三菱ケミカルHDの4次元経営
・三菱ケミカルホールディングス(HD)はKAITEKI(カイテキ)価値を追求している。世界の競合であるバスフ(BASF)はケミカル、デュポンはサイエンス、サノフィは個別化ヘルスケアを、それぞれテーマに揚げている。小林社長は、企業は資本効率を求めるだけでは不十分であるとして、新しい経営ビジョンを創り、そのビジネスモデルの確立に向けて邁進している。
・三菱ケミカルHDはグループ会社が統合し、7年前に今の形ができた。売上高3.2兆円、従業員5.4万人(うち海外に1.3万人)、2015年には海外売上比率を45%(現在37%)に上げようとしている。
・事業の盛衰サイクルは、(1)イノベーション、(2)イノベーション&差別化、(3)差別化、(4)再編、という流れで捉えられる。まず、何らかのイノベーション(技術革新)がなければ、事業は始まらない。次に、そのイノベーションを事業として差別化していく。その差別化が定着すれば収益基盤は確固たるものになる。それが持続するには、イノベーションの連鎖が求められる。もし差別化が通じなくなれば、事業の再編を余儀なくされる。
・その意味で、小林社長は、事業のイノベーションと差別化に力を入れている。その話を世界経営者会議(2012年10月)で聴いた。経営環境を見ると、グローバリゼーションとサステナビリティは不可避である。むしろ、積極的に対応していく必要があり、打つ手はイノベーションと差別化、そして空洞化対策であると強調した。
・グローバリゼーションでいえば、韓国とのコスト差は開いている。日本の人件費は韓国の3割高、電力費は3倍などコスト面では日本の方が厳しい。強い製品はグローバルで勝負し弱い物はやめる、ニッチなものは差別化でサバイバルを図る、という決断と実行が必要であると小林社長はいう。実際、例えばリチウムイオン電池の材料のうち、4つの部材で当社は独自の強みを有しているが、急速に追い上げられており、次の手を打っている。
・サステナビリティについて、これまで化石燃料である石油は100年くらいしかもたないと考えていたが、シェールガスの実用化で200~300年は使えるようになる。しかし、CO2の削減は課題であり、グリーンエネルギーは本来的なテーマであると強調する。
・これに対して、企業としてのソリューションはどのように見出していくか。ものづくりのモジュール化が進む中で、なかなか差別化が難しくなりつつある。かつて、スマイルカーブが注目され、部材とマーケティングで稼ぐと言われたが、それだけでは通用しない面も出ている。イノベーションのスピードアップが必須なので、他の機関とコラボするオープンイノベーション、他の組織と分業するOSB(Open Shared Business )を追求する考えだ。
・当社では年商が100億円を超えると、創造事業から成長事業へシフトさせる。現在、創造事業を6つほど定義し、成長事業へ育てようとしている。環境関連、ヘルスケア、新素材の分野でイノベーションのスピードアップを狙っている。グループ会社の縦の系列だけではなく、横のシナジー追求を図るために、マネジメントの旗振り役として2012年4月からミッション・コーディネーターを任命している。
・マネジメントの軸としては、(1)MOE(マネジメント・オブ・エコノミー)、(2)MOT(マネジメント・オブ・テクノロジー)、(3)MOS(マネジメント・オブ・サステナビリティ)、そして(4)Time(時間)の4つを据えている。収益、技術、持続性、スピードの4次元で「カイテキ」を追求していく。
・当社の企業価値創造はこのKAITEKIにある。しかも、これを計量化している。抽象的なお題目や定性的な目標としてではなく、定量化を図っているところがすごい。WICIのシンポジウム(2012年10月)で、三菱ケミカルHDの和賀経営戦略室長は、各軸に対して、インデックスを作り、80項目でそれを実践していると話した。2010年は140点(コンフォート34点、ヘルスケア77点、サステナビリティ29点)、2011年は177点(同51点、同86点、同40点)であった。2015年には300点の達成を目指している。
・カイテキという新しいコンセプトを軸に、独自のマネジメントスタイル、ビジネスモデルのイノベーションを目指す三菱ケミカルHDの小林社長に今後とも注目したい。