企業変革に向けて~人材のリスキリングは必須
・昨年11月に恒例の世界経営者会議を視聴した。経営者の新しい視点と実践を学ぶことが、投資機会の発掘に役立つ。注目すべき点をいくつか取り上げてみたい。
・コロナ禍を経て、企業はその存在意義(パーパス)を問われている。社会的課題の解決に向けて、自らの能力をいかに高め、実行していくか。iRobot(アイボット)のコリン・アングルCEOは、ロボットの未来について語った。
・お掃除ロボットのルンバは、家庭に入って活躍している。福島原発の炉心へiRobotを入れた。高放射能の中でロボットが動くか。センサー感度を試し、トレーニングをして、放射能の低いところを辿って入った。
・ロボットは人々の生活や産業をサポートする。宇宙や未知の領域への探索にも出かける。介護のサポートもする。実際、ドアの開け閉め、階段の上り下りができるので、スマートホームに役立つ。
・これまでロボットは、自動機械というイメージであった。これからは自動化に力を入れるだけではなく、状況を理解するロボットが必要になっている。タスクをこなすだけでなく、関係作りができるロボットが必要になっている。AIの活用でフレキシブルな対応ができるようになりつつある。
・人間のスキルとしては、何が大事になってくるか。人と人の会話に言語が必要なように、ロボットを動かすプログラミングやそのコーディング(コードを書けること)が、言語を学ぶことと同じように大事になってくる、とアングル氏は強調する。
・アングル氏は、簡単にコーディングができるロボット(Coding Robot)を作った。目で見て、プログラムを考えて、コーディングする。これが簡単にできるという。こうした新しいスキルを身に付けて、ロボットをもっと活用できるようにしていく。新しいロボット作りは確かにおもしろそうだ。
・DXはどうか。アドビ(Adobe)のシャンタヌ・ナラヤンCEOは、いかに会社を変えていくか。その戦略転換を強調した。アドビは2022年で創業40周年になる。シリコンバレーで、トップランナーの1社として走ってきた。アプリ、クラウド、そしてプラットフォームへと、インテリジェンスに溢れた会社にさらに変貌させようとしている。
・コロナで守りを固めながら、3つの成長戦略を推進している。第1がクリエイティブクラウドで、コンテンツにはスピードが求められており、どのメディア、どのデバイスでも、ストーリーの重要性が増している。このストーリーを伝えやすくしていく。
・第2はドキュメントクラウドで、PDFの次は、署名に関するコラボを推進していく。第3はエクスペリエンスクラウドで、顧客の体験を確保し拡張していく。この3つ領域がコロナ禍で加速している。
・顧客の体験を、デジタルを活用して蓄積し管理していく。ここでは、デジタルエンゲージメントが重要になっている。ユーザーである法人顧客へ、ブランドを活かして、クラウドの拡大を図っていく方針である。
・ナラヤン氏は、中小企業も含めて、CEOをはじめCIOやCOOに対して、①デジタル化をすぐ始めよ、②人と技術を導入してビジネスプロセスを変革し続けよ、③デジタル推進のチャンピオンリーダーを見い出して、デジタルリテラシーの高い人を活用せよ、と語った。
・民間はもちろん、政府、自治体など公共のデジタル化も加速する必要がある。様々な意見はあるが、ロードマップはすでに見えている。プライバシーなどの聖域は守りつつ、チャレンジすることである。
・制約はテクノロジーで乗り越えることを目指す。何よりも利用者の期待に応えることである。そうすれば、次の5年で景色は一変しよう、と提言した。まさに、このデジタライゼーションを期待したい。
・グーグルジャパンの奥山代表は、日本の制度疲労をデジタルで変えようと語った。デジタル人材の育成やリスキリングは必須であり、心身の健康にDXを、人々の社会参加にDXを、こうした分野が大きく成長するとみている。
・セールスフォース・ドットコムのブレッド・テイラー共同CEOは、デジタルヘッドクォーター(デジタル本社)の位置づけを強調した。デジタル化が当たり前になり、キャリアの見直しが誰にとっても必要になっている。
・オフィスのあり方、仕事のこなし方も大きく変わっていく。本社やオフィスは仕事の実務を行うところではない。オフィスは、人とのエンゲージメント(つながり)を確認するところになるという。
・日本をデジタル文化に変えることは大変だが、働き方の棚卸は避けられない。よいことに合わせていけば、会社や仕事が変わり、そういうところに優秀な人材が集まってくる。
・米国ではすでに強烈な人材獲得競争が始まっている。日本では、まだ始まったばかりともいえる。すべての会社がDXを通して、テック会社に変身していく。それをサポートしていく、とテイラー氏は語った。
・企業はビジネスモデルの変革を続けていく。さもないと脱落してしまう。求められる人材も変化してくる。人材の流動化は、日本でも当たり前になろう。自らの能力を磨き、スキルを高め、適応させていかないと生き残れないし、仕事がおもしろくならない。社員の多くが楽しく仕事をしている会社かどうかをぜひ知りたい。