創業者からのバトンタッチ
・経営者の経営力をいかに評価するか。野武士のような嗅覚鋭い直感でばく進する経営者もいれば、物事を論理的に組み立ててあざやかに戦略を遂行する経営者もいる。
・かつて大企業を担当していた時、大企業の経営者は企業をどのように変えていくのか、興味をもって見ていた。社長は任期が4年、誰が社長になっても、会社は急には変わらないと、経営陣から言われたこともある。
・どういう意味か。内部昇進でそれなりに優秀な経営者が上がってくる。その中から社長に選ばれて、次の社長となる。1年目は前社長の方針に従いながら、2年目に自分なりの方針を打ち出し、3年目に本格的に実行する。4年目は卒業に備える。
・これでは、平時の仕事しかできない。平時の仕事をしっかりこなしてきた人が社長になるのであるから、それ以上を期待しても無理かもしれない。
・しかし、経営環境は常に変化している。10年に1回は、わが社にとって有事となる事態が発生しよう。その時、平時のサラリーマン社長では乗り切れない。もっと修羅場に強い経営者が社内で育っているだろうか。社内で無理なら社外から経営陣をスカウトしてくることも、変化への対応にとって決め手となろう。
・今日の業務を必死でやっていれば、経営者は育ってくるか。これは、課長、部長、本部長という人材にインタビューしていると分かる時がある。若くても、現場をみて、本質をみて、バリューチェーン全体をみて、あるべき姿を考え、上を巻き込んで手を打っている人材がいる。こういう人が10年単位でみて、しっかり昇進していく会社は期待できる。
・一方で、優秀な役員でも。社長と折が合わず、次の後継者に選ばれなかった人は数多い。もっと優秀な人がトップになったのだから心配ないかといえば、そうでもない。次の一手が打てない経営者も多い。そういう会社はよくならない。いずれジリ貧になってしまう。
・新興企業には、創業者が頑張って上場してきた企業が多い。しかし、実質一代で大企業まで駆け上っていく企業が少ない。それでもキーエンス、ファーストリテイリング、ソフトバンクグループ、ニデック、ニトリホールディングスなどが時価総額ランキングで上位にいる。
・中堅企業の創業者は、次の経営者をどのように選んでいくのか。創業者の株式持分が多いので、自ら次の経営者を選ぶことは容易である。この時、3つのパターンがよくみられる。
・第1は、自分の親族、とりわけ子供を後継者に選ぶ。子供が経営者として優秀かどうかは分かりにくい。話してみるといい人ではあるが、経営力が十分かどうかは、実績をみないと判断できない。創業者が会長でいる時は、自らの経営力を発揮できないことも多い。
・創業者がいなくなって、全権を任された時に経営環境が大きく変化していると、ついていけないこともよくある。一方で、2代目が先代よりも優秀な例もあるので、一概に否定はできないが、後継者としては慎重に見た方がよい。
・第2は、親族がいたとしても、社内から最も優秀な人材を選ぶ。この時の優秀というのは、1)自分の眼鏡にかなっている人、2)将来を託せる人、3)とりあえず信頼できる人、などさまざまな見方があろう。
・長年一緒にやってきた番頭タイプに任せるというのが、安心ではあるが、ここから経営のイノベーションが生まれるとは思えない。保守的な経営が継続するかもしれない。しかし、経営力が十分でない親族にまかせるよりは安心できる。
・問題はこの番頭タイプの経営者が次を選ぶ時にミスをしやすい。自分の好みが優先して、本当の経営力をみていないかもしれない。企業としては、停滞感が強まってこよう。
・第3は、突然社外から優秀と思われる若手経営者を呼んでくる場合である。この時、1)経営トップになって力み過ぎ、自分優先を振り回して社内から浮いてしまわないか。2)これまでの会社のカルチャーを重視するあまり、慎重に動き過ぎて新鮮味がいつまでも出てこない。逆に、3)人材の新陳代謝が予想外に進んで、若手の登用がうまくいく。こうしたことがよくみられる。
・社長は後継者を自分で選びたい。指名諮問委員会に形式的に任せるとしても、自分の意見が通るようにしたいというのが、人情である。そうではない本物の指名委員会が、本当に機能しているか。まだ少ないと思う。指名委員会の責任は重いが、構成メンバーはそれだけの任を果たせるのか。
・社内の次の人材、次の次の人材を、社外の目できちんと見ておく。社外からスカウトするにしても、経営者の経営力を複数の識者を通して評価していく。こうした仕組みがあるべき姿といわれれば反論しにくい。
・やはり、社外取締役へのインタビューでは、指名諮問委員会のメンバーとして、次の経営陣の選任の仕方がどこまで機能しているかを知りたい。その上で、次期社長がどのくらいの力量を発揮してくるか、数年みていればわかってくる。
・企業価値評価の4つの軸のうち、経営者の経営力は最も重要である。創業者からのバトンタッチに引き続き注目したい。