ゲームのお約束が崩れて行く
9月に開催された東京ゲームショウ(TGS2011)に参加して、CESA(コンピュータエンターテインメント協会)の和田会長(スクウェア・エニックス・ホールディングス社長)の話を聴いた。日本が世界に誇るゲームがどのように進化していくのか、元アナリストの経験もある和田会長の分析は興味深い。
コンピューターゲームは拡大の一途をたどっているが、局面によって市場は結構振れる。そのブレを左右するものが、ゲーム環境の変化とゲームの中身である。具体的には、ハードウェア(ゲーム機)とアプリ(ゲームソフト)の内容(コンテンツ)にある。当初はゲームを実現するのに特殊な機械を必要としたので、1ゲーム1台の機械がアーケード(ゲーム専門店)でスタートした。次に、ファミコンに代表される家庭用ゲーム機の登場で、個人がゲーム機を購入して楽しめるようになった。
90年代前半に家電メーカーがゲームコンソール(ハード)に参入した。ここまではゲーム専用機であった。それが2000年のPS2からゲーム機であると同時にDVDプレーヤーも兼用できるようになり、ハイブリッドになった。Xboxもゲーム+DVDである。これに伴い、顧客のゲームに対する投資額が相対的に少なくなってきた。遊ぶための環境投資(ハードやソフトへの投資)が減るごとに市場は拡大してきた。
2000年前半にケータイにiモードが入った。ここでもゲームができるようになった。ゲームが専用機でなく、PCはもちろんケータイでもできるようになり、ゲームコストが大幅にダウンしてきた。2007年はiPhoneが出てきた年であるが、全てがネット対応となった。それによって専用機は衰退したかというと、そんなことはない。代替したわけではなく、新しいものが市場の中で上乗せとなり、ユーザーを拡大してきたのである。
ゲームがコンソールからネットにシフトした。次はブラウザーからクラウドになる。ストレージがクラウド化し、さらにプロセッシング(処理)もクラウドしていく。そうなると、マーケットはさらに拡大していこう。顧客のエントリーバリア(ゲームを最初に始める時の敷居)が下がるので、やる気満々のゲーム愛好家ではなく、ちょこちょこゲームをやるカジュアルユーザーが増えてくる。コアユーザーに、カジュアルユーザーが多数入ってくることに注意しておく必要があると、和田会長は言う。
初めてゲームをする人びとの市場が伸びる中で、「ゲームのお約束(慣例)が崩れていく」(和田会長)のである。ゲーム業界は現在第3の局面に入っている。第1の局面が、プロセッシング・パワー(ハードの処理能力)が成長のドラーバー(牽引力)となった時代である。第2の局面がコントローラーやハンドヘルドなどのインプットの装置がドライバーとなった時期である。タッチやモーションがゲームにおける遊びの幅を広げた。ただ、それが行き渡ってしまうと、差別化にはならない。現在の第3の局面は、汎用機+ネット+マイクロペインメントが一体となったコミュニケーションの時代に入った、と和田会長は位置付ける。一度にビジネスモデルが大きく変わってきた。つれて、全く新しい会社が登場してきた。このコミュニケーションの局面はまだ始まったばかりで、当分続くことになろう。しかも、グローバルに市場は拡大していく。
3Dが本物になって、もう一度デバイスの差別化に結びつくかどうかはまだわからない。このようにビジネスモデルが変革していく。(1)価格が従量課金(使っただけ支払う)から定額制(ソフト・アプリ購入代金)になり、(2)それがネット対応で、マイクロペイント(随時課金)になってきた。顧客は自分の満足度に見合って、お金を支払うようになった。ゲームを作る側も、それを前提に作る必要がある。つまり、ゲームのコンテンツのポイントが変わってきたのである。価値のシフトが起きている。顧客は再生できないものに対して価値を見出し、お金を払う。自らの経験に対して価値を見出す。これはエクスペリエンス・バリュー(experience value、経験価値)と位置づけられる。
ゲームはルールのあるコミュニケーションである。新しい競争の本質を見極めよ、と和田会長は自らも戒めている。クラウド化時代が始まろうとしている。こうなるとユーザーのコストは一段と下がる。ゲームがゲーム業界に留まらず、他のエンターテイメントとの真っ向からの勝負にもなってくる。新しいビジネスモデル作りのイノベーションに大いに注目したい。