リスクは‘怒り’~アジア金融フォーラム

2013/02/10

・CSRC(中国証券監督管理委員会)のクオ・シュウチン主席は、中国の証券市場は未成熟であるとして、4つの改革を推進している。市場のことは市場に任せて、監督業に徹する。35の規制を廃止して、長期投資を促進する。キャピタルゲイン税、配当税も軽減する。手数料も40%ほど下げ、IPOの情報開示も強化している。機関投資家を育成し、CSRファンドも出す。QFIIの枠も拡大していく。個人投資家も人民元でB株に投資できるようにする。

・こうした改革を進める一方、IPOを待っている会社は900社もあると強調していた。中国本土の株価形成はいまだ未熟であるものの、中国には1300万社の企業があるので、これからもどんどん上場を目指す企業は出て来よう。

・中国のリスクについて、台湾最大のコングロマリッド遠東企業集団(ファー・イースタン・グループ)のダグラス・シュウ(徐旭東)CEOは、過剰キャパシティにあるという。今、シュウCEOは、上流は米国に、下流は中国に投資している。米国はシェールガスで新しいチャンスが生まれている。エネルギーコストが下がるので、それを見越して3つのプロジェクトを推進している。一方、下流の消費市場では、中国が伸びている。

・シュウ会長は、中国で25年間ビジネスをやってきたが、現在はリスクの度合いが上がっていると指摘する。ここで突然これまでの北京語ではなく、流暢な英語に切り替えて、その理由を話した。なぜか。中国語で話すと、マスコミにそのまま引用され、物議を醸すからである。中国人というのは何よりも体面を気にする。習新政権は新しいことをやりたいと思うはずである。必ず上手くやりたいと考える。当然適切な成長が求められる。

・しかし、中国の国民、消費者は目が肥えてきた。政策やクオリティに不満が出てくる。これを社会的にまとめていく必要がある。リーダーは民衆を満足させたいと思う。内陸部でも賃金を上げてほしいという。食品の値上がりは厳しいので、インフレになりやすい。その中で資本の効率が問われる。そうすると、マネジメント力が問われる。中国に進出した企業にとって、今後は一段と競争への準備とスケールの追求が必要になるだろうという。

・CICのロウ・チーウェイCEOは、中国企業にはもっとアジアとのシナジーがほしいと指摘する。朱民IMF副理事は、中国の課題は輸出モデル、固定投資モデルの次に向けて、いかに構造調整していくかにあるという。アジアについても、相互依存性(インターコネクティビティ)が高まっている。その中でナショナリズムだけを唱えても続かない。人々の変化を理解していく必要がある。

・領土問題では互いに悪い感情が高まっている。債務問題についても、生活水準の切り下げ、大幅な失業を納得できるかどうか。そうみると、今年のテーマは「怒り」と言えよう。怒りを爆発させて戦っても繁栄は生まれない。リスクと機会は共存している。機会をパートナーシップにしたいものである。パッショナリーに動かない方がよい。

・中国の汚職はどう考えるか。中国最大の食品コングロマリット中糧集団(COFCO)のニン・カオニン会長は、外国人は中国を誤解しているという。中国モデルは成功している。問題は中国がイノベーションをできるかどうかである。中国市場を欧米の尺度で見ると間違う。中国はすべてをコントロールしている。政府は安定を求め、市場のバランスを図っていく。汚職については、社会に害があると理解している。何が問題かは分っている。すでにモニターされており、手は打てる。SOHO中国(不動産開発)のパン・シーイーCEOも、世論が厳しくなっている。ネットの影響は大きい。政府にも許せない不正があり、是正されない不正はネットで暴かれていく。大気汚染、食品汚染も手が打たれることになろう。

・深圳(シェンチェン)を訪問した。深圳は今や人口1100万人の大都市である。深圳証券交易所(取引所)は1990年にスターした。2004年SME(中小型企業)、2006年OTC(店頭)、2009年ChiNext(新興企業)を開始した。SMEの上場会社数は701社、ChiNextは355社である。社数はSMEの半分、規模は10分の1である。このほか、最近はインデックスビジネスにも力を入れている。

・深圳の都市開発では「前海(チエンハイ)」計画が本格化している。深センの海の前に、人口65万人の街を全く新しく作ろうという計画である。香港の空港から高速道路で30分、深セン空港から10分で結ぼうとしている。14.9㎢の地域に居住人口15万人、就業人口65万人の街を作る計画だ。2010年に国に承認され、2020年に完成予定である。

・IT、サイエンス、ロジスティックス(物流)、金融の4つのセクターを誘致し育てる。税金は法人税15%(通常25%)、所得税30%(通常45%)である。香港と連携して、チエンハイメカニズムと称する新しいモデルを実現させようとしている。これが成功したら全国にも拡げる意向である。深センは全く成熟していないことに驚いた。

・深圳には、ファーウェイ(華為技術)社の本社がある。エリクソンと並ぶ世界トップクラスに成長した通信機器メーカーである。この本社で会社見学と説明会に参加した。世界150カ国に14万人の従業員を抱え、7割が海外売上げである。4割の人材がR&Dに従事しており、独自の製品を先進国はもちろん、アフリカにまでマーケティングしている。モバイルオフィス、テレフォン会議システム、eバンキング、クラウドデータセンターソリューション、キャンパスネットワークなど、先端分野の開発を行っている。

・その中のファイナンシャルサービスグループの成長について話を聴いた。マチュアをいかに打破するか(attack on mature)、リーディングポジションをいかに拡大するか(extend on leading)、エマージングな分野をいかに手に入れるか(overtake emerging)、という3つのフィールドで明確な戦略を実行している。これは中国の企業ではなく、グローバル企業であると実感した。

・香港はどうなるのか。今でも、パスポートがなければ出入りできない全く別の国であるが、前海プロジェクトでは、そのファイナンスを香港に頼ることもできるようにする。香港には世界の企業4000社の統括会社がある。中国本土が発展するにつれて、その役割が相対的には同化されていく。独立した存在から、中国の出島へ、そして特色ある都市へと変化していくのであろう。自由な街、香港(700万人)の活気は今後とも続いてほしいと願う。

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