規制改革とアベノミクス
・規制改革がなかなか進まない。医薬品のネット販売に関して、ネットで販売できるものをめぐってかなり論議があった。ネットで何でも買えれば便利なように思う。しかし、薬には絶えず副作用を伴う。適切に使っても個人差がある。まして、使用方法を間違えたり、悪用したりすれば、事態は深刻になろう。
・自己責任を徹底してほしいと思う反面、世の中には自分で判断できない弱者も多い。弱者に対する保護は必要である。ルールを破る人や、悪用する人には厳罰が必要であろう。しかし、技術革新が進み、ネットに慣れ親しむ人が増えるという環境変化にあって、従来のルールを守ればよいというのでは、生活価値の向上に結び付かない。
・アベノミクスの第3の矢の一翼を担う規制改革会議のメンバーである安念潤司教授(中央大学・弁護士)から、アナリスト協会で話を聴いた。なぜ規制改革は進まないのかという点について、論旨が明解であった。世界中どこでも規制改革は進みにくい。それは既得権を手放さない人々がいるからである。それも含めて4つの要因があると、安念教授は言う。
・第1は拒否権プレーヤーの存在である。業界団体、マスコミ、学会、個人など、様々な立場がある。拒否権の発動に拘束力はないにしても一定のパワーはある。現実的な決定に対してノイズとなり、それが無視できなくなる。ノイズを和らげるために、妥協を重ねるということも生じる。
・第2は、団結力の差である。国民の多数にプラスのメリットをもたらす可能性が高いといっても、その効果が目にみえて大きいわけではない時、既得権を有する人々は相対的に少数でまとまり易いので、彼らの方が政治的パワーを持ち易い。
・第3は、リスクゼロを求める国民の心情である。規制というのは国民の安心、安全に関わることが多い。今の規制を見直す、とりわけ規制を緩めるということに対しては、緩めればリスクが高まる、リスク=(イコール)危険という理解のもとで、それは危ないと受け止められやすい。原子力発電は危ない、薬のネット販売は薬害を引き起こしかねない、というような心情的な議論が噴出してくる。
・第4は、様々な関係者において、トレードオフ(折り合い)が理解されないという点である。保育所は今すぐに足らない。とすれば期限を切って、保育児一人当たりのスペースを少し減らして、受け入れ人数を増やすというのが現実的な解であるが、それは一切認められないという風潮になりやすい。今の規制内容の見直しをフレキシブルに考えることができず、イチゼロ的に善し悪しを決めてしまいがちである。
・安念教授の挙げる4点については、重複するような内容があるとしても、まさにその通りと納得できる。自分にあまり関わりがない時には冷静でいられるが、直接的な利害が及んでくると、この4つのパターンに陥りかねない。
・政府が設ける様々な「審議会」には拘束力がないので、言いっ放しに終わることが多い。そうならないためには、政府が閣議決定をすることが求められる。そうなれば政策として動く可能性が高まる。閣議決定は全閣僚の全員一致が慣例上必須である。全員一致を逆にみると、各省に拒否権があるもいえる。よって、誰も拒否しないようにするには、政策案を丸くする必要がある。金平糖のように尖った規制改革案も、通すためには研磨剤で磨かれて、パチンコ玉のようにツルツルになりかねない、と安念教授は指摘する。
・薬のインターネット販売については、今まで薬事法という法律ではなく、厚労省の施行規制で決められていた。この省令が不十分であるということで、今回薬事法が改正された。一般用医薬品(医師の処方箋がいらない)の1類、2類、3類のうち、28品目を除いてネット販売ができるというように改めて認めた。議論は、この28品目はなぜネットで扱えないのかということに集中した。
・しかし、本丸は別のところにあったという。医療用医薬品(医師の処方箋がいる)については、対面販売を法的に明確に義務付けることにしたのである。医療用医薬品の市場規模は一般用医薬品の10倍である。この市場がネットによって荒されないように手を打ったという見方である。医者が処方したものをなぜ対面で売る必要があるのか。在宅医療が本格化する時代にあって、それが必要でない場面も出てこよう。ここを規制で守ることにした。薬剤師業界の勝利という見方もできよう。
・では、アベノミクスで進む規制改革はあるのか。すぐできることで反対が少ないのは、容積率の緩和である、と安念教授は強調する。オリンピックに向けて、老朽マンションの建て替えも促進されよう。その時の目玉として注目できる。特区構想の中でも大いに活用されよう。不動産ビジネスにチャンスあり、ということになろうか。