会社を根本から変えるパワー

2014/03/29

・トステム、INAX(イナックス)、サンウエーブという名前は知っていても、リクシル(Lixil)という社名はまだ馴染みが少ない。LixilはLiving × Life からとっており、逆から読んでも同じだ。以前の社名は住生活グループだが、これも十分知られていたかといえば、さほどでもない。かつて、トステムが上場した時のことはよく覚えている。創業者の潮田健次郎氏は強烈な個性の持ち主で、リーダーシップを発揮して企業統合を進めてきた。

・2代目の潮田洋一郎氏は、どのように会社をつないでいくか。ここで、潮田氏はユニークな仕組みをとっていった。自らが経営の指揮を全て執るのではなく、コーポレート・ガバナンス(企業統治)の責任者として企業を発展させることを考えた。ワンマン経営ではなく、グローバルに通用する企業になると決めた。

・そこで、企業としてもビジョンを固め、そのシンボルがLixilとなった。会社運営の仕組みは委員会設置会社を選び、自らは取締役会議長としてガバナンスを担いつつも、経営の執行という意味では、会長や社長から外れている。経営のトップには、GEに長く勤め、実績をあげてきた藤森義明氏を2011年に社長(CEO)として迎え、全権を任せている。

・ここからLixilグループは大胆な変貌を遂げるべく、本格的なスタートを切った。この2月に、藤森社長による個人投資家説明会が開催された。90分のうち社長のプレゼン(説明)は45分、後の45分は全てQ&Aである。個人投資家説明会で、Q&Aに半分の時間を使い、どんな質問にもしっかり丁寧に答えるというのは珍しい。質問はどれも投資家として「知りたい項目」ばかりであった。質問の内容から会社の方向がよくわかったので、そのいくつかを採り上げてみる。

・中期経営ビジョンで、売上高3兆円、うち海外1兆円、売上高営業利益率8%、ROE8%以上を挙げている。海外ビジネスの拡大に向けてM&Aを次々と行っている。アジア、中国、イタリア、米国、ドイツの会社をM&Aしている。直近ではドイツのグローエを4000億円で共同買収した。これはどういう考えで行っているのか。

・基本的には全て戦略に則っている。将来それぞれの分野で№1を確固たるものにすることを狙っている。買収対象企業は、①ブランドが強い、②デザイン力や技術力がある、③流通網を押さえている、④経営がしっかりしている、ことが基本である。海外企業のリストラは日本人ではできないので、リストラが終わった企業を対象とする。

・株価EBITDA(償却前営業利益)倍率は10~11倍までで、ROIも10%を出せることが基本である。その上で相手と価格交渉をしていくが、この基準を超えてくるならば、深追いはしないという。また、M&Aは国内と海外では意味が異なり、国内はコンソリデーション(コスト削減)、海外は成長を目指したM&Aとなる。

・同業のYKKは、買収の対象とはならない。サッシについては当社がシェア5割、YKKが3割を有するので、独禁法上合併は難しい。世の中では価格カルテルが話題になるが、当社はどう対応するのか。グローバルにM&Aを進めていくと、各国でのコントローラーシップ(会計情報)、コンプライアンス、ガバナンスを相当強化する必要がある。そのために、今年4月から新しい仕組みを導入するという。日本人が日本からマネージするのではなく、CLO(チーフリーガルオフィサー)を海外から採用する。世界に通じる法に則ったルールを社内の仕組みとして作る。要は、ずるいことをやった人には、即出て行ってもらう。

・海外企業のM&Aでどんな成長を目指すのか。米、欧の先進国でのビジネスは5~10年は伸ばしていける。それでも2桁成長まではいかない。とすると、途上国に展開する必要がる。現状のブラジル、アルゼンチンには手を出せないが、トルコ、南ア、ミヤンマーなどは考えていくという。先進国に比べて、途上国は投資規模も数100億円と少ないので、安全をみながら、そのウエイトを上げていく。

・不測の事態にはどのように対処するのか。タイの洪水とか、国内でも地震や豪雪がある。タイのサプライヤーの供給体制は大丈夫かなど、何かあっても1社のパーツには頼らないようにしている。さもないと、その影響ですべてが止まってしまうということが起きるからである。

・儲からないビジネスはどうするのか。事業の撤退、売却については、3年間で一定の利益率を達成できるかどうかを基準にする。コア事業については、8~10%の利益率を確保できるか。コア以外の事業については、10%以上の利益率がとれるのかが判断の分れ道である。ノンコアビジネスについては、収益性が高くなければ売ることもありうる、コア事業については、利益率が2%から6%まで上がっている。もし自力で8%までいかないなら、誰かと組むことも考えていく。

・家電量販のエディオンやシャープに一部出資しているが、その狙いは何か。家電量販店は、リフォームに力を入れている。その意味ではどの量販店ともいい関係を作って、当社の製品をおいてもらうようにしている。エディオンはその連携の1つであり、他の量販店とも付き合っていく。シャープとの連携は、やはりリフォームにおける家電の新しい動きに注目しており、その分野で協業できると考えている、シャープとは3年前から連携してきたので、今の高橋社長とは前向きに話ができるという。

・リクシルは主要5社をはじめ、多くの企業が合併してできた。グループの人事はどうなっているのか。よその会社にみられるように、統合がうまくいかないのではないか。2年半前に藤森社長が外部から入った。内部から昇進したのではないので、グループ会社のどこから来たという出身母体に意味はない。人事の仕組みは全社1本にした。

・ここに米国流の経営を持ち込んだ。トステムにはもともとそういう社風はあったが、INAXは伝統的な日本の会社の雰囲気が強かった。そこで、グループすべてを利益中心主義にして、執行役員の責任を明確にした。株主目線を入れて、報酬のストックオプションも導入した。よって、グループのどの会社出身、何年時入社というようなことは意味をもたなくなった。

・藤森社長は外部から入ったが、彼は2つのポジションに自分と同じ考えの人材を入れた。ファイナンスとヒューマンリソース(人事)である。その上で、社内の改革を断行しつつ、成長路線へ大きく舵を切った。社内では従業員サーベイをやっており、社員の意識、意見はよく聴くようにしている。優秀な人材を内外から登用する。どこからきたかは問わない。年長者になればなるほど社内の変革に不満があるかもしれないが、やるか、やらないかである。実績で評価すればよいと考えている。

・今の経営陣をみると、日本人中心だが、これでグローバル経営はできるのか。13人の執行役(うち女性1人)はすべて日本人であるが、これを見直して、2014年4月から新体制にする。機能別担当(10人)と地域担当(6人)に社長を入れて、17人の執行役に増やす。このうち半分は外国人になる。外国人が外国の会社をコントロールするようになる。

・役員会は日本語、英語の同時通訳でやっている。役員にとって大事なことは、自分の意見をきちんと発表することで、それを英語でやれと強要はしない。しかし、会議の時以外は通訳がつかないので、普段会話する時に英語ができないと、コミュニケーションには困る。結果として、日常会話は英語でやるようになっている。30~40代の人材にも、マネジメント層に上がるということは、そういうことだとロールモデルを示している。

・ROEを8%以上にするとコミットしているが、実際のところ、社内ではどのくらい意識されているのか。投資家には、EPSとROEでコミットメントを出している、株価も配当もEPSをベースに決まるわけだから、EPSを重視する。ROEはバランスシートとの関係で決まるので、ROEも重視する。為替変動をカバーする仕組みも作っていく。社内では営業利益を大事にして、給料もここで決まるようにしている。

・藤森社長はGEで25年働いた後、リクシルのトップに就任した。2020年まではリクシルブランドの下で、従来のトステム、INAXといったブランドも使っていく。まだ、既存の方が馴染みやすいからで、いずれはリクシルに統合していく。2014年3月期の売上高1.6兆円、営業利益700億円(同4.4%)を2016年3月期には1.75兆円、1400億円(8%)にもっていく計画である。ROEも近々8%にのせてくるので、次は10%台を狙っていく。

・ユニークなのは配当政策である。3年後には国際会計基準(IFRS)に変更する。そうすると、のれんの償却が必要なくなる。元々、のれんの償却は外部流出するものではないので、のれん償却前利益を計算して、それをベースに配当性向30%以上を目指すと決めた。2014年3月期の配当は従来の40円が55円となるが、今後も増配が期待できよう。

・藤森社長の経営は尋常ではない。会社を変えていくとはこういうことか、ということをスピーディにパワフルに実践している。しかも、分かりやすく、納得できる。今後の展開に大いに注目したい。

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