富の創造とガバナンス

2013/05/14

・3月にコーポレートガバナンス(CG)に関するシンポジウムがあった(日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク、創立10周年シンポジウム)。そこでの議論を参考に、日本企業に求められるものを再考してみる。

・世界にはいろんな投資家がいる。その中に、年金を運用している大手の機関投資家がいる。彼らはアクティブ運用と同時に、パッシブ運用のウエイトも結構高い。インデックスがよくならないと、パフォーマンスは上がらない。つまり、市場そのものがよくなる必要がある。例えば、TOPIXを構成する企業に良くなってもらわなくては、インデックスに投資しても意味がない。

・企業に良くなってもらうとはどういう意味か。富の創造をきちんと成し遂げてもらうことである。企業が長期的に投資をして、企業価値が上がっていけば、市場における評価も自ずと高まっていくので文句はない。それをESG(環境、社会、ガバナンス)からみていくというのが1つの視点である。

・G(ガバナンス)の最大の注目点は、CEOから独立した取締役が、コンプライアンスから離れて、業界知識にこだわることなく、戦略的思考で会社のマネジメントを外部からみていくことである。経営執行を担当するトップマネジメント層に対するモニタリングとガイダンスの提供が大事である。

・ダイバーシティという点では、女性と外国人を執行担当役員と社外取締役に入れていく必要が高まっている。日本企業にとっても、女性の活用とグローバル経営は避けて通れない。成果を上げていくには、それぞれの立場が分った人をガバナンスに入れていくことが求められる。

・会社は事業を計画し、長期的に成功し、富を作り上げていくことが何よりも大事である。会社の執行担当役員は、会社が成功するように行動する。その意思決定プロセスに、社外取締役の目が入って行く。会社が打つ手に対して1)起業家的センスは十分か、2)実効性はあるか、3)十分に慎重であるか、ということを見ていく。そうなると、1人の社外取締役ではなく、複数の目が必要になり、取締役会の議長もCEOでない社外の人の方が望ましいということになる。

・株主と会社は対立した立場にあるのではなく、株主の代表格である機関投資家は、会社の価値を最大にしてもらいたいと考える。そうすると、議決権行使もしっかり行う必要があり、それが会社側にとってどのような効果をもたらすかも知りたいところとなる。

・会社は社会的な存在であるから、さまざまなステークホルダーにとっての企業価値、社会的価値を創出していくことが求められる。それが十分できる企業が長期的に伸びていけるという意味でサステナブルである。

・議論を単純化すると、会社には長期的にがっちり儲けてほしい。利益率が十分高くないということは会社経営に何か問題がある。その問題を、マネジメントの意思決定プロセスにまで入り込んで監視、監督していく仕組みがCGである。

・社長(CEO)は、自分の好きなように経営したい。会社の中身を十分わからない社外取締役に、いろいろ意見されるのは煩いと思うかもしれない。株主総会もできるだけ事なかれで、スムーズに終わらせたいと思うのが常である。

・自由に経営してもらって構わない。しかし、企業価値創造の仕組みをきちんと作り、それを実践していくことをステークホルダーに十分わからせてほしい。投資家は納得したいのである。そのためにも、社外の目がある方が、①ありがたい、②役に立つ、③身が引き締まる、という状態にもっていってほしいのである。

・日本企業にはもっと独立社外取締役を入れていく必要があり、そのような方向に向かっている。しかし、独立社外取締役に本当に会社のことが解るか、という疑問はやはり拭えない。そのためには、独立社外取締役には相当努力をしてもらい、企業価値向上に資するような役回りを果たしてほしい。そうでなければ、株主はじめステークホルダーへの責任を果たすことにはならない。

・シンポジウムで、コミュニケーションスタイルの違いが強調された点は面白かった。日本企業のIRはディフェンシブで、英語のプレゼンにおいてもまだ壁があるという。中国企業の方が、英語表現が十分で、海外の投資家から学ぼうという姿勢も強いという見方もあった。もう1つ、日本のパワポカルチャーはユニークであると指摘された。パワーポイントに細かい絵を描いて、それを使いながら、見て解れというプレゼンのやり方は、グローバル・スタンダードではないと言われた。目で説得するか、口で説得するか。私自身も含めて、反省する必要があると感じた。

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