大切にしたい会社

2012/12/14

・「日本でいちばん大切にしたい会社」の第2回大賞を2012年3月にツムラ(コード4540)が受賞した。中興のリーダーである芳井順一会長が9月の講演でツムラの歩みを語った。どのようにツムラを再生させてきたのか。その話は生々しく、興味深い。

・第一製薬の常務だった風間氏がツムラの創業家の親戚に当るので、ツムラを何とかする必要があるというので、白羽の矢が立った。芳井氏も付いてこいと言われて、手伝うことにした。17年前に、第一製薬からツムラに転職した。

・ツムラに来て驚いた。漢方薬のメーカーと思っていたら、子会社が赤字だらけで、すでに危険な状態になっていた。取締役社長室長として、2年間子会社の整理をやった。1995年度の業績は売上高1176億円、経常利益71億円、当期純利益-10億円であった。子会社の赤字で特別損失が多額に出ていた。

・96年3月末で累損が285億円ほどあった。倒産は避けられないという思いすらあったと、芳井会長は言う。銀行からも再建は無理ではないかと言われ、大手企業からTOB(買収)の話しも来た。そんな中で、漢方薬の副作用かもしれないという死者が出て、会社は窮地に陥った。その時、風間社長に営業をやってくれと言われた。漢方を全く知らないのに、営業の立て直しに入ったのである。

・95年から2001年までの7年で、大幅な事業の整理を行った。人員整理も避けられなかった。2回に分けて希望退職を募った。まずは支出を減らした。役員報酬をカット、支店長でもグリーン車なし、昼、夜の接待なし、ハイヤーをやめて、営業車を使う、社長も会社の営業車で外交、外回りをするようにした。

・次に収入を上げる必要がある。どうするか。ツムラには969名のMR(医薬情報担当者)がいた。いわゆる営業担当だが、大半が漢方を使っている開業医をまわっており、営業の成績も下がっていた。そこで、芳井氏は営業の責任者として、病院を回った。聞いた質問は1つだけ。「どうして先生は漢方を使うようになったのか」という内容であった。

・先生方の答えは皆同じだった、と吉井会長は述べる。いろんな病院を回ってきた患者がその先生のところに来て、結局その先生自身でも治療ができない。しかたなく何か薬は出したいということで、安くて副作用の少ない漢方にした。そうしたら効いた。漢方には何かがある、ということを感じて、その先生は勉強を本格化させた。

・そこで、処方例を知ることが大事であると理解した。MRには漢方を使っていない先生のところに行けと命じた。そこで、処方例を説いてまわった。例えば、足がよくつる患者がくる。これに効く新薬はない。ところが漢方(しゃくやくかんぞう)は一発で効く。せきが止まらない。これにも漢方(ばくもんどう)が効く。そうすると、先生方は初めて聴く耳をもち、そこから漢方の宣伝に入った。

・西洋医学とは異なる漢方のセミナーを、ドクター向けに本格化させた。土、日のセミナーを公民館の一室を借り、有料でやる。そうすると、本気の先生しか来ない。このセミナーに累計何万人も参加した。これで売上げが上がっていった。28万人の臨床医全員に漢方を学んでほしいという思いである。

・ツムラは、漢方薬の復活を使命として、再生してきた。全国80の大学医学部に漢方外来を作ってもらうように働きかけて、それが実現した。エビデンス(科学的根拠)を確立することに力を入れて、15年前には漢方を使っている人は変人と見られたが、今では使わない人が変人と見られるようにまでなってきた。

・現在は「育薬」に力を入れている。なぜ効くかを分るようにして、新薬で難渋している疾患に漢方を使ってもらおうとしている。認知症で夜中に騒ぐ人に効く漢方、癌で食欲のない人に胃液が戻ってくる漢方など、さまざまである。

・漢方の80%は中国からの輸入であるが、ラオスでの栽培も本格化させている。北海道の夕張や石狩でも、ボランティアではなく、ビジネスとして知的障害者を活用した漢方の栽培や加工場も作っている。日本で生薬を作ることに力を入れている。このように、漢方を人々に役立つように普及させ、それを通して会社そのものを再生させてきた。

・どの会社も根っこには、いいものを持っている。しかし、それを適切に育てていかないと、陽の目はみられないし、長続きもしない。日本で最も大切にしたい会社と株式投資は一見関係が薄そうであるが、サステナビリティという点ではそうでもない。企業を見抜く視点として重視していきたいと思う。

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