コーポレートガバナンスのあり方~リクシルのケース
・指名委員会等設置会社の形をとる上場企業はまだ少ない。本来のあるべき姿ではあるが、経営不振や不祥事に陥った会社が、その再建に向けて体制を立て直す時によく使われることも多い。あるべき姿といっても、その運営を的確に機能させるには、工夫と努力を要する。
・6月に、リクシルの松崎取締役(取締役会議長)と西浦取締役(指名委員会委員長)の話を、BAJ(ボードアドバイザーズ)主催のシンポジウムで視聴した。社外取締役の取締役会議長はどこに力を入れているのか。指名委員会の委員長は何を実行しているのか。企業経営を評価する投資家の視点で、参考になるところを取り上げてみたい。
・リクシルは2019年6月の株主総会で、瀬戸CEOが復帰した。当時、筆者も株主として多大な関心を持っていた。両サイドから提案された取締役候補が数多く選ばれた。それから3年、企業の再構築は大きな進展をみせた。
・松崎氏は、5つの点を強調した。第1は、コーポレートガバナンス(CG)は何のためにあるのか。その認識を共有し、共通化しておく必要がある。当時の取締役は、14名中9名が社外であった。そこで、この9名の役員研修を行った。CGの役割と意義が分かっていないと、社外が多くても機能しないからである。
・第2は、取締役会の役割は監督であって監視ではない。企業が直面するリスクと経営能力(ケイパビリティ)に乖離はないか。監督という立場で、建設的な意見を述べることが求められる。その時、執行サイドの能力が問われる。しっかり受け止めて実行できるなら、改善効果が期待できよう。
・第3は、監督に当たって、常にステークホルダーの視点を保つことである。マネジメントの選任、経営の基本方針、内部統制システムの体制について、その中身と実効性を外部の目で確認して、より強固なものに作り上げていく。
・第4は、取締役会がきちんと機能するには、課題の設定に当たって、執行サイドだけでなく、監督サイドからも議題を提起することである。透明性のあるプロセスで審議して、一定の結論を得る。できていること、まだ不十分なことを議長がしっかり統括して次につなげていく。これが議長(社外)の役割であると強調した。
・第5は、今後の成長にフォーカスすることである。成長戦略とサステナビリティの実行を監督する。とりわけ、戦略テーマの特定について、議論を充実させていくという。
・西浦氏は、ブラックボックスであった指名委員会を透明化することに力を入れた。問題の総会から1年後の2020年6月に、取締役7名(社内4名、社外3名)が退任し、大幅な組み替えを実行した。
・そのプロセスにおいて、相互推薦の投票を実施した。外部のBAJに事務局を置いて、公正に実施した。個別の面談も行った。結果として、社外取締役は9名から6名へ減少した。
・その後、社外取締役は、2021年6月で7名、2022年6月で8名に増えた。取締役11名(社外8名、女性4名)という構成である。
・本来、リクシルにとっての取締役は10名が妥当であると判断しているようだが、社外取締役の円滑な交替という観点から今期は1名増員した。交替計画は、経営の執行サイドと同様に、社外も重要である。
・サステナブル経営の推進にとって、経営陣が変わる時にリスクが高まる。投資家、ステークホルダーがCEOの交替に最も注目するのはそのためである。オーナー型の会社では、オーナーから次へのバトンタッチが最も難しい。次の経営者は本当に適任か。この判断がたえず問われる。
・ガバナンスの仕組みが本当に機能しているかどうかは、次のCEOが「よいCEO」であるかどうかにかかっている。よりよいCEOが選出できるように、指名委員会は活動する。
・リクシルの指名委員会は、数年にわたる交替計画も視野に入れて、1)候補者のアップデート、2)執行役の評価、3)社外取締役の評価を進める。外部の第3者機関も活用する。
・CG改革でよかったことは、1)取締役会議長とCEOを分けることに、執行サイドが合意したこと、2)取締役の評価に相互推薦という仕組みを入れて、納得性を高めたこと、3)交替計画をしっかり運営していることにある。
・話を聴いていると、松崎氏の経験と見識、西浦氏の実行力が成果に結びついていると感じる。CGが企業価値向上に貢献するプロセスの見える化が実践されている。次の成長戦略がどのように展開されるか。リクシルに引き続き注目したい。