トランプ関税の行方
・トランプ関税のその後の着地はどうなるのか。第2のトランプショックが起きるのか。トランプディールのやり方には慣れてしまったから、ネガティブな影響はあるにしても、もう驚くほどではないのか。
・9月までの米国株式市場をみると、関税の影響を気にしていないかのような展開をみせていた。S&P500指数は、2/19の高値6144から、4/8に安値4982をつけた。-18.9%の下落であった。その後6月は6204をつけ、高値を更新した。中身をみると、マグニフィセント・セブン銘柄がリード役となった。10月に入って6700台をつけている。
・トランプ関税は米国経済に問題を引き起こさないのだろうか。関税をかけられる相手国にとって、それは克服できるものであるのだろうか。先が読めないから、小康状態を保っているだけなのか。
・頭の体操をしてみた。昨年の米国の対日貿易赤字は約10兆円であった。これをトランプの言うように直接減らすとする。車で2兆円、コメで2兆円、国防関係で2兆円、計6兆円減らすにはどうすればよいのか。
・第1に、米国産車を25万台輸入する。日本の国内市場は約480万台、米国の自動車生産は1150万台である。補助金次第では、米国産車に乗るかもしれない。米国産といっても、米国製トヨタ車も入ってくるかもしれない。
・第2に、コメを80万t輸入する。国内のコメの消費は約800万t、米国でのコメの生産は1030万tである。コメは不足のおり、備蓄米として活用できるだろうか。
・第3に、米国から例えば戦闘機を200機輸入する。自衛隊の戦闘機保有は、現在330機、米国のF-35生産は年間180機である。日本の国防予算8兆円で、内10%が米軍基地関連である。F-35よりミサイルなどの弾がより重要となるのであろうか。台湾有事も踏まえると、ほぼ戦闘モードと捉えられかねない。
・トランプの言いなりにならないとすれば、どうすればよいか。日本の国益を守るというが、次はどのようなディールに持ち込むのか。苦しいが、できるだけ打撃は少なくしたい。トランプの手柄になるようなディールではなければ、合意できそうにない。
・5月に冨田浩司前駐米大使の話を聴いた。5月の文藝春秋にも「トランプ外交2つの攻略法」というテーマの論文が掲載された。冨田氏は2点を強調する。第1は、戦後秩序そのものの見直しである。自由民主主義、法の支配という基本理念は普遍的価値としつつ、戦後システムの利益享受と負担や犠牲について、不断の検討をすべしという。
・第2は、米国にさらなる孤立の道を歩ませないように関与を続けていくことである。権威主義との戦略的競争が本格化している局面で、トランプ外交を恐れずに、後退を前進に変えていくべしと提言する。
・権威主義国家では、政治的な権力が一部の指導者に集中する。中国やロシアが権威的で、米国や日本は民主的であると見方である。世界をみると民主主義国家の影響力は相対的に弱まっており、中国は権威主義的であっても経済成長を持続させ、対外的影響力は高めている。その象徴が米中貿易摩擦である。
・一方で、トランプの米国ファーストは、「主権主義」(sovereigntists)とみられている。米国の主権が第1であって、国家主権が国際的な仕組みや枠組みによって強く制約を受けることを嫌う。
・国連でも、気候変動のパリ協定でも、GATTでも、トランプの主張が自由に通らない意思決定システムに反対する姿勢をとる。自らが主体的に相手国と直接交渉して、そこでの利害をベースに、交渉をディールとしてまとめるというやり方である。
・米国は手柄に拘る。米中のソフトランディングはできるのか。日本はどんなお土産を手付として、用意するのか。貿易赤字を悪として、自らを被害者として、敵と戦うという姿勢で、支持層へのアピールをしている。
・短期的にも中長期的にも、「損して得取れ」という作戦が必要であろう。米国の経済力、科学技術の開発力、軍事力はこれからも世界トップクラスなので、うまく付き合って、日本に活かしていくことがプラスであろう。
・関税・課税・為替の効果を各々考慮しながら、戦略を立てる必要があろう。トランプ関税で失う付加価値はいくらか。それをどんな品目で相殺していくか。
・日本マーケットが得意な分野で課税するとすれば、どんな方策があるのか。為替に換算して、円ドルレートが20%円高になったと考えれば、どのような価格戦略をとるのか。
・米国現地生産や米国からの調達を増やすのであれば、どのような有利な条件を引き出すことができるのか。工夫の余地はさまざまありそうである。短期的手柄は先方へ、中長期的にはわが国、わが企業に付加価値が戻ってくるように、政策をもっていってほしい。
・日本製鉄のUSスチール買収は高等戦術であった。これからもグローバルマーケットで勝負している日本を代表する企業経営者の英知に期待したい。

