会社の業績予想は必要か
・決算発表が本格化する。ざっと目を通すには、翌日の日経新聞に上場会社の決算数値が載るので、それを見ればよい。毎朝、その全てに目を通す人は多くないかもしれないが、関心のある企業の数値は拾うであろう。
・株主であったり、取引先であったりすれば、TDネットやその会社のホームページに行って、決算短信を詳しくみることも多い。決算短信は実によくできている。赤ペンを持って、じっくり読んでみると、会社の姿勢と実績が浮かび上がってくる。
・財務データはもちろんだが、定性コメントを見ると、投資家に訴えたいこと、あまり説明したくないことが如実に表われている。読んでよくわからないこと、知りたいのに書いていないことは、当方の知識不足あるいはさほど重要でないことなのかもしれないが、会社が詳しく説明したくないことが含まれていることも多い。
・短信に翌期の業績予想が載っている。これは本当に必要だろうか。多くの人は当然必要であるという。私も必要だと考えている。もしこれがなくなったら、会社の発信する情報量が減ってしまう。しかも、会社の業績に対する意思がぼやけてしまうので困る。
・来期の業績予想の公表は会社の意思である。中期計画も会社の意思である。会社の全員が意思統一して、その達成に向けて邁進するための共通指針であるから、極めて重要である。
・しかし、本当に必要だろうか。なぜなら、ほとんど実現しないからである。来期の業績予想を出さない会社、中期計画を公表しない会社をよしとするわけでない。日本でなく、北欧では予算を作らない企業があるという。1つのアンチテーゼとして考えてみよう。
・横浜市立大学の中條教授の分析によると、日本で中期計画を公表している企業の業績目標は、ほとんどが未達に終わっている(「企業会計研究のダイナミズム」第8章)。中期計画は会社の意思統一、対外的なコミュニケーションの指針であるから、達成できたかできないかを問うものではないという見方がある。その意見には賛成である。しかし、達成度でみれば、明らかに落第である。経営者はどう責任をとるのだろうか。
・日産自動車のカルロス・ゴーンCEOは、日産の中期計画はコミットメントであるという。必達目標であるから、達成できなかったら責任をとる。これに対して、ターゲットという言葉は別の意味を持つ。背伸びした目標であるから、できたらよいというレベルの標的で、できないかもしれない。
・なぜ多くの企業の業績目標はなかなか達成できないのか。第1は、経営環境の変化が激しく、読み切れないからである。1年後、3年後の経営環境を見通すことは難しい。第2に、直接競合する相手の動きに対して、総て先手を打って、先を走るということも一筋縄ではない。第3に、社内の経営資源が十分でなく、本来の業務遂行能力が十分整わない場合も多い。
・先はわからない、でも人のせいにはできない。それが経営である。まさに経営者の力量、先見性、変化対応力が問われる。とすれば、1年先、3年先の業績計画を設定するという方式が間違っているかもしれない。
・ノルウェーのスタットオイル社は脱予算(Beyond Budgeting)を実践している。‘脱予算’というのは、単に予算を作らない、という話ではない。予算を作って成し遂げようという成果を、予算という手法ではなく、それを超える新しいマネジメント・イノベーションで達成しようとする。
・早大の清水孝教授によると、3カ月から6カ月かけて予算を作っても、それが長持ちしないことが多い。素早く手を打っていく必要がある。中央集権的でなく、分権化して、変化適応型のマネジメントの仕組みを作ることが求められる。そうすると、結果として予算が必要でなくなっていくという。
・業績管理は必要である。財務計画も必要である。しかし、われわれ投資家からみると、実現しない業績予想を頼りにして投資はできない。では、何を知りたいのか。業績予想の中に含まれる会社が働いている実態を知りたい。価値創造の仕組みを知りたいのである。それを示すKPIを的確に公表して、コメントしてくれるならば、会社による従来タイプの業績予想はいらない。これをどうビジネスモデルに取り込んでいくか。企業開示の新しい挑戦が始まろうとしている。