誠実な企業に注目~企業価値創造の視点

2013/04/08

・誠実とは、正直で心のこもっていることである。誰もが、誠実な人になりたいと思う。しかし、つい人の好き嫌いが出てしまい、正直に話すかどうかは場面によって違うことも多い。とすると、いつも誠実であるとは限らないかもしれない。

・企業の場合はどうだろうか。誠実を英語で言うと、integrityあるいはsincerity、honestyもそれに当る。「誠実な企業」賞(Integrity Award)は、企業の誠実さに焦点を当てる。企業の社会的責任を重視した誠実な経営が,中長期的に見て市場で高い競争力を持つことを評価し、応援することを目的としている。

・2013年のアワードでは、最優秀賞にブリヂストン、優秀賞にヤマトホールディングスと伊藤忠商事が選ばれた。表彰後の3社のプレゼンテーションを聞いて、印象に残った点についてふれたい。

・ブリヂストンは、1988年にファイアストンを買収し、以来一気にグローバル企業としての領域を拡大した。今や25カ国、178カ所に生産拠点を有する。会社の心構えとして、①誠実協調(Integrity and Teamwork)、②進取独創、③現物現場、④熟慮断行の4つを揚げる。そして、CSR(企業の社会的責任)活動は、「経営そのもの」であるとして、あるべき姿に近づくべく実力を高めている。

・CSRの「22の課題」を、1)基盤となるCSR(安定的な収益確保、ステークホールダーとのコミュニケーション)、2)経済活動を通じたCSR(新しい価値を生む技術革新、適時適切な情報開示)、3)環境活動を通じたCSR(商品・サービスによる環境への貢献)、4)社会的側面からのCSR(多様性の尊重、安全な社会づくりへの貢献)、という4つの軸で推進している。

・SBU(事業単位)ごとに、CSRの目標を中期計画に組み込み、1年単位でPDCAをまわしている。さらに、環境長期目標では、2050年でCO2の50%削減、100%サステナブルマテリアル化の実現を目指している。これは、タイヤの原料を持続可能な原料で総て賄おうというもので、その方向は見えつつある。

・ヤマトホールディングス(HD)は創業94年目、17.8万人の社員を抱えている。八百屋からトラック運送への転換、路線トラック(定期便)の確立、宅急便への事業イノベーション、そして現在は海外への展開を目指している。ヤマトHDは創業の精神(社訓)を企業理念(DNA)としている。

・<ヤマトは我なり>=社員一人ひとりが会社を代表するものとしてお客と社会に接する⇒(全員経営)。つまり寿司屋の職人と同じで、会話し、作りながらサービスし、勘定もする。

・<運送は委託者の意思の延長>=お客(委託者)の思いを受け継ぎ、まごころをもって届ける⇒(サービスが先、利益は後)。安全第一、営業第二。サービスが先で、利益は後からついてくるという考えである。

・<礼節を重んずべし>⇒礼儀と節度を重んじ、公正に行動する⇒(コンプライアンス)。コンプライアンスが健全な企業風土を育み、運送業からサービス業への転換を促した。

・実際、生活支援サービス「まごころ宅急便」は、現場のニーズから生まれた。高齢者へ届ける時に、安否を確認し、御用聞き(買い物代行)も行う。安否確認サービスは行政の壁を超えて、社会福祉協議会と連携することとした。

・地域産業の活性化支援では、沖縄通関を軸に、全日空と組んでアジア圏へドアtoドアの一貫輸送プラットフォームを構築した。沖縄発でバンコクまで翌日配送ができるようになった。

・大震災の時は、社員が自発的に動き、救援物資を運んだ。何をどのように運ぶかという点で、自衛隊の下に入って機敏に動いた。あるいは、必要なものを必要なところへという点では、自衛隊の上に立ってロジスティックスを指導したりもした。まさに、社員一人一人が会社を代表する経営者的センスで動いたのである。

・伊藤忠商事は近江商人の三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)を基本としながら、創業者の精神を紡いでいる。初代伊藤忠兵衛は、「利真於勤」(利は勤るに於いて真なり)を実践した。世に役立つように勤めることが、いずれにも益を生むという考えである。

・二代目忠兵衛は、商売人は嘘をいわぬことと戒めた。一度うそをつくと必ず何倍かになって暴れ出すと諭した。そして、現在の伊藤忠商事は、本業を通じて持続可能な社会に貢献することをCSRの基本に据えている。

・例えば、プレオーガニックコットン。インドの綿花農家が農薬を使わない有機栽培に転換するには3年間の移行期間を要する。この間は、十分な収入がなくなってしまうので、農薬を使わないことがよいとわかっても、今日の収入のためには方法が変えられないという課題があった。これを、3年間の支援をすることで、より健康で収入も安定した農業に変革させる。伊藤忠商事は率先してこの事業を支援し、先駆的な成果がグッドデザイン・サステナブルデザイン賞(経済産業大臣賞)の受賞に結びついている。

・3社に共通しているのは、CSR活動が企業価値創造の根幹を成しているということである。誠実な企業は、中長期的に高い競争力を発揮できる蓋然性が高い、という点に大いに注目したい。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。

このページのトップへ