誠実な企業に注目~企業価値創造の視点
・誠実とは、正直で心のこもっていることである。誰もが、誠実な人になりたいと思う。しかし、つい人の好き嫌いが出てしまい、正直に話すかどうかは場面によって違うことも多い。とすると、いつも誠実であるとは限らないかもしれない。
・企業の場合はどうだろうか。誠実を英語で言うと、integrityあるいはsincerity、honestyもそれに当る。「誠実な企業」賞(Integrity Award)は、企業の誠実さに焦点を当てる。企業の社会的責任を重視した誠実な経営が,中長期的に見て市場で高い競争力を持つことを評価し、応援することを目的としている。
・2013年のアワードでは、最優秀賞にブリヂストン、優秀賞にヤマトホールディングスと伊藤忠商事が選ばれた。表彰後の3社のプレゼンテーションを聞いて、印象に残った点についてふれたい。
・ブリヂストンは、1988年にファイアストンを買収し、以来一気にグローバル企業としての領域を拡大した。今や25カ国、178カ所に生産拠点を有する。会社の心構えとして、①誠実協調(Integrity and Teamwork)、②進取独創、③現物現場、④熟慮断行の4つを揚げる。そして、CSR(企業の社会的責任)活動は、「経営そのもの」であるとして、あるべき姿に近づくべく実力を高めている。
・CSRの「22の課題」を、1)基盤となるCSR(安定的な収益確保、ステークホールダーとのコミュニケーション)、2)経済活動を通じたCSR(新しい価値を生む技術革新、適時適切な情報開示)、3)環境活動を通じたCSR(商品・サービスによる環境への貢献)、4)社会的側面からのCSR(多様性の尊重、安全な社会づくりへの貢献)、という4つの軸で推進している。
・SBU(事業単位)ごとに、CSRの目標を中期計画に組み込み、1年単位でPDCAをまわしている。さらに、環境長期目標では、2050年でCO2の50%削減、100%サステナブルマテリアル化の実現を目指している。これは、タイヤの原料を持続可能な原料で総て賄おうというもので、その方向は見えつつある。
・ヤマトホールディングス(HD)は創業94年目、17.8万人の社員を抱えている。八百屋からトラック運送への転換、路線トラック(定期便)の確立、宅急便への事業イノベーション、そして現在は海外への展開を目指している。ヤマトHDは創業の精神(社訓)を企業理念(DNA)としている。
・<ヤマトは我なり>=社員一人ひとりが会社を代表するものとしてお客と社会に接する⇒(全員経営)。つまり寿司屋の職人と同じで、会話し、作りながらサービスし、勘定もする。
・<運送は委託者の意思の延長>=お客(委託者)の思いを受け継ぎ、まごころをもって届ける⇒(サービスが先、利益は後)。安全第一、営業第二。サービスが先で、利益は後からついてくるという考えである。
・<礼節を重んずべし>⇒礼儀と節度を重んじ、公正に行動する⇒(コンプライアンス)。コンプライアンスが健全な企業風土を育み、運送業からサービス業への転換を促した。
・実際、生活支援サービス「まごころ宅急便」は、現場のニーズから生まれた。高齢者へ届ける時に、安否を確認し、御用聞き(買い物代行)も行う。安否確認サービスは行政の壁を超えて、社会福祉協議会と連携することとした。
・地域産業の活性化支援では、沖縄通関を軸に、全日空と組んでアジア圏へドアtoドアの一貫輸送プラットフォームを構築した。沖縄発でバンコクまで翌日配送ができるようになった。
・大震災の時は、社員が自発的に動き、救援物資を運んだ。何をどのように運ぶかという点で、自衛隊の下に入って機敏に動いた。あるいは、必要なものを必要なところへという点では、自衛隊の上に立ってロジスティックスを指導したりもした。まさに、社員一人一人が会社を代表する経営者的センスで動いたのである。
・伊藤忠商事は近江商人の三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)を基本としながら、創業者の精神を紡いでいる。初代伊藤忠兵衛は、「利真於勤」(利は勤るに於いて真なり)を実践した。世に役立つように勤めることが、いずれにも益を生むという考えである。
・二代目忠兵衛は、商売人は嘘をいわぬことと戒めた。一度うそをつくと必ず何倍かになって暴れ出すと諭した。そして、現在の伊藤忠商事は、本業を通じて持続可能な社会に貢献することをCSRの基本に据えている。
・例えば、プレオーガニックコットン。インドの綿花農家が農薬を使わない有機栽培に転換するには3年間の移行期間を要する。この間は、十分な収入がなくなってしまうので、農薬を使わないことがよいとわかっても、今日の収入のためには方法が変えられないという課題があった。これを、3年間の支援をすることで、より健康で収入も安定した農業に変革させる。伊藤忠商事は率先してこの事業を支援し、先駆的な成果がグッドデザイン・サステナブルデザイン賞(経済産業大臣賞)の受賞に結びついている。
・3社に共通しているのは、CSR活動が企業価値創造の根幹を成しているということである。誠実な企業は、中長期的に高い競争力を発揮できる蓋然性が高い、という点に大いに注目したい。