予算制度のないスタットオイル社のマネジメントイノベーション

2013/05/08

・ノルウェーの石油・ガス会社、スタットオイル(Statoil、時価総額7兆円)の経営は興味深い。業績管理担当のビャーテ・ボグネス氏の話を聞いた。

・ボグネス氏は、交差点の例を用いた。信号のある交差点とサークル型の交差点では、どちらが効率的であろうか。信号は誰かが管理していて、少し古い情報に基づいて、定型的な指示が出される。環状(サークル)交差点は、ドライバーが自分でサークルに入り、自分がその場で判断して舵を切って行く。

・信号はルールである。ルールベースのマネジメントが本当に通用するのだろうか。一方、サークルも、もし我先にと入ってしまえば、そこは詰まって渋滞する。車の流れをよくしたいという共通の前提の中で、自分で判断していく。セルフレギュレーションの重視である。楽な方を選ぶのではなく、あるべき方を困難でも選択していくことが大事であると強調する。

・ルールベースではなく、バリューベースのマネジメントスタイルをとる理由は2つある。1つには、ビジネス環境は予測不能な変化を示すので、迅速に対応する必要がある。もう1つは、人は誰かに管理されたいのだろうか(X理論・Y理論)。そんなことはない。XではなくYタイプとして、自ら能力を発揮して、自分の責任でマネージしていけるはずである。

・スタットオイル社は、2005年に予算制度を廃止し、2010年にはカレンダーイヤーもなくした。予算という仕組みの中で計画を立てても、予算を作るのに時間を要する割に変化が激しく長持ちしない。目標が低くなったり、打つ手が遅れたりする。それよりは、1四半期が終わったら、次の4~6四半期を見ながら、迅速に対応する。誰かが予測するのではなく、組織全体で分る仕組みにしていく。

・一般に、会社は社員を信頼しているといいながら、旅費は細かく管理していたりする。それは社員を信じていない現れである。また、チームが大切、1つのチームといいながら、個人評価のボーナスを出している企業も多い。これも一貫性がないという。実際のプロセスの方が強いメッセージとして伝わるので、社員の信頼は低下してしまう。

・大事なことは、ターゲット、予測、リソースアロケーションを予算として1つにまとめないことであると、ボグネス氏は説明する。1つにコンバインするからいろいろ不都合が起きてくる。スタットオイル社では予算はやめたが、この3つのことは独立のプロセスとして実行している。①ターゲット(背伸びした目標)は起こってほしいこと、②フォーキャスト(予測)は起こると思うこと、③リソースアロケーションはいかに無駄なく効率的に配分するか、これらを別々に考える。そうするとゲームのない目標、刺激的な目標が立てられる。バイアスのない予測が出てくる。新しいコスト管理ができるようになる。しかも、カレンダーで区切るのではなく、事業環境に沿って時間軸を決めていく。

・次に、オイルスタット社は「Ambition to Action 」(A to A、志を行動へ)という考え方と手法で、具体的に組織を動かしていく。業績を独自に定義し、比較対象(競合15社)より良い業績を上げることを重視する。それをベースに共通のボーナスを考える。また、バランススコアカード(BSC)の考え方を取り入れて、基準や権限を明確化した上で、意思決定ができるようにする。

・プロジェクトに予算はつけるが、年間投資予算というような期間は考えない。1年に意味はないからである。そのプロジェクトがバリューを作り上げるかどうかが大事なので、ダイナミックなリソースアロケーションに腐心している。

・ビジネスは、フォワードルッキング(前を見て)、アクションオリエンテッド(どう行動するか)で推進する。常に予測と目標(ターゲット)を独立にみていく。業績の達成には、何を達成したかと同時に、どのように達成したかも同じウエイト(50:50)で見ていく。

・チーム毎に「A to A」(Ambition to Action)を立てて実行していく。そのチーム数は1400にも及ぶ。KPI(重要経営指標)はパーフェクトでなくてよい。よりよいものを選んで、それを指針とする。

・こうしたことを通して社員の行動を変え、スタットオイル社は優良企業に発展した。投資家にはありのままをみせている。数年前から財務データのガイダンスを出すことすらやめたという。業績予想のヒントを出さなくても、投資家、アナリストは問題ないという。マネジメントイノベーションを起こし、新しいタイプの経営を実践している点に注目したい。

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