サステナブルファイナンスへのシフト

2024/03/11 <>

・企業のサステナビリティを経営全体に統合していくことは、かなり難しい。先進的な企業をみていると、役員報酬にサステナビリティの成果を盛り込んでいる。

・アサヒグループホールディングスでは、ESGに基づくサステナビリティの評価項目を点数化して、中期賞与に反映させている。サステナビリティによる社会的価値を40%のウエイトで評価する。

・オムロンでは、役員報酬を短期と中長期に分け、ROE、EPSなどの財務目標が60%、相対TSR(トータルリターン)などの企業価値が20%、ESGのサステナビリティが20%というウエイトで評価している。

・サステナビリティの成果をどのように測るか。まだ試行錯誤が続いているが、マテリアリティからKPIを定めて、目標を立て、その実行をPDCAで回していく。その上で何らかの数値化(レーティング)を用いて、評価していく。企業のサステナビリティの評価と、経営全体への統合には大いに注目したい。

・ESGにおいて、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)をどのように展開するのか。目標を掲げれば、その実現に向けて、投資が必要になる。戦略を立て、組織を作り、定性的な目標を計量化できるようにする。

・そのKPIが、どのように企業価値向上に貢献していくのか。経路を踏まえて、因果について何らかの実証(エビデンス)がほしい。すぐには無理としても、5年、10年かけて実効性をみせてほしい。そのプロセスを共有したい。

・D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)において、例えば女性取締役、外国人取締役をいかに増やしていくのか。事業の特性にもよるが、社内取締役、社外取締役の多様化は必須である。現状でよいという答えはまずない。いつまでに、どのように実現するのか。その実効性はどうか。形式だけではもはやステークホールダーに評価されない。

・ICGN(国際コーポレートガバナンスネットワーク)の議論を聞いていると、取締役10名の時、社内が6~7名、社外が3~4名として、まず女性を3名にする。社外から招いて増やしつつ、社内については10年かけて3分の1を女性にするくらいの実行力が問われる。

・その前提として、1)能力があること、2)社内昇進とともに、中途採用にも力を入れること、3)多様性が意思決定の質を高めるように選任されること、が求められる。とりわけ、経営人材については、中期的な育成が必要で、人材が育つように社内の仕組みを革新していく必要がある。人材投資について大いに議論したい。

・昨年10月に東京サステナブルファイナンスフォーラムが開催された。サステナビリティを実現するには、投資が必要であり、そのファイナンスのあり方が問われる。とりわけ、トラジションファイナンスとインパクトファイナンスが注目される。

・東京FinCity構想を推進するには、1)サステナブルファイナンス、2)フィンテック、3)アセットマネジメントの機能を大きく高める必要がある。

・CN(カーボンニュートラル)を実現するには、主要産業において、技術革新を踏まえて大型投資が必要である。CNに貢献しつつ、企業価値向上が図れるような投資案件にファイナンスがついてくるようにすべきである。

・しかし、その投資は本当に有効なのか。さらに、有望なのか。ここがはっきりしないとファイナンスに応じる投資家はいない。有望であるならば、一定のリスクをとって投資機会を活かしていくことは、ビジネスチャンスとなる。

・PRIのD・アトキンソンCEOは、企業のトップマネジメントは、サステナビリティをビジネスモデルに取り込んで、その実行を自らのマンデート(委任される任務)にすべしと提言した。サステナビリティはもはやコミットメントの段階ではなく、アクションが求められている。

・サステナブルファイナンスは、新資本主義のコアとなっている。社会的課題の解決を通して、持続的な成長を実現する。それをサポートする政策が推進されている。金融庁の堀本審議官(政策立案統括)は、3つの施策をあげた。

・1つは、GXの推進に向けたクライメットトラジションボンドの発行である。再エネ、水素、鉄鋼・化学などの先行投資で、トランジションを加速させる必要がある。新しいGX投資商品の開発を促していく。

・2つ目は、スタートアップの支援である。支援の1つがインパクト投資で技術革新やビジネスモデルの革新を求めてコンソーシアムを作っていく。

・3つ目は、サステナビリティを推進する金融機能として、アセットオーナーやアセットマネージャーの役割を一段と高めていく。

・ブルックフィールドアセットマネジメントのM・カーニー会長(前イングランド銀行総裁)は、4つのビックトレンドに注目している。1)CNに対する企業のニーズは高まっており、テクノロジー、オペレーション、ファイナンスが必要である。

・2)CNに向けた政府のやる気も高まっている。脱炭素のコストも下がっているので、ギャップを埋めることはできる。3)ISSBによる基準の明確化やTCFDの推進によって、金融セクターでもCNに向けて視野が広がっている。4)そのためには多額の投資が必要であり、グリーンボンドが急拡大するとみている。

・CNの実現に向けたトラジションはまさにR&Dと同じであり、企業戦略の中心に位置づけられる。アンモニアへのニーズは新市場をクリエイトする、とIHIの瀬尾常務は語った。

・JFEの手塚主監(地球環境担当)は、大型投資を必要とし、コストがかかるので、CNに向けたロードマップを理解してもらう必要があると話す。EV用の電磁鋼板、高炉での水素利用など、領域は広い。グリーン鉄は高付加価値である。この市場を作っていく必要がある。

・資金使途が特定されるグリーンボンド、特に定めのないサステナブルリンクボンドなど、ロードマップの中でのポジションが問われる。

・インパクト投資は、社会的価値へのインパクトを重視するが、このインパクトと収益は、トレードオフ(両立しない関係)ではなく、Win-Win(双方が満足する利益を得ること)であるという認識が必要である。経済性と社会性、すなわち儲けて、役立つという両面を目指す。

・ベンチャーにも、IPOにも、大企業のトランジションにも、インパクトが求められる。投資家は、両立を目指すポジティブ インパクト ファイナンスに対して、投資機会を見出す。一般的なESG投資だけではなく、個別の技術やプロジェクトが注目されよう。

・課題はある。トランジションはリスクが高そうで、インパクトは先行きが不透明であるとみられるかもしれない。リスクをとらない投資家ばかりであれば、企業再生や新しい成長は望むべくもない。

・インパクトをもう1つの軸とし、リスクとリターンをよく見極めながら、これら3つの軸で、各々の分野の1号ファンドへ投資するようなカルチャーを作っていきたい。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。