アナリストのクオリティはいかに~探索を評価する

2021/12/28 <>

・10月の日本証券アナリスト大会で、入山章栄教授(早大大学院)が「世界の経営者から見た日本企業イノベーション創出とアナリストへの視座」というテーマで講演した。

・その中で、最近、アナリストの評価が下がっているのではないか。先が見えない中で、イノベーションへの取り組みをどのように評価していくのか。この点について、入山教授の論点を踏まえながら、アナリストが目ざす姿を考えてみたい。

・グローバルな視点で深い分析を行っている「怖いアナリスト」がいない。海外の投資家を引き付けるべきなのに、日本目線の分析に留まっていて、企業の評価やバリュエーションがガラパゴス化していないか。こういう声をベンチャー型企業のCFOやメディアの記者から聞くという。

・確かに、不確実な世界にあって、企業評価は難しい。それでも、企業評価の軸は、①グローバル、②デジタル、③イノベーションにある、と入山教授は指摘する。

・イノベーションは、例えばトヨタの危機感に直結している。バイオ医薬品でも競争は激しい。コロナ禍でリモートスタイルが一気に定着したが、まもなく自動翻訳が入ってこよう。そうなると、言語の壁がなくなる。国内サービス産業は、かなり崩壊するのではないか。入山教授は、日本語で守られている大学も危ない。イノベーションを行わないと、負けてしまう。同じように、アナリストも危ないのではないか、とみている。

・では、どうして変われないのか。経営環境の変化に気が付いても、それに対応ができない。なぜか。それは「経路依存性」にあると分析する。例えば、新卒、終身雇用というしくみの中で、ダイバーシティといっても、そこだけを変えるわけにはいかない。今の仕組みのままで、DXを実行するといっても、組織は動かない。これまでのプロセスが染み付いていて、行動変容が起こせない。

・どうすればよいのか。経路依存性を外してしまえ、と入山教授は説く。例えば、日本は役員が多すぎるので、DX担当と人事担当を同じ役員の兼務にすると、仕事のやり方、評価の仕方を一気に変えることができる。コロナ禍で働き方は大分変っている。こうした方向転換を加速すればよい。

・イノベーションは、新しいアイディアの実現から生まれる。そのアイディアは、既存の知の組み合わせでもある。シュンペーターは、それを「新結合」と言っている。いつもの仲間で、いつもの話をしても、話は出尽くしていることが多い。大企業の中からイノベーションは出にくい。大事なことは、遠くの知をみて、それを持ってくることである、と主張する。

・入山先生が紹介した「両利きの経営」(Ambidexterity)は、①知の深堀り(exploitation)と、②知の探索(exploration)の双方を追求する。大企業はとかく深堀りだけに走る。そうすると、競争の同質化で自滅しかねない。

・知の探索では、できるだけ遠くの知を見る。関係がなさそうなものを見るのだから、無駄にみえる。しかも、少し見るだけでは不十分で、たくさん見る必要がある。知の探索をやると、何が起きるか。失敗はつきものということになる。アップルのジョブズ氏は探索人間で数多くの失敗をしている。アマゾンのベゾス氏は多数の新規事業を一気に立ち上げ、多くの失敗をしている。

・アナリストはこうした失敗を評価できるか。これが入山教授の問いである。日本企業は失敗を恐れ、失敗が苦手である。減損が発生したことに投資家やアナリストは怒るが、そうではなく、これは知の探索の証であるとみる。

・IRではその説明を行えばよい、という入山先生の見方は、確かにユニークである。アナリストは、企業の知の探索を数多く知って、その失敗から企業の挑戦を評価していくべし、という考えである。

・1つの組織の中の知の探索(組織レベル)より、外部の人との結びつきからくる知の探索(人脈レベル)の方が望ましい。強い結びつきより、弱い結びつきの方が遠くに行けて、新しい知との出会いがある。アナリストは幅広く交流して、一見無駄に見えることを評価していく必要がある。

・もう1つ大事なことは、正確な分析より、納得できる見方を重視すべし。正確性(Accuracy)よりは、納得性(Plausibility)を軸とする。正確に分析して将来を予測しても、それは横並びの特徴のない中期計画になりかねない。

・一方、納得性は、なるほどと腹落ちすることである。遠くの未来に腹落ちすると、遠くの未来に投資したくなる。そこで、たまに当たる。そしたら深化していけばよい、というやり方である。10年ビジョンでは短い。現状の延長線になりかねない。永守氏は30年先を見ている。孫氏は100年先をみている。企業は30年ビジョンを考えよ、アナリストも30年先を・一方、納得性は、なるほどと腹落ちすることである。遠くの未来に腹落ちすると、遠くの未来に投資したくなる。そこで、たまに当たる。そしたら深化していけばよい、というやり方である。10年ビジョンでは短い。現状の延長線になりかねない。永守氏は30年先を見ている。孫氏は100年先をみている。企業は30年ビジョンを考えよ、アナリストも30年先をみよ、と語った。

・知の深化はAIでできる。失敗を減らすこともできる。しかし、知の探索は人にしかできない。ここにフォーカスすると、アナリストの役割は高まると強調した。確かに、知の探索を共有して、失敗から学びつつ、企業の挑戦を腹落ちするところまでもっていく。その知の探索に一枚加わって、企業評価に活かしていきたい。

・このハードルは高いが、企業にイノベーションを求めるなら、自らもイノベーターとして、アナリスト変革(AX)を実践する必要がある。セルサイド、バイサイドのアナリストは、ぜひともアナリストの活動を面白くしてほしい。

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