げる方向だ。減税先行で、数年で実現しようとする。もう1つは、社会的課題解決へのロボット革命の推進で、ロボット革命実践会議を設置する。

・「担い手を生みだす」では、①働き方の改革、②女性の活躍促進、③外国人の活用を進める。成果で評価する労働制度を創設し、年収1000万円以上のホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間規制適用免除制度)をできるようにする。また、放課後児童クラブの拡充で、2020年までに30万人の拡大を図る。さらに、有報(有価証券報告書)に女性役員比率の記載を求めるなど、女性の指導的地位の割合を30%まで高めるような向上を目指す。外国人の活用では、技能実習制度における対象業種の拡大や、3年から5年への延長で、その拡充を図る。

・「成長エンジン/地域支援産業育成」では、①質の高いヘルスケアサービスの提供や、②攻めの農林水産業の育成を図っていく。その中では、混合診療の拡大や日本版コンパッショネートユース(生命に関わる疾患を有する患者の救済を目的として、代替療法がない等の限定的状況において未承認薬の使用を認める制度)の導入が進められる、また、農業委員会、農業生産法人、農協の一体的改革にも手がつけられる。

・「地域活性化/中堅中小企業革新」では、①地域ぐるみの農林水産業の6次産業化、②世界に通用する魅力ある観光地作り、③PPP/PFIを活用した民間によるインフラ運営などが進められる。PFI(Private Finance Initiative)は公共サービス(公共施設の建設、維持管理、運営等)に民間の資金、経営能力及び技術能力を導入することであり、PPP(Public Private Partnership)はこの概念をさらに拡大し、公共サービスに市場メカニズムを導入することである。また、観光では2020年までに外国人旅行者を倍増の2000万人に増やすことを目標にビザ発給の要件緩和などでも実行される。

・これらの内容について、網羅的すぎて、今1つパンチがないという見方もできよう。具体的施策を作り上げる段階で骨抜きになってしまうのではないかという心配もある。しかし、何が課題は分かっていてもなかなか手がつかないことに対して、思い切って踏み込もうとしている。規制を緩和し、そこに資金を投入するのであれば必ず成果は上がってくる。新しいビジネスチャンスに参入し、投資を始める企業が出てくるのはほぼ間違いない。

・とりわけ法人税減税には意味がある。また、企業の収益力を高めるようなガバナンス改革と対話の促進も効果が期待できる。収益力を向上させる企業への投資が促進されるならば、運用パフォーマンスも向上して、年金財政は明るさを増す。女性の活用も企業の付加価値向上と世帯の所得向上に寄与しよう。ヘルスケアや農林水産業、観光産業が発展することは、新たな雇用機会の創出にも結びつこう。

・アベノミクスの次の課題は、社会保障制度改革とエネルギー(原発)政策にある。さらなる前進に着目したい。今回の成長戦略を相変わらず進み方が遅いとみるか、一歩踏み込んで前進しているとみるかによって、評価は分れよう。企業の活躍の余地が広がるという点で、筆者はポジティブに評価したい。

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