インフレへの対応~値上げの克服に向けて
・2008年のリーマンショックのような危機は来るのか。コロナ禍の2年を経てようやく克服されようとする局面で、ウクライナ侵攻が始まった。地域の局地戦ではなく、自由主義陣営と専制主義陣営の争いとなっている。ロシアの劣勢は明らかとしても、米国もEUも全面戦争には向かないし、ロシアの核の脅威もあるので、落とし所が難しい。
・エネルギー危機、食料危機、希少資源危機が発生している。供給制約の懸念が価格高騰を招いているが、長期化すればどの国の経済にも打撃となる。不況下のインフレがスタグフレーションとなり、リスクシナリオが一気に表面化する恐れがある。
・NRIのエコノミスト、リチャード・クー氏と木内登英氏の講演を視聴する機会があった。二人とも厳しい見方をしていた。その中で注目すべき点をいくつか取り上げながら、今後の投資方針を検討してみたい。
・紛争に至るには、当事国にとってやむにやまれぬ事情があろう。それを第3者からみると理解できない偏見のようにみえるが、楽観論が打ち砕かれると事態は深刻になる。
・ロシアの経済規模はすでに韓国並みに小さいが、エネルギー資源、核保有という点で、影響力は大きい。ウクライナは発展途上国で、農業国として成り立っていた。ロシアの人口は1.4億人、ウクライナは93年に5200万人であったものが、その後800万人が国外に出て4400百万人、今回の紛争でさらに700万人が脱出している。
・ロシアの侵攻に、ウクライナは西側の結束力ある支援のもと、勇敢に戦っている。国が滅びたら、ロシア化されるという恐怖が国民の反撃を支えている。独裁者に妥協はできないので、この戦いは長期化するとみておく必要がある。そうなると事態は厳しい。
・地球温暖化でCO2の削減が世界的テーマとなり、エネルギー源の見直しが進められてきたが、この理念と実行を一旦見直す必要さえ出ている。SDGsやサステナビリティの追求には順番がある。戦争状態を収めること、人々の緊急の生活を守ることを優先せざるをえない。
・エネルギー価格、食料価格、資源価格の高騰は、瞬間的な需給を反映したものであり、1)短期的には受け入れざるをえない、2)その上で供給体制の見直しを進めていく必要がある、3)次の状況が見通せるようにならないと開発投資はスタートしない。今後3~5年をかけた中期戦略が必要とされよう。
・供給制約による価格上昇、それに伴うインフレをどう抑えるか。クー氏は、1)変化率でみればインフレは加速する、2)水準でみるとディスインフレを示唆する、とみる。需要が拡大して価格が上がっているわけでないので、経済にはマイナスの影響が大きく出てくる。これを金利引き上げという金融政策で対応することは難しいのではないか。
・さらに、サプライチェーンの混乱も起きている。ウクライナ紛争が落ち着いても、エネルギー、食糧、希少資源の調達という点では、もはや元の状態には戻らない。節約と新しい調達先の開拓、それを乗り越えるイノベーションが求められる。
・米国金融市場のイールドカーブをみると、1)目先は供給不足によるインフレを反映しているが、2)中期ではインフレが加速するとはみておらず、いずれインフレは落ち着くとみている。そうなるだろうか。物価が上がっても、人々の所得は上がらないので、景気は減速し、スタグフレーションとなる。
・FRBは、この局面の金融政策をうまくコントロールできるのか。インフレがきつくなると、それを抑えようとして、マーケットとのギャップが出てくる。そうすると債券市場が揺れて、株式市場も大きく調整することになろう。
・木内氏も、FRBの利上げ政策がうまくコントロールされないリスクを懸念している。ロシアに対する経済制裁は、制裁する側にも相当の負担をもたらす。
・日銀は円安を容認しているが、130円を超えても大丈夫なのだろうか。日銀の金融政策は今のところ従来のままのようにみえる。黒田総裁の任期中は現状のままかもしれないが、木内氏は早めに動くべしと警鐘を鳴らす。
・そもそも金融緩和で経済をもち上げようという政策は、ゼロ金利でもさして効果をあげなかった。経済が成長しなければ、物価も上がってこない。ひいてはデフレ脱却はできない。
・木内氏は、日本の潜在成長力を高めるのが本質であり、それを金融政策に頼ることには無理があるとみている。2%の物価目標は早く取り下げた方がよく、円安で物価が上がるのは本来求めていたことではないと主張する。
・次の日銀総裁は誰になるのか。雨宮氏か中曽氏か山口氏か。いずれも日銀副総裁経験者であるが、来春以降、日本の金融政策も変化することになろう。
・成長期待を求めるには、需要を創り出すことである。先行きが不透明なので、民間が動かないとすれば、政府が動くしかない。しかし、それがバラマキ政策だけでは、成長の呼び水にはならない。EX、DXのインフラ投資は実効性が求められる。働き方、福祉/介護などの新しい仕組み作りはさらに取り組んでほしい。
・民間では、R&D投資、設備投資、人的投資、サステナビリティ投資に、手持ちの資金を思い切って使ってほしい。金融資本効率だけでなく、人的資本効率や環境資本効率の見える化にも取り組むべきである。そのための投資なら、サステナブル投資としてステークホールダーの賛同が得られよう。
・まずは今秋にかけてのハードランディングに備えると同時に、中長期のサステナブル投資で光ってくる企業に投資チャンスを見出したい。