パッシブ運用かアクティブ運用か~IRのあり方はいかに
・上場企業にとって、株主が誰であるかは極めて重要である。できるだけ多様な投資家にバランスよく保有してもらい、中長期の株主として会社を応援してほしいと思う。法的には会社は株主のものであるが、企業の活動は多くのステークホルダーによって支えられている。よって、短期的に株主の利益を第一に考えるわけにはいかない。
・株主総会の議決権行使で、会社の議案に黙って賛成してくれる、もの言わぬ株主がありがたいというのは、本当だろうか。本音でそう思っている経営者は、たぶん経営者失格であろう。また、株主総会をうまく乗り切ればよいと、小手先の戦術だけに力を入れるようでは困る。
・中長期の会社の発展が思うようでない時、次の一手が見い出せないのか。次なる手は打っているが、効果を上げるには一定の時間を要するので、ここを見守ってほしいのか。一方で、その手がうまくいかないと分かった時、どうするのか。経営者の悩みが尽きない中、パーパスとビジョンのもとで戦略を実行していくリーダーシップが問われる。
・経営者には、①社長のポジションを喜々として楽しんで、社員の力を引き出してくるタイプ、②社長として手を打っても、経営環境の変化に阻まれて、後手後手に回っているタイプ、③本来なら交代すべきなのに、まだ地位にとどまろうとするタイプなど、さまざまであろう。
・投資家は、社長をみて、その会社に投資する。社長の経営力が、会社の価値創造にとって最も重要である。上場企業に個別に投資する時は、機関投資家であれ、個人投資家であれ、社長の個性と力量をよく知りたいと思う。
・一生懸命努力するとして、何人くらいの経営者の個性や力量を知ることができるだろうか。10人くらいは何とかなろう。100人となるとかなり難しい。1000人となったら多分相当のプロでも難しい。プロの機関投資家であれば、バイサイドのアナリストが20人いれば1人30社を担当するとして、600人はカバーできるであろう。
・投資家はリターンが上がる投資をしたい。株式でいえば、中長期によい会社であり続ける会社に投資したい。会社は一本調子で伸びるわけではなく、いい時も苦しい時もある。それを乗り切って企業価値を高めていく。
・これをポートフォリオとしてバランスを図っていけば、堅実なリターンが得られそうである。アクティブ運用の神髄はここにある。ところが、アクティブ運用の多くはパッシブ運用に負けている、という見方が有力である。
・それならパッシブ運用に任せた方がよい。市場のインデックスと同じように投資しておけば、インデックスと同じリターンが得られるはずである。インデックスは分かり易い。投資のタイミングも毎月同じ金額を投資するドル平均法ならよさそうである。
・世界でも日本でも、今やパッシブ運用が大きく伸びている。これが市場と企業に与える影響をどうみているか。9月に、日本ファイナンス学会と日本証券アナリスト協会の共同セミナーで、青山学院大学の芹田教授がアカデミックな研究成果を発表した。
・1つは、パッシブ投資が増加すると、個別企業に過大評価をもたらす可能性がある。日経平均連動のETFでみると、インデックス全体での売り買いとなるので、個別企業のファンダメンタルが十分反映されない。
・2つ目は、コロナ禍の急落期に、日銀のETF買いは株価急落を緩和する効果があった。つまり、インデックスの買い支えが、個別株のファンダメンタルズを無視した市場の不安に一定のプラス効果をもたらした。
・3つ目は、パッシブ比率が高まる中で、社外取締役の比率が上昇すると、CEOの交代を促す効果がある。解釈するとインデックス型の株主が増加すると、議決権行使で明確な意見を表明するので、それが一定の効果をもってくるともいえる。
・もう少し広い議論では、特定の会社にアクティビストが働きかけると、その提案内容が妥当であれば、パッシブの株主が賛同するので、株主提案が通ってしまうかもしれない。
・東証で市場変更が準備に入っているが、例えばプライム市場に移行できない企業や、移行しても十分な基準が達成できない企業は、インデックスからはずれていく。
・東証1部のインデックス(TOPIX総合)など、主要なインデックスからはずれるということは、インデックス売買がなくなるので、流動性が低下し、株価の買い支え効果も減少して、結果としてその個別株の株価は下がる可能性がある。
・株式市場では、多様な投資家が目を凝らすことで、企業価値に見合ったフェアバリューが形成されるはずであるが、パッシブが増えてくると、ETFが株価の買い支えで個別企業を過大に評価することになりかねない。あるいは、過少に評価することも十分あり得る。
・インデックス型のパッシブ運用は、インデックスとのトラッキングエラー(追随誤差)を減らして、インデックスをそのままトレースすることが最大の目標である。それ以外のコストは最小にしようとする。
・企業のガバナンスやファンダメンタルズを評価して、議決権行使やエンゲージメント(対話)を行うといっても、その陣容は限られたものになり、エンゲージメントも特定の企業に限られよう。
・パッシブ運用には、ポートフォリオとしての資産配分機能や個別企業の価値に対する価格発見機能が発揮されないから、パッシブ運用の規模が大きくなってくると、弊害が目立ってくるともいえる。
・インデックスといってもいろいろある。例えば、JPX日経400は、ROEを加味したインデックスである。ESGを評価するインデックスもある。よって、どのインデックスを選ぶかという段階で、すでに投資判断が入ってくる。
・企業サイドからみると、自社の企業価値に目を向けて安定株主になってもらうには、1)有力なパッシブインデックスに入っておく必要がある。2)そのインデックスに入る条件があるならば、それをクリアできるように企業内容を改善し、開示のレベルを上げていく必要がある。
・さらに、3)それだけではフェアバリューとの乖離が生まれる可能性があるから、アクティブ投資家、個人投資家などに十分なIR活動を行う必要がある。自社をよりよく知ってくれる株主、投資家を増やすために、しっかりしたアナリストとの対話も増やすことが求められる。
・このようにみると、自社の目指すべき方向を明らかにした上で、戦略的な株主作りが必要である。これも企業価値向上に向けた重要な戦略である。