ゲームのお約束が崩れて行く

2011/09/26

9月に開催された東京ゲームショウ(TGS2011)に参加して、CESA(コンピュータエンターテインメント協会)の和田会長(スクウェア・エニックス・ホールディングス社長)の話を聴いた。日本が世界に誇るゲームがどのように進化していくのか、元アナリストの経験もある和田会長の分析は興味深い。

コンピューターゲームは拡大の一途をたどっているが、局面によって市場は結構振れる。そのブレを左右するものが、ゲーム環境の変化とゲームの中身である。具体的には、ハードウェア(ゲーム機)とアプリ(ゲームソフト)の内容(コンテンツ)にある。当初はゲームを実現するのに特殊な機械を必要としたので、1ゲーム1台の機械がアーケード(ゲーム専門店)でスタートした。次に、ファミコンに代表される家庭用ゲーム機の登場で、個人がゲーム機を購入して楽しめるようになった。

90年代前半に家電メーカーがゲームコンソール(ハード)に参入した。ここまではゲーム専用機であった。それが2000年のPS2からゲーム機であると同時にDVDプレーヤーも兼用できるようになり、ハイブリッドになった。Xboxもゲーム+DVDである。これに伴い、顧客のゲームに対する投資額が相対的に少なくなってきた。遊ぶための環境投資(ハードやソフトへの投資)が減るごとに市場は拡大してきた。

2000年前半にケータイにiモードが入った。ここでもゲームができるようになった。ゲームが専用機でなく、PCはもちろんケータイでもできるようになり、ゲームコストが大幅にダウンしてきた。2007年はiPhoneが出てきた年であるが、全てがネット対応となった。それによって専用機は衰退したかというと、そんなことはない。代替したわけではなく、新しいものが市場の中で上乗せとなり、ユーザーを拡大してきたのである。

ゲームがコンソールからネットにシフトした。次はブラウザーからクラウドになる。ストレージがクラウド化し、さらにプロセッシング(処理)もクラウドしていく。そうなると、マーケットはさらに拡大していこう。顧客のエントリーバリア(ゲームを最初に始める時の敷居)が下がるので、やる気満々のゲーム愛好家ではなく、ちょこちょこゲームをやるカジュアルユーザーが増えてくる。コアユーザーに、カジュアルユーザーが多数入ってくることに注意しておく必要があると、和田会長は言う。

初めてゲームをする人びとの市場が伸びる中で、「ゲームのお約束(慣例)が崩れていく」(和田会長)のである。ゲーム業界は現在第3の局面に入っている。第1の局面が、プロセッシング・パワー(ハードの処理能力)が成長のドラーバー(牽引力)となった時代である。第2の局面がコントローラーやハンドヘルドなどのインプットの装置がドライバーとなった時期である。タッチやモーションがゲームにおける遊びの幅を広げた。ただ、それが行き渡ってしまうと、差別化にはならない。現在の第3の局面は、汎用機+ネット+マイクロペインメントが一体となったコミュニケーションの時代に入った、と和田会長は位置付ける。一度にビジネスモデルが大きく変わってきた。つれて、全く新しい会社が登場してきた。このコミュニケーションの局面はまだ始まったばかりで、当分続くことになろう。しかも、グローバルに市場は拡大していく。

3Dが本物になって、もう一度デバイスの差別化に結びつくかどうかはまだわからない。このようにビジネスモデルが変革していく。(1)価格が従量課金(使っただけ支払う)から定額制(ソフト・アプリ購入代金)になり、(2)それがネット対応で、マイクロペイント(随時課金)になってきた。顧客は自分の満足度に見合って、お金を支払うようになった。ゲームを作る側も、それを前提に作る必要がある。つまり、ゲームのコンテンツのポイントが変わってきたのである。価値のシフトが起きている。顧客は再生できないものに対して価値を見出し、お金を払う。自らの経験に対して価値を見出す。これはエクスペリエンス・バリュー(experience  value、経験価値)と位置づけられる。

ゲームはルールのあるコミュニケーションである。新しい競争の本質を見極めよ、と和田会長は自らも戒めている。クラウド化時代が始まろうとしている。こうなるとユーザーのコストは一段と下がる。ゲームがゲーム業界に留まらず、他のエンターテイメントとの真っ向からの勝負にもなってくる。新しいビジネスモデル作りのイノベーションに大いに注目したい。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。

このページのトップへ